イタリア海軍帆船「アメリゴ・ヴェスプッチ号」に乗船するデザイン旅。

Amerigo Vespucci World Tour 2023-2025」という名前のツアーですが、アメリカ大陸に上陸したのではありません。東京国際クルーズターミナルに停泊しているアメリゴ・ヴェスプッチ号に乗る、という10m程だけ海の外に出るという「海外旅行」に参加しました。

「アメリゴ・ヴェスプッチ号」は、「世界でいちばん美しい帆船」と呼ばれています。イタリア海軍の士官候補生の訓練船として、去年7月にジェノヴァ港を出航。ジブラルタル海峡を超え南アフリカの先端を通過し、14カ月の航海を経て、8月25日(日)に東京に初入港しました。

1931年に進水した93年目となる帆船で、ちょうどその1年前にできた、やはり帆船の日本丸とサイズもほとんど同じですが、日本丸は退役して横浜・桜木町駅前に停留しているのに対して、こちらはばりばりの現役です。

この船は、海軍のトレーニングという役割とともに、「フローティングエンバシー」として、友好関係のある国々との外交の要としての役割も担っています。実際、東京国際クルーズターミナルでは、「ヴィラッジョ・イタリア」(イタリア村の意味)という名前で、イタリアの文化、料理、ワイン、デザインなどを紹介するイベントが開催されていましたが、この記事ではデザインソースとなりそうな、船のディテールをお見せしたいと思います。

船頭。全長100m、幅15m、高さ54mの船体は最近の大型化する客船からすると少々小ぶりに見えます。

こちらは船尾。黒白の船体も目を引きますが、風にはためく大旗が、いつでもどこからでも目に入ります。

ネイビーの制服はどこの国でも派手ですが、とりわけおじさまたちが着ているイタリア海軍バンドの制服ときたら!

そもそも船とモダニズム建築やデザインは深い結びつきがあります。近代建築の巨匠、ル・コルビュジエは、船を「新しい建築の形態」と位置付け、その力強い美しさを称賛していますし、彼のプランには明らかな影響の痕が見られます。

またそれ以前の、ニューヨークやマイアミで発達したアールデコのデザインも客船のディテールを手本に生まれたという説が有力です。そんなわけで「世界で一番美しい帆船」の細部について、船内を見てまわりましょう。

帆を下ろした状態を甲板から見上げています。帆は全部で26枚あるそうです。ロープの本数は?よくわかりません。

艦内で使われているロープの素材はすべて伝統的な麻。

ビレイング・ピンでまとめられたロープ。ピンを引き抜くと固く結びついているロープがするすると解けるようになっています。

船内の階段。つねに揺れている船では手すりは非常に重要なエレメントです。

丸窓とハッチ。水を漏らさず、しかも非常時にいかに手早く脱出できるかということを考えて生まれた形と大きさ。

船の出入口にあったパネル。オフィサーの誰が、板の上(乗船)にいるか、それとも地面の上(下船)かを示しています。磨き込まれた真鍮の輝きは、ホワイトボードよりずいぶんと優雅ですね。

タラップから海面を見下ろした状態。軽量で美しい材なんですが、スカスカなのでちょっと怖い。

8月26日(月)に行われたオープニングセレモニーの様子。スピーチをしている長身の人物が、来日したグイード・クロセット(Guido Crosetto)国防相です。問題はこの日の暑さ。気温33度を超える炎天下、遮るものがない埠頭の上でのセレモニーとなりました。

鍛錬という言葉は最近あまり聞きませんが、さすが訓練船に乗っている士官候補生たち。式開催中の1時間以上、彼らは微動だにしませんでした。手前の白い制服姿が船長のジュゼッペ・ライ(Giuseppe Lai)大尉。

帆が張ってあると船が動いてしまい、また台風10号が近づくなかとあって、セレモニー中も帆は下ろしてありましたが、こちらは帆を張った状態の全体像。艦名のアメリゴ・ヴェスプッチがいた大航海時代を思わせます。

アメリゴ・ヴェスプッチ号は8月30日(金)に東京を出港してしまいましたが、さすが帆船、時間の流れが違います。次の目的地、オーストラリアのダーウィンには10月4日(金)の寄港。その後、シンガポール、ムンバイ、アブダビ、ドーハ、そしてサウジアラビアのジッダに寄るのは年明けの1月20日(月)から24日(金)という予定だそうなので、余裕のある人は追いかけてみるのも一考です。(文/AXIS 辻村亮子)

公式サイトを見ると今艦がどこを航行中なのかがわかります。