リビング・モティーフで10月3日(土)から11月5日(火)まで開催されている「日本の道具」展、実は今回で10回目となる。筆者は会社員(1998年に解散した松屋商事株式会社・当時はiittalaの代理店)だった1995年頃、リビング・モティーフに業者として出入りしていた。その後も個人事業主の筆者と取引口座を開いてもらえたことは、独立したての身には大きな励みとなった。こっそり、一取引先として裏方にいるつもりだったが、10年前に企画協力の相談を受けたときは嬉しさのあまり信じられない気持ちで、それがまさか今年まで10年も続く企画になるとは思っても見なかった。あくまでも主体はお店で、企画協力の立場なのだが、「作家の中継ぎ役の人間がどんなことを考えているかを見せましょう」と、今回は「私の道具」と言うコーナーもつくっていただいた。3つのコーナーと、蔵書を持ち込んだので、賑やかしとしてご覧いただければ幸いだ。
とはいえ、主役はつくり手たち。会期も残りわずかだが、10名をピックアップしてご紹介しよう。
Luft(沖縄)
「私の道具」コーナーの机と棚はLuftの製品。デザイナー真喜志奈美さんの製品は、そっけないけれどカッコ良い。本を展示している「鳥籠をイメージしてつくった」という棚は、通常より薄い15mmのラワン材を使い、隙間があり、軽やか。掃除もしやすく、風が通るのも良い。道具を展示している750mm四方の棚は、縦、横を置き換えると仕切りの位置が変わる。筆者は大きな枠には土鍋、小さな枠にはトレイを入れて重宝している。片付け下手も自然と片付けられる不思議な力を持っている棚だ。
あづかり処 福虫 坂根雄心(福島)
京都で生まれ、岩手の安比塗漆器工房で塗頭(ぬりがしら)を果たしたのち、妻の郷里である福島に移り住み、現在は会津塗の地で活動をしている坂根さん。
屋号のあづかり処とは「漆塗の技術や経験値のほぼ全ては、先人から受継いだものであり、私のものでも実力でもありません。自分への戒めであり、次へ繋ぐものだ」という考えから。福虫とは「地味で小さく見ようとしないと見えない様な存在が幸せをはこんでくれるのではないか? そんな、福虫がいて欲しい」という思いからつけているとのこと。
増子菜美(福島)
展覧会にインパクトを与えたリーフレットの表紙にもなっている蛸の描かれたお椀は、益子さんの作品。夫の坂根さんとは岩手の安比で学んでいる際に知り合い、その後、地元の福島で会津漆器も学んだ。会津漆器独特の技法もあり、さらに世界が広がったとか。素地の塗りは坂根さんが担当しているので器は増子さんと坂根さんの合作だ。今も地元の仕事もこなしながら作家活動をしており、「漆漬け」の日々と笑う。
小川哲男(佐賀)
小川先生のお名前を存じ上げずに、熊本の伝統工芸館で、作品を拝見し、一目惚れした。のちに、ご本人とご挨拶でき、先生自身にも惚れ込んだ。80歳を超えた今でもスッとした佇まいが素敵な方だ。普段「伝統工芸」の世界で活躍されている方の作品は貫禄が違う。美味しいものが大好きで、呑むのも大好きな小川先生の作品は、料理が映え、酒も美味しくいただけること、間違いない。
桶屋近藤(京都)
10月19日、20日と2日間、会場で実演をしてくださった近藤さん。腕のいい職人さんが、きっちり研いだ鉋で木を削るとこんなに心地良い音がするのか、と驚いた。28歳の遅咲きのスタートだったが、社会経験を積んでからの修行だったからこそ、全身を耳にして多くのことを学ばれ、今に至っているという。乾燥から木取りまで、古来からの木の扱いを守り美しい品をつくりつづけている。
菊地大護(富山)
中学のときにテレビで見たガラスの職人さんの姿を見て将来を決めたそう。初志貫徹でガラス一筋。ガラスが好きでずっと吹いていたいと目をキラキラと輝かせながら、ガラスの美しさを語ってくれた。「吹きガラスの良さは、空気を入れて膨らんだ感じが良いと思っている」と言う菊地さん。究極の薄吹きを吹くのは、空気を内包するような感じを出したいからだそうだ。ガラスの美しさのひとつに“影”がある。「どうやってこの影ができるかも考えて見てくれる人がいたら嬉しい」と語っていた。
斎藤幸代(兵庫県)
有田で技術を身につけ、現在は淡路島の古民家で作陶を続けている。「型打ち」は、ろくろでひいた生地を石膏型に打ち付けて、角皿などの不定形の器を量産するための技法。斎藤さんはその石膏型に柄を彫り込む。彫りの凹凸にオリジナルレシピの釉薬がたまり、その濃淡がとても美しい。小皿のバリエーションを柄違いで集めても、食卓で楽しめる。
谷道和博(千葉)
筆者が勝手に神格化していたガラス作家。1948年生まれの74歳だが、この方の動きは年齢を感じさせない。しかし各務クリスタルで職人をされていた時のお話を伺うと、一緒に仕事されたガラス界の重鎮の名前がどんどん出てきて、重ねられてきた年月が感じられた。作品は技法を駆使しながらも軽やかでエレガント。アシスタントなしで、ステムグラスも柄も楽々とこなす。16年の工場での仕事の経験に裏打ちされた美しさ。ぜひ、実物をご覧いただきたい。
nijiiro(三重)
元々古道具も扱われていたnijiiro。コロナ禍に、手に入れた琺瑯の道具と材料を片手に自らも琺瑯をつくり始めた。ただし素地は銅。鉄板だと素地が出た時に赤錆が厄介だが、銅は緑青が出ても毒ではないし、磨けば簡単に取れる。「オーブンにも入れられますよ」と本人たちは、道具として経年変化を楽しんでもらいたいそう。琺瑯でしかあり得ない薄さと熱伝導の良さ。食卓の彩りのバリエーションにぜひ加えて欲しい素敵な器。
兵頭侑亀(愛媛)
陶芸を始めてまだ数年、という兵頭さん。愛媛県の焼き物の産地、砥部町の陶芸家・池本惣一さんを訪ねた際、彼のショールームに気になる染付を発見。尋ねたところ「腕はいいのに、露出しようとしないから、僕が売り出そうと思っている」と聞き、その売り出し作戦に名乗りを上る。自分の土地の土で磁器をつくれる稀有な産地、砥部に感謝しながら、自分を陶芸の道に誘ってくれた初期伊万里への想いを胸に、今日もつくり続けてる。
輪島キリモト
「日本の道具 積み重なる道具は、暮らしの記憶」展
- 会期
- 2023年10月3日(木)〜11月5日(火)
- 会場
- 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル1F リビング・モティーフ
- トークショーの様子はこちら
- Vol.1 Luftのおふたりと
Vol.2 家具について
Vol.3 暮らしのヒント