東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。
クリエイティブディレクター 引地耕太さん
「空気のデザイン 対話を通して世界をつなぐ」
2025年大阪・関西万博「EXPO 2025 Design System」のクリエイティブディレクター・アートディレクターとして注目を浴びる引地耕太さん。未来を見据え、領域に縛られずに活動する引地さんにとっての、これからのデザインのあり方を伺った。
“ハブ”としてのデザイナー
――SNSでの積極的な発信活動の目的や背景にある想いについて教えていただけますか。
コロナ以降、横のつながりや先輩と若い世代との情報共有が大事だと思うようになったんです。どんな信念や意義を持って社会をつくっていくべきかを、クリエイターだけでなく一般の人々にも共有して、問いかけ、対話することが大事。そして、そうしたことを「みんなと話す場所」がSNSだと考えています。
――デザインが専門でない人とチームを組むことが多いと思いますが、その場合デザイナーはどのように動き、どのような価値を生み出していくべきでしょうか。
デザイナーの役割は「かたちにすること」です。スケッチやプロトタイプをつくることで意見が集まり、対話が生まれます。ただ言われたことをかたちにするのではなく、本質的な価値を考えてデザインし、フィードバックをもらいながら、より良いものにしていく。ゴールを目指しビジョンをつくるための“ハブ”となることで、デザインを専門としない人にもデザインの力を与えることができる。それがデザイナーの強い武器だと思います。
――以前、「正論は共感を生まない」という主旨のポストを拝見しました。では、クリエイターとして大切にすべきことは何でしょうか。
サステナビリティとか、地域や環境のためという社会的意義は素晴らしいことですが、みんなが横並びで同じようなことを話していて、正しいことをしているにもかかわらず響かない。そんな矛盾した状態になっていますよね。そもそも人間はワクワクするものや、直感的に「素敵だ」と感じること」に共感を覚えます。だから、社会的意義の前提として、どれだけ人の心を動かすかということがある。自分たちのパッションや届けたい価値を前面に出しつつ、その先に社会的意義を紐づけていく。そうすることで、自分が素敵だと感じたものが、実際に素晴らしい取り組みにつながっていく。この構造をデザイナーが力を合わせてつくっていく必要があると思います。
発信する人間の責任
――他者と共創しながら大きなイベントをディレクションするにあたって、どのようなことを意識していますか。
社会の良い側面に目を向け、それを言葉に出して人に伝えていくことを意識しています。広義にいうと「空気のデザイン」みたいな感じ。社会の空気感を冷静に、かつメタ的に見たうえで、どうすればポジティブな空気を社会に纏わせることができるのか。少なくとも僕らのように世の中に発信するタイプの人間はこうしたことを責任持ってやらなくてはいけないと考えています
――ポジティブな社会をつくっていくために私たちにできることは何でしょうか。
僕が大事だと思うのは、多様な声を拾う場をつくることです。普段は声を上げない人も意見を言いやすい環境を整える。SNSはフィルターバブルが強くて、どうしても自分好みの情報だけが集まってきてしまうので、リアルな場で話すほうがいいですよね。実際そうやって動いてみると、今まで知らなかった視点とつながる瞬間がある。イノベーションって、異なるもの同士が混ざり合うことで生まれると思うんです。人間だって同じで、似た者ばかりでは新しい未来は生まれない。批判ではなく批評精神を持って、みんなで共生する方法を考えていきたい。
――デザインを学ぶ学生にアドバイスをお願いします。
最初から絞らずに、やりたいと思ったことを全部やってしまえばいいんじゃないかな。僕もひとつに絞るのが嫌で、クリエイティブディレクションという観点から、リアルとデジタルを統合して世界をデザインしていくことを始めました。掛け算的にやってきたことが強みになって、今の仕事につながっています。テクノロジーも含め、いろいろなものを組み合わせながら、オリジナルの道を探っていくのが面白いと思います。
――最後に2025年大阪・関西万博の見どころを教えてください。
ある種世界旅行ですよね。各国のパビリオンを見るだけで、広い世界をコスパ良く体感できるんじゃないかな。リングに上がって、斜め上から世界中の建築家がつくった個性豊かなパビリオンを見るのも面白いです。(取材・文・写真/東京都立大学 インダストリアルアート学域 兼村小晴、清水勇希、徐驍威、谷合望々、田鎧瑞、鳥生菜々子、本多こころ、横須賀陽希、 建築学域 加治木陽菜、瀬底実理)
引地耕太/クリエイティブディレクター。1982年生まれ。ブランド戦略とイノベーション創出を専門に、デザイン、アート、テクノロジー、ビジネスの領域を越えて活動。大学卒業後タナカノリユキ氏のもとで活動を開始。その後、デジタル・エージェンシー1→10にてNIKEやBOSE、TOYOTAなど数々のグローバルブランドのクリエイティブからエンターテイメント開発、アートプロジェクトなどを担当。2020年同社のECD(エグゼクティブクリエイティブディレクター)に就任。2022年独立し、現在「VISIONs」「COMMONs」代表。2025年大阪・関西万博デザインシステム「EXPO 2025 Design System」クリエイティブディレクター・アートディレクター。