EVをベトナムの国民車に!
デザインもインフラも野心的なビンファストの小型大衆車VF 3

東南アジア諸国は、レガシー的な製品やインフラが普及する前に、最新のテクノロジーを導入する機会が訪れたため、シンガポールにおける社会のデジタル化のように、いわゆる先進国よりも進んでいる分野がある。ベトナム初の国産自動車メーカーであるビンファスト(VinFast)も、欧米では成長の鈍化や普及に関する方針転換が起こっているEVについて、独自の戦略で国民車にすることを目指している。

一般にEVは、同クラスのガソリン車などに比べて価格が3割以上高く、充電ステーションの場所や数の問題から、長距離走行時の不安を感じる消費者も少なくない。また、寿命が来たバッテリーの交換時の価格の高さや、それに起因するリセールバリューの低さも指摘されている。こうした問題に対して、すでにEVの上級モデルの販売実績があるビンファストは、ベトナムのほぼ全域をカバーする公共充電ステーションを構築。トータルで15万基以上の充電ポートを設置して、充電インフラに関する不安を払拭した。

そのうえで新たに開発され、8月から納車が始まった「VF 3」は、リアクォーターウィンドウ周りの処理などに世界のカーデザイントレンドを巧みに取り入れつつ、全長×全幅×全高=3,190×1,679×1,622mmと、日本の軽自動車規格(全長×全幅×全高の最大値=3,400×1,480×2,000mm)よりも短く幅広いボディに、16インチの大径タイヤを装着。ベトナムの道路事情を反映して191mmという地上最低高を確保している。

インテリアは、10インチのタッチスクリーンを中心にシンプルだが機能的にまとめられ、乗車定員は4名だが後席をたたむと最大550リッターの荷室容積を確保できる。

いわばベトナム向けの小型SUVとして企画されたFV 3は、フル充電時の航続距離が最大210km(NEDC基準)とはいえ、10%から70%までの充電を約30分で行えることや、前述の充電ステーションの完備によって、シティコミューター的な利用から長距離ドライブまで対応できるように考えられている。

さらに、FV 3を国民車にするための努力は、価格設定とバッテリーサブスクリプションプランにも表れている。バッテリー込みの基本価格は3億2,200万VND(約198万円)。それをバッテリーサブスクリプションにすると2億4,000万VND(約148万円)となり、1カ月の最大走行距離に応じて、1,500km未満の場合は月額90万VND(約5,500円)、同1,500~2,500kmの場合は同120万VND(約7,400円)、同2,500km超の場合は同200万VND(約1万2,300円)をバッテリー費用として支払えば済む仕組みだ。

実は、この価格設定は、ベトナムで最も安価なガソリン車の約半額となっており、さらに予約開始から66時間は3〜4万円引きの優待価格だったため、この間の予約受注が2万7,649件とベトナムにおける自動車販売の新記録を達成した。また、オンライン販売が総注文の50%以上となったことも画期的だった。

このような販売施策も普及への後押しとなり、2024年中に2万台以上の納車が予定されているVF 3は、すでに同国の国民車への道を着実に進んでいると言えるだろう。End