テルアートの内側とは?
知的好奇心、信頼、プラス思考が生み出す体験創造

COP28で公開した「2050年のディナー」では生成AI(ステーブルディフュージョン)を活用。マイクを通じて自分の好きな一皿をAIに伝えると、AIがその料理に使われている食材のなかで最もカーボンフットプリントが高いものを特定。持続可能な代替品を選択し、同じ料理の未来版を生成するという仕掛けをつくった。

オランダのアムステルダムに拠点を持ち、世界各地で活躍するテルアートは、新興テクノロジーを用いた没入体験を創造するエクスペリエンスデザインスタジオだ。グーグル、トヨタを含む世界企業、ドバイの未来博物館、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館といった文化施設をクライアントに持ち、万博、オリンピック、世界経済フォーラム、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの国際的な場でインスタレーションを展開。CEOのポール・スキナーとデザインディレクターのピム・シュハットシャベルに、テルアートの視点と手法について聞いた。

スケートボードとエスケープルーム

クリエイティブ・テクノロジストとしてのバックグラウンドを持つポール・スキナーは、広告代理店でのキャリアを経て、2013年にテルアートに入社。23年にパートナー兼CEOの座に就いた。彼にとってエクスペリエンスデザインの原点は、少年時代に夢中になったスケートボードである。「スケートボードは空間体験を全く別のものに変えてくれる」とスキナーは語る。スケートボードに乗り、身体能力を拡張することで、街の風景が一変する体験に強烈な魅力を感じた。「その体験が、テクノロジーを使って世界を変えたいという情熱を与えてくれた。それは今の仕事で世の中の見方や体験の仕方を変えたいという情熱につながっている」。

他方、デザインディレクターのピム・シュハットシャベルに影響を与えたのは「エスケープルーム(脱出ゲーム)」での経験だ。デルフト工科大学院出身の建築家である彼は、教育に欠けていた建築の文脈を構成する要素を補うためにエスケープルーム事業を立ち上げた。シュハットシャベルはエスケープルームを「ポケット・ユニバース」と呼び、その小さな空間で物語をデザインし、音響やインタラクティブデザインを駆使しつつ、空間を体験する人々の行動を観察。新しい技術を取り入れながら実験を試みた経験が、テルアートでの仕事にも生かされている。

テルアートのデザインプロセスにおけるキーワードのひとつが知的好奇心だ。