MIDビル——戦前からの人脈息づく前川國男のモダニズム建築

2、3階、二層吹き抜けの前川の所長室は、MIDビルのハイライト的な空間。鉄筋コンクリートの梁、柱は、繊細にして大胆な造形。接合部もシャープなうえ、木目を生かしたこの型枠を製造するのは、現在では不可能だという。クライアントを迎えることはあったが、所員は通常は入室できない聖域であった。

モダニズム建築の巨匠、前川國男。生前、自ら設計し本拠地とした「MIDビル」が、東京都心の四谷に現存している。ここは築70年、前川の没後約40年を経ても往時のままに保たれている、“聖地”。そして、デザイナー・柳 宗理、写真家・渡辺義雄ら戦前からの仲間たちと築いた梁山泊でもあった。

四谷に佇むモダニズム建築

数年前、四ツ谷駅付近を歩いていて、偶然、道端に「MIDビル」の表示を見つけた。そこは、外堀通りから道を入った閑静な住宅街。モダニズム建築の巨匠・前川國男が事務所を構え、活動の本拠地としたMIDビルが現存していることは情報としては知っていたが、それはまさにこの場所であったのか。

その表札看板を見ると、ビル内に入るテナントは前川建築設計事務所、横山建築構造設計事務所、柳工業デザイン研究会、渡辺義雄写真研究室。そしていちばん上にはミド(MID)建築研究所と記されている。前川建築の構造設計を担った横山不学の事務所が同じビル内にあることには合点がいったが、そこに、インダストリアルデザインの巨匠・柳 宗理と、写真の大家・渡辺義雄の事務所も入居していたことを知り、ますますこの建物への興味は募った。前川と彼らとの間には、どのような関係性があったのだろうか。