COVER STORY
ロナン・ブルレック

Photos by Taisuke Yoshida

デザインは衝撃的なものじゃなくていい。
熱いお湯に浸した紅茶のティーバッグみたいに、
ゆっくり浸透していくクリエイションを目指したい。

彼の名を知らしめたのは、2000年代初頭にカッペリーニ、マジス、ヴィトラといった世界のトップブランドから発表された数々の家具がきっかけだろう。日々の暮らしに用いる小さなプロダクトから公共空間のプロジェクトまで幅広く手がけ、常に実験的な作品に取り組むことも特徴だ。長年デザイン界を牽引してきたロナン・ブルレックが弟のエルワンとスタジオを分け、今後はソロ活動に専念するという。1本1本の線をフェルトペンで描いたドローイングや陶板作品といったアーティストとしての活動にも力を入れるロナンに今改めて聞いた。

自らの普遍的な感覚を捉えた『DAY AFTER DAY』

―2023年に過去10年の活動の記録をまとめた『DAY AFTER DAY』(ファイドンプレス)を発刊されました。刊行の経緯と本の内容を教えていただけますか?

通常、デザイナーが出版するものは作品集というかたちで、これまで発表したプロジェクトを年代別、もしくは分野別にまとめることが多いのですが、僕の刊行物は写真で綴った日記のようなものです。

デザインの原理がどこにあるのかを指し示すことは難しく、さらにジャンルを超えたクリエイションに携わる僕にとって、表現の幅の広さをどう説明すればいいのだろうかと、当初考えあぐねていました。そんなときに自分の日常を捉え、暮らしの様子を普遍的に記録している身近なツールとしてのiPhoneの存在に気づきました。撮影したものを見返すと、自分自身と仕事の内容を冷静に切り分けて認識することができる。これはチャールズ・イームズがたくさんの写真や映像を撮影しては、そこから新しい感覚を手に入れようとしていた様子にも似ています。