#02 文明のかたち
台北・国立歴史博物館の遺物

この連載は、現在よりも時の流れがずっとゆっくりしていた遥かな昔、古代と呼ばれる時代を振り返る時間旅行の試み。なるべくゆったりとした気持ちで、モノの形やその背後にある感覚・思考に想像を巡らせてみたい。

国宝「獸形器座」

古の時代から、人類は実に多様な文化を生み出してきたが、「文明」と呼ばれるものは限られている。一般的に文字の使用は文明の条件と考えられているが、大河周辺に誕生した四大文明のなかで、現在でも同じ文字体系を使用しているのは漢字文化圏のみである。メソポタミアの楔形文字やエジプトの聖刻文字(ヒエログリフ)の解明物語は有名だが、意味が解読されていても、メールのやりとりに使うわけにはいかない。およそ3300年前に中国で生まれた文字体系を使いながら、PCで原稿を書けているというのは、考えてみれば驚くべきことである。 

冒頭の一字、連載のタイトルにも含まれる「古」は、「十」と「口」を組み合わせてつくられている。漢字を習ったことがある人なら、口を開けた形を象っているのが「口」という字で、すなわちそれが象形文字の成り立ちだと覚えているだろう。漢字の常識といっていいが、それを疑問に思った人がいる。日本を代表する漢文学者のひとり白川 静は、口はことばを発する器官ではなく、ことばを入れておく容器ではないかと考えた。