制約が生むサステナブルな山岳建築

登山者に欠かせないのは装備だけではない。宿泊や休憩のための山小屋、そして避難所。安全を提供してくれる山岳建築だが、その設計や建設には多くの制約や課題がつきものだ。輸送方法や物資が限られ、強風や雪崩など過酷な気象に耐える必要もある。独自の発展を遂げてきた山岳建築の歩みと、最新の事例を紹介する。

イタリアの建築設計事務所EX.によるピンウィール・シェルター。

4日間で組み立て可能なシェルター

イタリアン・アルプスの雪に覆われた山の上に、上空から見ると風車のような形をした山小屋がある。イタリアの建築設計事務所EX.が生み出したピンウィール・シェルター(2023年)だ。このシェルターは、山小屋建築がいつも直面してきた問題をデザインで解決し、さらに環境保全にも配慮した例と言える。

EX.が、このシェルターに着手した際に目標としたのは、建物全体が軽量で環境に負荷をかけないことと、建設と解体が簡単にできることだ。台座の上にスチールの基礎、さらにその上に直交集成板(CLT)で構造がつくられ、アルミニウムがそれを覆って外壁を構成している。組み立て期間はたった4日だ。風車のように折り畳まれた形状は、ここで求められるプレハブ工法と構造要素を追求するなかで、折り紙のような折り方を何通りも模索した結果だという。内部は赤く塗られ、外部の景色と対照を成し、また折り込まれた空間が切り取る風景はここでしか体験できないものだろう。