COVER STORY
黒河内真衣子(ファッションデザイナー)

Photo by masashiro sambe

その1着が誰かの人生をどれだけ豊かにできるか。 クローゼットにずっと残したいと思えるものであることを大事にしたい。

デビューから早14年。黒河内真衣子が手がけるMame Kurogouchiは、国内の産地と技術を深掘りして開発したテキスタイルを用い、その凝ったディテールと繊細な表現、さらに曲線の美しいフォルムを同時に生み出すことで、独自の世界をつくりだしている。現代的な新しさがありながら伝統的な懐の深さもあり、エレガンスも備える。まさに手を伸ばして、着てみたくなる服なのである。シーズンごとにテーマを決め、リサーチを重ねて、服に落とし込む。2025年のテーマは「Katachi(かたち)」。大事にしているのは日常の情景や自身の感覚というが、独自の世界はどのように構築されているのだろうか。そのデザイン視点を覗き見る。

さまざまなかたちが等価になっていくという発見

──Mame Kurogouchiは毎シーズン、テーマを決めてコレクションを発表しています。ファッションは流行であり、先を示すことが期待されるなか、黒河内さんはリサーチに重きを置いていらっしゃいます。それはなぜですか。

ファッションは1年に2回コレクションを発表するという、すごく忙しい産業なので、私自身はあまりその中に飲み込まれて制作したくないと思っています。実際に、作品ができるまでの時間が私にとってはとても大切なものなので、源泉となるリサーチは重要なんです。今は1年にひとつテーマを考えて、短いと1年、長いと数年かけてリサーチしています。ある程度、機が熟したら発表しています。