詩的工学演習|武井祥平
#2 表現とエンジニアリング

Photo by Takei Shohei

エンジニア集団nomenaを率いる武井祥平が、
日々の気づきを通じて、工学的発想やデザインとの関係を綴る。

巻き尺、メジャー、スケール、コンベックス――。さまざまな名前で呼ばれるこの道具が、幼少時代の私のお気に入りだった。握りやすく手に馴染むコンパクトな筐体。蛍光イエローの水平器が醸し出す未来感。銀色の爪を引けば、まるで異空間とつながっているかのように、テープが繰り出される。精密に刻まれた目盛りと数字。手を離すと、ジャジャジャッという鋭い音とともに、テープが踊るような軌道を描いたかと思えば、瞬く間に元の筐体に収められる。フォルム、音、手触り、そして不思議な振舞い。あらゆる点において魅惑的なそのプロダクトを、父親の道具箱から持ち出しては遊び、よく叱られた。おそらく、そういった記憶が意識の底にあったのだろう、私が27歳のときに初めて制作した作品は、巻き尺を改造してつくったものだった。