国宝「甘露水」上陸。台湾初の洋風彫刻家、黄土水とその時代。

2023年台湾の国宝に指定された大理石彫刻「甘露水」が、今東京藝術大学大学美術館で展示されている。「黄土水とその時代——台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校」という展覧会だ。黄土水とは何者なのか?

2023年2月24日に国宝に指定された、黄土水作「甘露水」の半身裏と表。©︎国立台湾美術館

台湾には、清、それ以前の宋、明といった時代の書画が遺されている。それらをはじめとする台湾の国宝のほとんどは国立故宮博物館に収蔵されており、同館は、世界四大博物館のひとつに数えられている。

しかしこうした歴史的美術品ではない近現代の台湾の美術品というと、日本ではあまり知られていないのではないだろうか?

近代美術品で国宝に指定されているものは2点あったが、そこに2023年、新たに黄土水(コウ・ドスイ)の彫刻「甘露水」が加わった。ちなみにほか2作品のうちのひとつは同じく黄土水が彫った「南国(水牛群像)」というブロンズのレリーフだ。展覧会にはこのレリーフは展示されていないが、やはり水牛群像をモティーフにした丸彫りの作品も展示されている。

黄土水は台湾の特長を表現するモティーフとして水牛を選んだ。5体の水牛のゆったりとした歩みのリズムには、台湾ののどかな田園風景が表現されている。《水牛群像(帰途)》1928年

黄土水はちょうど日本が台湾統治をはじめた1895年に生まれた。1915年に東京美術学校に入学し、30年に36歳の若さで東京で急逝している。

展覧会を企画した薛燕玲(シュェ・イェンリン)によると黄土水は初めて日本に留学し西洋彫刻を学んだ芸術家で、台湾近代美術の開拓者と言えるという。台湾では、2018年から文化部(日本の文化庁にあたる)で台湾美術史の再建というプロジェクトが推進され、1958年以来所在不明になっていた「甘露水」が奇跡的に発見された。黄土水の死後、台湾に帰った作品が今回また日本に運ばれ展示されることとなったわけだ。

国立台湾美術館のスタッフの手によって旅装を解かれ、展示位置を決められる「甘露水」。

展示には、「甘露水」のほか、学生時代の木彫から、ブロンズの作品までが出品されており、年代別に追っていくと、この時代の美術大学彫刻科での教育レベルの高さも伺うことができる。

東京藝術大学に師事していた、高村光雲の影響が感じられる木彫の作品。《数田氏母堂》1927年

「甘露水」は西洋のクラシック彫刻を代表するマテリアルである大理石が使われ、技法も西洋的でありながら、彫り出された裸体は、アジアの女性特有のプロポーションと穏やかな表情をしている。

展覧会オープニングにあわせて来日にした台湾文化相の李遠(リ・エン)は、「彫像の足元にある貝に目をやると、この女性像は、海から浮かび上がり、ちょうど目を見開いたときであるように見える。台湾という島も5千年前に海から浮かび上がってきたことを思うと、この彫刻が、台湾の独自性をみごとに表現しているようだ」と感想を述べていた。

《甘露水》1919年。像のサイズは、170×77×35.5cm。

展覧会では、大正から昭和初期の時代を中心とした藝大コレクションも展示しており、20世紀初頭の、明るい未来を信じ近代化の道を歩んでいた人々の情熱を感じることができる。

芸術の秋の始まりにおすすめの展覧会だ。(文/AXIS 辻村亮子)End

国立台湾美術館がキューレーションした展示会場風景。

黄土水とその時代-—台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校

会場
東京藝術大学大学美術館 本館展示室3,4
会期
2024年9月6日(金)~10月20日(日)
休館日
毎週月曜日、9月17日(火)、9月24日(火)、10月15日(火)(ただし9月16日、9月23 日、10月14日は開館)
時間
10:00~17:00(最終入場は16:30まで)
観覧料
一般:900円、大学生:450円、高校生および18歳以下無料
詳細
東京藝術大学大学美術館サイトをご覧ください。