REPORT | アート / プロダクト / 展覧会
2024.10.31 12:00
東京の街全体が“ミュージアム”になる10日間——表参道、原宿、渋谷、六本木、銀座、東京駅周辺などを舞台に、アート、建築、インテリア、ファッション、フード、テクノロジーといったさまざまなジャンルの垣根を超えた斬新なクリエイションが世界中から集結する「DESIGNART TOKYO」が今年も開幕した。会期は10月18日(金)から27日(日)までで、2017年にスタートしたDESIGNART TOKYOは今年で8回目。2024年のテーマは「Reframing —転換のはじまり—」を掲げ、既存の枠組みや視点を見直し、物事を新しい視点から捉えることに焦点を当てた。96の会場で117の多彩な展示のなかから、注目の展示をピックアップしてレポートする。
東京のメインストリートのひとつでもある青山通りに面したワールド北青山ビルでは、オフィシャルエキシビジョン「Reframing展」を開催。アート、デザイン、クラフト、テクノロジー、それぞれの分野で活躍するキュレーター、金澤韻、川合将人、立川裕大、青木竜太の4人がキュレーションを担当。樂茶碗の魅力を化学的に再解釈したnendo「junwan」、伝統工芸士と共に創作した舘鼻則孝の「TRACES OF A CONTINUING HISTORY SERIES」など、18組のクリエイターの作品からメインテーマ“Reframing”を体感できた。
沼田愛実 × sync株式会社|Sky Pocket
今年6月に青山通りにオフィスを移転した内装と設備の設計施工会社syncのギャラリースペース「sync public」では、画家・沼田愛実の個展「Sky Pocket」が開催された。地図や静物をモチーフに人生をひとつの旅路と捉え、物語性のある作品を描く沼田。もともとモノクロを基調とする作品を多く制作していたが、山口県萩市を拠点に自然のなかで制作することで、「空」をコンセプトにした色彩豊かなシリーズを展開するように。東京の街を描いた大型作品は、空が最も美しく変化する瞬間を捉えたもの。マスキングテープを使って表現された道や川が、カンヴァスに網目のように広がる。オフィスの一角に浮かび上がった鮮やかな空——そこには色と形と線と、無限の組み合わせから自然のリズムと作家の感性が重なりあう瞬間がおさめられる。
CREATE MORE FUN | ソニー
青山にある上海発家具ブランド・ステラワークスのショールームでは、ソニーのクリエイティブセンターによるCMF(Color=色、Material=素材、 Finish=仕上がり)の可能性をフィジカルとデジタルの両面から探究する体験型展示「CREATE MORE FUN」が展開された。デザインの印象を左右するCMF(Color=色、Material=素材、 Finish=仕上がり)を含むトレンド分析や、フィールドリサーチをこれまで行ってきたクリエイティブセンターでは、キーワード、ビジュアル、カラーパレット、サンプル素材をクラスターごとにまとめた「CMFフレームワーク」を毎年作成している。このツールはデザイン観点からの未来予測として、これまでソニーの多くのデザインに生かされてきた。会場ではこの「CMFフレームワーク」をインタラクティブなデザインツールとして体験できるデジタルな展示が来場者の注目を集めた。
Tiers Gallery
ワイヤー固定金具「ワイヤーグリップ」専門メーカーである荒川技研工業が運営する「Tiers Gallery」。ワイヤーの手すりが張られたギャラリー空間に展示されるのは、将来が期待される30歳以下のクリエイター4組によるインテリアプロダクト。HOJO AKIRAは、さまざまなマテリアルで構成されるため、分解が難しいとされるソファに注目。分解性を考慮した構造と、再利用を目的とした素材によるプロダクトを展示した。豊嶌力也、多木翔夢、三井大輝からなるPULSEはモノづくりの本質的な価値を見直すプロジェクトに挑戦。ガラスを通した光の出入りに着目した豊嶌力也は、模様やテクスチャが施された“昭和レトロガラス”を素材にした「双明」を発表。懐かしいような温かい光が会場を照らした。
Being 家具が居ること | 乃村工藝社
表参道GYREの4F——フロアに緑が生い茂り、壁や床に土が塗り込まれた空間で展示されていたのは、空間総合プロデュースを手がける乃村工藝社の「Being 家具が居ること」。家具が長く大切に使われるためにはどんなデザインであるべきか。そんな人とモノとの関係性を再考するなかで生まれた実験的な家具は、使い手の意識を“所有する”感覚から“ともに暮らす”感覚へ変化させる、いわば“愛着”が芽生えるような家具たちだ。きむずかしい椅子「dohdoh」や、気まぐれなテーブル「iii」など、あえて不安てにすることで座り方や載せ方を使い手に考えさせるような家具。けっして頑丈なわけでもなく、機能的に秀でているわけでもない。だけどどこか人間味があり、愛らしさを持ち合わせた家具が並び来場者を楽しませた。
プロダクトデザインとその裏側 | Takram
コクヨのハサミ「HASA」、平安伸銅工業のシェルフシステム「AIR SHELF」など、さまざまな分野のメーカーのプロジェクトに携わってきたデザイン・イノベーション・ファームTakram。これまでTakramが携わってきた6つのプロジェクトの“裏側”を紹介する展示。音声やテキストだけだと単純化されがちな情報を、資料やリサーチ情報、デザインの過程でつくられたモックアップやプロトタイプなどと展示することで、中間のアプローチやイノベーションの考え方などを知ることができ、Takramのデザインプロセスの、まさに“裏側”に触れられる貴重な機会となった。
Paola Lenti | nendo
今年2月に麻布台ヒルズの前にオープンした、イタリアを代表する家具ブランド・パオラレンティのショールームでは、佐藤オオキ率いるデザインスタジオnendoとのコラボによって生まれた「Hana-arashi花嵐」の家具コレクションが展示されていた。「Hana-arashi花嵐」は桜が散る瞬間をイメージしたコレクションで、パオラレンティが2002年に発表したサステナブルプロジェクト「Mottainai」の第二弾となる。ペンダントライト、バスケット、アームチェアなど、素材にはアウトドア家具用に開発したポリプロピレン製メッシュ生地「Maris」の端材を再利用している。Marisは融点が低いため少しの熱で圧着することができ、縫製や接着剤を必要としないサステナブルな素材。カラーバリエーションは180色もあり、自然をインスピレーション源とした色味は鮮やかながらも控えめな印象で、日本的カラーのイメージとも重なる。白黒で表現することが多いnendoにとって、新しい試みでもあったようだ。
アクシスギャラリー | ODS/MARUHON
アクシスギャラリーでは、家具やインテリアの素材として欠かせない「木」をベースにしたデザイナーやブランドの作品を展示。建築家・鬼木孝一郎が立ち上げた鬼木デザインスタジオ(ODS)による家具シリーズ「Forêt」は、フランス語で森を意味し、日本で古来親しまれてきた装飾技術の「組子」に発想を得た新しい表現に挑戦した作品。組子の基本模様である正三角形の構造的安定性に着目し、小さな断面の部材のみで枠を使わずに立体的に組み付け、自立させている。ヒノキ材を使用したパーティションなど、森を連想させるような作品が並んだ。無垢フローリングメーカーのMARUHONは、有効活用が困難なナラの枯れ材に着目し、虫食いによるグレー変色を自然が創り出すデザインと見立て、パネリング、家具に活用することを試みている。
日常に新しい価値観や美的体験を取り入れることで人々の視点や感性を変えたり、伝統的な技法や文化を取り入れることで過去と現代、そして未来をつなぐ表現を生み出したり、クリエイターたちの社会に対するメッセージの発信の場ともなった2024年のDESIGNART。各会場のさまざまなクリエイションを通して、デザインの力で社会問題を解決する、より心地良い暮らしを提案する、そんな未来に向けたクリエイターたちの創造性にあふれた思考、“転換のはじまり”を垣間見ることができた。