東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。
グラフィックデザイナー 岡崎智弘さん
面白がることが、新しい世界を開く
コマ撮りアニメーションや展示のディレクションなど、視覚伝達領域で幅広く活動を行っているグラフィックデザイナーの岡崎智弘さん。日々どのように世界と向き合っているのか、事務所近くの自然に囲まれた公園でお話を伺った。
経験が新しい発見を生む
――印刷物からアニメーション制作まで幅広く制作をされていますが、学生時代から現在の活動へのつながりを教えてください。
僕は大学で、シルクスクリーンや銅版画など、さまざまな授業に積極的に参加しました。アニメーションや映像をやっていたのですが、そのときはあまり興味がありませんでした。でも、いろんな経験をして本当に良かったと感じています。それらが直接仕事につながっているかどうかはさておき、一度でもやってみたという経験がすごく重要で、今では大いに役立っています。
毎日行っているマッチの投稿(2021年からSNSに投稿しているマッチ棒を使ったコマ撮りアニメーション)も、技術的に上達するためではなく、「こうしたらどうなるのか?」ということを試しているんです。細かいアイデアであっても、それを大きなテーマで10年続けたらどうなるかという興味もあります。やってみなければ生まれないものがあるので、率先してやっています。
――他の誰かがすでにやっていたとしても,自分の中に落とし込むために、自らやってみようという感じでしょうか?
そのとおりです。結局のところ、何かを考えるときは自分がこれまでやってきたやり方の延長でしか考えられません。だからこそ、ありきたりなことや前例があることでも、他人がやっているからといって、そこで止めずに、もっと広げたり変えたりして、新しい発想にたどり着くことがデザイナーとして重要だと思います。
気づいちゃった、これ面白い!
――自主制作はもちろん、クライアントワークも多数手がけられていますが、クライアントワークにおけるこだわりなどはありますか?
あまりないですね。自分の外にある面白いものに触れたり、考えたりするきっかけをもらえるのがデザイナーの楽しいところだと思います。自主制作やクライアントワークを問わず、自分の表現物としてではなく、この世界をどう見るかを考えて、その見方をデザインしているだけなんです。外の世界はとにかく凄くて、面白いことが溢れているし、それを見つけるのが仕事だと思っています。そう捉えると、世界にはいろいろな要素がほぼ無限にあるので、ずっと楽しんでいられます。
――そういった”見ること”というのは、学生時代から大切にしてきたのでしょうか?
癖になっていると思います。若い頃、アイデアに行き詰まると、自分の中だけで考えるのではなく、本や雑誌など“外の世界”から発想を得ていました。今はそれを、自然現象や身近な当たり前のことからもらっています。普通のことの中にこそ面白さがあって、例えば「美味しい」と感じるとき、その美味しさとは何なのかを考えるのが楽しいんです。大事なのは、「気づいちゃった、これ面白い!」と思える瞬間をどれだけ見つけられるか。それが自分だけの視点なら、なおさら豊かな気持ちになれる。他の人が面白く感じなくてもいいんです。無理やりにでも何かを面白がることに意味があって、そういう視点を持つことで、新しい発見のチャンスが広がる。さまざまな見方ができるほうが、豊かな生き方だと感じます。
思いどおりにならないことを楽しむ
――常にポジティブな思考で動かれているという印象を持ったのですが、行き詰まったときはどう打開していますか?
どんなこともデザインのマインドで向き合えば解決できると考えています。もちろん、不安とかプレッシャーがないわけではないですが、デザインの仕事では必ず何らかの解決が求められます。うまくいくまでやりつづければ、自然と次につながる。だから、今は「やっていけばいいじゃん」と前向きに取り組んでいます。
この世界は基本的に自分の思いどおりにはならないし、コマ撮りでも自分の思いどおりのかたちを維持できない。でも、そのうまくいかない外側の世界そのものが面白いし、それを面白がるのが、今の時代のデザインだと感じています。常に動きつづけるものと向き合いながら、どうすればいいのかを考えるのが生きることそのものだと思うんです。
――最後にデザインを学ぶ学生たちに向けて一言お願いします
あんまり心配せず、みんな自分の思うようにやればいいと思います。自分なりのやり方、いわゆる”型”を持つことはもちろん大事ですが、それにとらわれずに視点を多様かつ柔軟に変えて、試すことが大事なんです。そうやって広げていった先で、きっと自分にすごく合うものに巡りあうと思います。やればやるだけ自分が得るものがあり、それを人に見せたり、人とつながったりすることで、思いもよらない世界と出会えるきっかけになる。それはものをつくることの特権だと思います。
さまざまなタイミングで、本気で取り組む。そうやって、真面目に向き合っていれば、人が見てくれるきっかけがつくれるし、つくったものが自分を助けてくれて、次へとつながっていくと思います。(取材・文・写真/東京都立大学 インダストリアルアート学域 齊藤朱音、佐藤水梨亜、南雲琴寧、西森千珠、ホーケン舞理衣、和田 颯、劉峻赫、建築学域 櫻井 萌、行川 慧)
岡崎智弘/1981年神奈川県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。広告代理店、デザイン事務所勤務を経て、2011年9月デザインスタジオSWIMMINGを設立。グラフィックデザインの姿勢を基軸に、印刷物、映像、展覧会など視覚伝達を中心とした領域を柔軟につなぎながら、文化と経済の両輪でデザインの活動に取り組んでいる。代表的な仕事に、Eテレ「デザインあ 解散!/集合!コーナー」の企画制作、「紙工視点」「ゴミうんち展(21_21 DESIGN SIGHT)」のアートディレクション、「デザインあ展」「虫展-デザインのお手本-」の展示構成など。著書に「解散!の解/解散!の散」(ポプラ社)、「デザインあ 解散!」(小学館)。主な受賞歴に第25回亀倉雄策賞、ADCグランプリ、東京TDC賞など。