外部デザイナーとして企業文化の継承に思いを馳せる北川大輔。
目指すのは“心地よい革新”

デザイナーの北川大輔は家電メーカーを経て、2015年に独立して自らのスタジオ、DESIGN FOR INDUSTRYを設立した。プロダクトデザインを中心に手がけ、今年で活動11年目を迎える。近年の大きなトピックは、2024年に世界的な家具ブランドのカッペリーニからテーブル「Floe」が発売されたことだろう。一方で、日本のものづくりの魅力を国内外に発信するHIGASHIOSAKA FACTORies(東大阪ファクトリーズ)やpirkamonrayke(ピリカモンライケ)といったプロジェクトにも尽力している。これまでの道のりと今後の展望を聞いた。

「KUMA」pirkamonrayke(2022)。北海道土産で知られる木彫りの熊を再解釈。青漆、赤漆、金箔、プラチナ箔といった4種類のバリエーションがある。Photo by Masaki Ogawa

金沢美術工芸大学でデザインに出会う

北川は1982年に滋賀で生まれた。祖父が縫製業を営み、父が仏壇の製造販売に携わっていたからか、自身も小さい頃からものをつくることが好きだった。中学生のときにはイサム・ノグチの作品集を見て感銘を受け、彫刻家を志した。

その後、美術大学彫刻科の試験にはなかなか受からなかったが、受験に向けて通っていた画塾の先生から製品デザインという分野があることを教えられる。金沢美術工芸大学を勧められて受験したところ、晴れて合格。大学で学びはじめてすぐに、デザインの面白さに気づいた。「『手で考え、心でつくる』という大学の理念のもと、ひたすら手を使ってつくり、そのなかから気づきや学びを得るという体験は、今も仕事に生きています」と北川は語る。

「trifle」Time & Style(2016)。雑誌や小物を入れられ、サイドテーブルやゴミ箱としても利用できる。iFデザインアワード、ドイツデザインアワード優秀賞を受賞。Photo by Masashi Akiba

若手登竜門サローネサテリテへの挑戦

デザイン誌『AXIS』の先行開発デザイン特集を読んで、取り組みが面白いと感じたNECデザインに2005年に就職し、パソコンや携帯電話、BtoBのデザインに携わった。次第にひとつのプロダクトを0から10まで自分ひとりで手がけて世の中に問うてみたいと思うようになり、2011年からDESIGNTIDE TOKYOに参加。そこで多彩なジャンルの人と知り合い刺激を受け、独立を意識しはじめる。

その後、「ミラノのサローネサテリテへの出品が決まったら独立しよう」と決意する。サローネサテリテは若手の登竜門として知られ、世界的に活躍するチャンスをつかむことができる場だ。北川は2014年秋にエントリーして冬に出品が決まり、2015年1月に退職して、4月に株式会社DESIGN FOR INDUSTRYを設立した。

「leafee series」Strobo INC.(2017〜)。誰もが簡単に始められるホームセキュリティサービスの製品群。空間の中で主張しすぎない「丁寧な簡素さ」をコンセプトに、ラウンドスクエアを基本型に機能・大きさ・設置状況に適した造形と細工を考えた。Photo by Hisashi Kudo

2015年の独立後から、サローネサテリテに3年連続で出品。欧州メーカーにターゲットを絞って彼らの生活に合わせた企画を考え、製品化しやすいようにと試作会社と相談してつくりやすさや精度の高さにもこだわった作品で挑んだ。その中からいくつかのプロダクトが国内外で製品化された。

2018年以降は、毎年新たなデザイン案を複数もって、ミラノデザインウィークの時期に自分が仕事をしたいと思うメーカーにプレゼンして回った。2022年12月にはカッペリーニのクリエイティブディレクター、ジュリオ・カッペリーニから初めて返信をもらった。2017年にデザインした「Floe」を製品化したいという連絡だった。途中でカッペリーニからの返信が何度か途絶えながらも、諦めずにコンタクトを続けた。そして、ついに2024年4月に発売が決まった。「ジュリオが新進気鋭のデザイナーを起用し、彼らが世界に羽ばたいていった姿を数多く見てきました。カッペリーニは私のなかでも特別な存在だったので、製品化が決まってとても嬉しかったです」と北川は率直な想いを語る。

「Floe」カッペリーニ(2024)。ガラスの天板を2枚に分けることで、使い手が自由にアレンジできるようにした。カラーガラスの重なりや周囲を映し出す鏡面ガラスにより、空間に広がりと豊かな表情をもたらすことを意図している。Photo by cappellini

日本のものづくりを世界に向けて

北川は海外ブランドと仕事をする一方で、日本のものづくりの魅力を国内外に発信するプロジェクトにも携わっている。

pirkamonrayke(ピリカモンライケ)は、卓越した木工技術を誇る北海道旭川のササキ工芸が日本有数の産地と協働し、日本のものづくりの新たな可能性を世界に提示するというもの。北川はコレクションを構成するすべてのアイテムのデザインを担当。もともと寺社仏閣や日本美術を見て回ることが好きだったが、このプロジェクトを通じて日本の伝統技術や意匠を改めて深く見つめ直す機会になったという。その第一弾として、2022年夏にササキ工芸の木工技術と京都の若林佛具製作所の伝統工芸の技術をかけ合わせたコレクションを発表した。

pirkamonrayke(2022)。旭川のササキ工芸の木工技術、京都の若林佛具製作所の工芸技術のほか、国宝・重要文化財、工芸・民藝、アイヌの伝統民具などのさまざまな意匠を参照し、試行錯誤を重ねて生み出した。Photo by Masaki Ogawa

「CHESS SET」pirkamonrayke(2022)。駒には青漆と赤漆を施し、盤面には京都の伝統技法の截金(きりかね)という、細く切った金箔で繊細な文様を描いた。Photo by Isao Hashinoki

普段から北川は、クライアントが今抱えている課題を解決するだけでなく、今までやってこなかったような技術や手法をすくい上げることを心がけている。「新しいチャレンジをして、そのノウハウが確立されれば、彼らのものづくりの幅が広がり、技術はもちろん事業をさらに発展させることができるからです」とその理由を語る。

pirkamonraykeのプロジェクトでは、最初にササキ工芸の工場を訪れた際に、彼らが使う機械で3軸の切削加工ができることがわかった。また、京都ではちょうど透き漆の新たな可能性を模索していたことから、これまでになかった青い透き漆を生み出し、両者の技術を合わせて熊のオブジェやトレイなどを制作した。

「LINE UNIT SHELF」仁張工作所(2022)。特注板金のBtoB製品を手がける仁張工作所と協働し、小売店舗やスモールオフィス、居住空間などを対象に、幅広い層が使用できるような新たな市場の定番となり得るユニットシェルフシステムを考えた。Photo by Mitsuru Sakurai

クライアントのため、産業のためのデザインを

2017年からスタートしたHIGASHIOSAKA FACTORies(東大阪ファクトリーズ)のプロジェクトは、東大阪の多彩な技術や創意に富んだものづくりを国内外に広く発信することを目的としている。そこで北川は事業の企画・立案、立ち上げ、コンセプトの策定、事業を運営するクリエイティブチームの招聘、参加企業の募集・選定、参加デザイナーの招聘、展示会でのブースデザイン、ウェブサイトなど、包括的なクリエイティブディレクションに携わっている。

また、2025年1月にアルフレックスジャパンから発表された、サイドテーブル「KEYSTONE」は同社にとって初めての試みとなる余剰コンクリートを活用したものだ。北川はメーカーとどういうものがつくれるか形状や製法を含めて話し合うところから始めて、アルフレックスらしさやほかのラインナップとも調和するデザインの検討を重ねた。

「KEYSTONE」アルフレックスジャパン(2025)。余剰コンクリートを利活用し2つの円錐形が向かい合う「REV」と、直線的な面と線で構成された六角柱の「HEX」の2種類がある。Photo by arflex

北川は、それぞれの企業文化の継承に思いを馳せ、クライアントに寄り添いながら広い視野で製品デザインに取り組むことを心がけている。自身のスタジオ名「DESIGN FOR INDUSTRY」には、クライアントのために、産業のためにデザインしたいという想いが込められている。

「日本各地には、素晴らしい素材や技術をもとにものづくりを行う企業が無数にあり、そこに大いなる可能性を感じています。そういう人たちのために、私はデザインを通じて全力で応えたい。彼らがデザインによっていい方向に展開できれば、新たな人を雇ったり、新しい設備を導入したり、新規事業に挑戦できるかもしれない。そこで働く人々が日々豊かな生活を送ることができ、産業全体が発展することを目標に尽力したいと考えています」。

「essent」タカタレムノス(2024)。子どもにもわかりやすく時間を認識できるように、分秒の数字も入れて、時針・分針・秒針を色分けした。文字盤には厚紙に2種類の箔押しと空押しを施し、奥行きのある表情を生み出している。iFデザインアワード2025を受賞。Photo by Isao Hashinoki

北川は自身の目指すデザインについてこう語る。「新しい価値を生み出したいといつも考えています。それはただ目新しいものや突飛なものではなく、生活のなかに取り入れたときに心地良さを感じる、『心地よい革新』が目標です」。

今年活動11年目を迎えて、次のステージに歩みを進めることを考えているという。近年興味を抱いているのは、海外の伝統工芸、良質で豊かなラグジュアリーのものづくり、空間デザイン、医療機器のデザインなど。産業全体を盛り上げ、未来につなげる視点をもって、今後もさまざまな分野で革新を起こしていってほしい。End

北川大輔(きたがわ・だいすけ)/デザイナー。1982年滋賀県生まれ。2005年金沢美術工芸大学デザイン科製品デザイン専攻を卒業。NEC DESIGNを経て、2015年DESIGN FOR INDUSTRYを設立。家具や日用品から伝統工芸、家電、ロボット、先端技術研究開発、新素材開発、ビジネス開発、都市ブランディングなど多彩な領域で“心地よい革新”という視点のもと、デザイン、クリエイティブディレクションを行う。グッドデザイン賞、ドイツデザイン賞、レッドドットデザインアワード、iFデザインアワードなど受賞多数。グッドデザイン賞審査委員。