REPORT | 展覧会
2024.10.28 17:00
メゾン・エ・オブジェ パリ 2024年9月展は、2024年9月5日から9日まで、パリ2024五輪大会の余韻が漂うパリ・ノール・ヴィルパント見本市会場で開催された。30周年を迎えた本展には、世界中から2,000を超える出展者と約54,000人の来場者が集結した。パリ・デザイン・ウィークと連動し、都市全体がデザインの祝祭に包まれた。
インスピレーションテーマ「TERRA COSMOS」
「Terra Cosmos」をテーマに掲げた今回の展示会は、地球と宇宙の融合を探求するような、鮮やかな色彩と金属的な質感にあふれた空間が来場者を惹きつけた。
特筆すべきは、インテリア業界のトレンドコンサルタントのエリザベス・ルリッシュがキュレーションを務めた「What’s New? In Decor」だ。5つのテーマ別カプセルのようなスペース(隕石、砂の惑星、太陽系、満月、未来主義)を通じて没入型の体験を提供し、素材、テクスチャー、パターン、色彩のグラデーションを駆使して、魅力的な未来の美学を探求した。
一方、 小売業界の専門家のフランソワ・デルクローが手がけた「What’s New? In Retail」は、現実的な世界観を提示している。今年注目の新製品とベストセラー製品を巧みに組み合わせ、小売業界の未来像を提示した。
これらの展示は、持続可能性と革新的技術の統合を重視し、再生可能素材や最新の合成素材を用いた家具やアクセサリーが多数展示された。
「Designer of the Year – Hospitality」
サステナビリティと創造性の探求者、リオネル・ジャド
「Designer of the Year – Hospitality」に選出されたベルギー出身のリオネル・ジャドは、従来の境界を超えたアプローチで会場を沸かせた。メゾン・エ・オブジェのパビリオンでジャドは約20のスタジオと協力し、未来のホスピタリティに対する新なビジョンを披露した。再利用材料を活用したゼロ・ウェイストプロジェクトでは、生土の円柱、リサイクルプラスチック織りのカーテン、再生ダンボールのフレスコ画、塩製の家具、アスファルト家具など、多様な素材と技法を駆使した作品群が展示された。
6世代にわたる家具製作の伝統を持つ家庭で育ったジャドは、幼少期から廃材を活用した創作に情熱を注ぎ、独学でキャリアを築いた。ジャドの哲学の核心は、リサイクルと地域資源の活用にある。彼のZaventem Atelierプロジェクトでは、35以上の工房をひとつ屋根の下に集結させ、コラボレーションと創造性を促進。「Realistic Circle」と呼ばれる革新的なビジネスモデルを導入し、各ワークショップが直接クライアントと取引を行う透明性と公平性を確保している。
ジャドのアプローチは、単なるデザインを超え、消費と生産のあり方に問いを投げかける。各プロジェクトを通じて、サステナビリティと創造性の融合を追求し、業界に新たな視点をもたらしている。彼の作品は、美的価値だけでなく、環境への配慮と社会的責任を体現し、ホスピタリティ産業に新たな指針を示唆した。
次世代のデザインビジョン
Rising Talent Awards/Future On Stage
メゾン・エ・オブジェは、若手デザイナーと新進気鋭のタレントの発掘にも重点を置いている。
2024年9月展の「Rising Talent Awards」では、北欧5カ国(ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)の才能あるデザイナーたちが紹介された。
選出された7組のデザイナーたちは、素材の哲学、時間の概念、自然の動きの表現、製造プロセスの革新、建築的プロポーション、そして持続可能性など、多様なテーマを探求している。彼らは北欧デザインの伝統を尊重しつつ、より大胆で実験的なアプローチを採用し、デザイン界に新しい風を吹き込んでいる。
「Future On Stage」プログラムでは、特設舞台で3つの新進ブランドが選出され、環境問題に取り組むだけでなく、日常生活に革新的なデザインを取り入れ、ウェルビーイングを促進する新たな視点を提示した。
Apollo Wooden Wheelchairsは、創設者ポール・ド・リヴロンが、自身が脊椎を損傷した経験から開発した美しい木製車椅子ブランドだ。医療機器のイメージを覆し、車椅子をファッションとアートの領域に引き上げた。Future On Stageでは、新プロトタイプ「Apollo 4」を披露。特にノートルダム大聖堂の木材を使用したパラリンピック特別エディションが注目を集めた。「Apollo 4」は、障害を持つ人々の尊厳と個性を称えるだけでなく、すべての人々にデザインで生活を豊かにする可能性を示した。
Konqritは、テキスタイルコンサルタントのセシリア・ガルシア・ガロフレが2020年に立ち上げたブランドで、バスルームを芸術空間へと昇華させた。Future On Stageでは、パリ在住のアーティスト、マルティン・レイナとのコラボレーション作品「Inmersión II」バスタブを展示。日々の入浴を創造的な体験に変え、自己実現と癒しの時間を提供することで、忙しい現代人に「質の高いミータイム(自分時間)」の重要性を再認識させている。
これらのブランドは、日々の生活で美とデザインを意識することの重要性を感じさせながら、創造性と社会的責任の融合も新たな可能性を示唆している。
都市全体を舞台に展開する
Paris Design Week 2024
パリ・デザイン・ウィーク2024は、都市全体を舞台に革新的なデザインと文化の融合を展開した。メゾン・エ・オブジェのテーマ「Terra Cosmos」と呼応しながら、パリ・デザイン・ウィークは地球規模の課題に対するデザインの可能性を探求。文化的多様性と革新性が融合する場となり、デザイン業界の未来を形つくる重要なプラットフォームとしての役割を果たした。
歴史的建造物を舞台にした前衛的なインスタレーションが、都市景観と現代デザインの対話を生み出し、イギリス人デザイナーのポール・コックセッジによるオテル・ド・スュリーでの鏡を使った概念的な装置作品、スタジオ5・5がMUJIとコラボして設計した小さな家、これらの作品は、歴史的な建築物と現代アートとデザインの融合を見事に表現し、来場者を魅了した。
Paris Design Week Factoryでは、25カ国から130人の若手クリエイターが紹介された。POUSHやMobilier Nationalなどの文化施設も参加し、次世代のデザイン人材育成に貢献。国際色豊かな展示では、ウクライナ、スウェーデン、中国、サウジアラビアなど、世界各国のデザイナーが独自のビジョンを披露した。
今回のメゾン・エ・オブジェは、「Terra Cosmos」というテーマのもと、環境に配慮したアイデアに満ちた展示が並んだ。若手デザイナーたちの斬新な発想は、デザインが社会や環境に良い影響を与える可能性を強く示唆し、この場で生まれる新たな出会いや対話が、人々の暮らしをより豊かで持続可能なものへと導くきっかけとなるだろう。
(文・写真/AXIS 潘 穎)
次回のメゾン・エ・オブジェ開催情報
テーマ:「SUR/REALITY」
会期:2025年1月16日〜20日
会場:パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場
詳細:https://www.maison-objet.com/en/paris