神社の境内にアートブックが集結!
「Pages|Fukuoka Art Book Fair」とその“フレンズ”たち

2024年6月14日(金)から 16日(日)の3日間に渡り、福岡県では初開催となるアートブックフェア「Pages|Fukuoka Art Book Fair」(以下、Pages)が開催された。フェアの舞台となったのは、福岡の地元の人からも観光客からも愛される神社「太宰府天満宮」。境内の余香殿と文書館に、県内外から約100組が出展し盛況に終えた。

同フェアは、神社の境内を会場にしたこと以外にも初の試みで溢れていた。福岡のアーティストとコラボレーションするかたちでワークショップやラジオなどを行うスペシャルコンテンツもあれば、福岡市内外のセレクトショップや書店でさまざまなサテライトプログラムを行う「フレンズ」もあり、メインの会場以外でもフェアの盛り上がりが感じられるような仕掛けが施されていた。本稿では、フェア当日の様子とともに、サテライト会場の模様を紹介したい。

風吹き抜ける文書館と、見どころ凝縮の余香殿

太宰府天満宮は、福岡県民ならずとも知られた有名な観光スポット。御本殿は124年ぶりの大規模改修のために参拝できないものの、改装にかかる3年のあいだは特別な仮殿が設けられている。仮殿の設計は建築家の藤本壮介。さらに仮殿内の御帳と几帳はファッションブランド「Mame Kurogouchi(マメクロゴウチ)」が担当するなど、その斬新な試みも話題を呼んだ。

今回のメイン会場となるのは、それぞれ御本殿からすこし離れた文書館と余香殿。それぞれの会場は独立しており、ふたつの会場間を歩いて回る合間に参拝ができるなど従来のブックフェアにはなかった体験もできた。



「文書館」会場風景

文書館にはクリエイターユニットをはじめ、日本だけではなく台湾、韓国などの国外から訪れた書店や出版レーベルが出展。さらに、スキンケアブランド「THREE」によるインスタレーションブースや、福岡の老舗セレクトショップ「DICE&DICE」と「TOKYO DESIGN STUDIO New Balance」による特設ブースも設けられ、アートブックを手に取る以外の見どころも充実していた。


「余香殿」会場風景

余香殿には81組もの出展者が所狭しと並ぶ。個人のクリエイターからギャラリー、企業まで大小さまざまな規模の出展があり、最奥には福岡のアーティストユニット「ON AIR」のラジオブースも設けられた。さらに会場の入口横では写真家の川島小鳥とアーティストの宮崎知恵によるZINEをつくるワークショップも開催された。

「ON AIR」公開収録の様子。

コミュニティ協定

Pagesの試みとして、コミュニティ協定が設けられたことにも注目したい。コミュニティ協定は異なる背景を持つ人々が集まる場所だからこそ設けられたいわばルールであり、会場内やWebで公開されている。

さらに、文書館内にもリーディングルームと呼ばれるブースを設置。コミュニティについて考え、学び、話し合うためにと美学研究者の村上由鶴MINOU BOOKSの石井 勇によって選書された書籍をじっくりと読むことも。

コミュニティ協定の全文はこちら

福岡ならではの出展作家も

福岡での開催は初めてというものの、参加する出展者はグローバルだ。国内は沖縄から北海道まで、国外はドイツやオランダをはじめ、さらに台湾や韓国からの出展者も目立つ。こうした顔ぶれからも、アジアの玄関口といわれるこの街での開催の意義を感じる。続いて、会場で見つけた作品の一部を紹介したい。

Jamani(福岡)

「Jamani Tape Book」

Jamani」が制作したロール式のアートブック「Jamani Tape Book」。Jamaniはアートギャラリー「二本木」店主で作家の松尾慎二、写真家で即興演奏家の丹野篤史 、画家の佐々木亮平、詩人の藤 雄紀の4名による福岡のアートコレクティブ。本作品は彼らのアートワークによって構成され、両手で持ち、巻物を読むように指でページを送っていくことで一連のシークエンスとなって表現される。さらに、壁掛けのアートピースとして飾ることもできる。

約-束 / Yaku-soku(福岡・東京)


「約-束」

約-束は、福岡と東京に住む染織家、大工、音楽家、映像作家、グラフィックデザイナー5名で構成されているユニット。5名それぞれが制作に取りかかる前に”約束”と題したルールを設け、それに基づいて他のメンバーも絵を描き進め、最後に5枚の絵を重ねる手法で1枚のイメージをつくり上げたZINEを制作。

TEAM THREE TAILS(韓国)

「Round Trip」

「Start from making the form」

「Emotion Diary」

韓国・ソウルを拠点に活動するユニット「TEAM THREE TAILS」。写真家・Eunjee Leeは、旅をテーマにしたフリップブック「Round Trip」を出展。コンタクトプリントに抽象的な痕跡を刻み、果てしない移動を表現している。グラフィックデザイナーのYuna Dohは、本とはどのような形であるべきかという疑問から始まったプロセスに焦点を当てた「Start from making the form」を、彫刻家のHyejin Nohはドローイングや文章、収集した画像を通して日々生じる感情を表した「Emotion Diary」を出展した。

「TEAM THREE TAILS」のプライスタグとキャプションは手びねりの陶でつくられていた。

街中にも広がるPagesの“フレンズ”

Pagesのもうひとつの特長は、「フレンズ」というプログラムにもあらわれている。

福岡は飲食店や商業施設が天神〜薬院エリアに集中しているため、この街に訪れたことのない人でもコンパクトに楽しめるという快適さがある。こうした街の特性をふまえ、イベントを訪れた人に福岡の街の魅力を楽しんでもらおうと実施されたのが「フレンズ」だ。ここでは、実際に訪れた3つのフレンズを紹介する。

「Be happy」by Thomas kong @ DICE&DICE(今泉)

トーマス・コンの作品展示。

天神からほど近いエリアで30年以上の営業を続けるセレクトショップ「DICE&DICE」で開催されたのは、シカゴ郊外にあるコンビニエンスストア「KIM’S CORNER FOOD」のオーナーであり、アーティストでもあるトーマス・コンの展示。コンは店内を飾りつけるため、60歳を過ぎてから食品の段ボールやお菓子の空き箱を使ったコラージュの制作を始め、膨大な作品を残した。しかし惜しむらくは、2023年に他界。店も閉店した今、彼の作品を間近で見られる機会は数少ないため、とても貴重なプログラムだ。

宮崎知恵が制作した「KIM’s CORNER FOOD」の模型。

今回の展示では、店内の小さなギャラリースペースに作品を並べただけではなく、アーティストの宮崎知恵が「KIM’s CORNER FOOD」の模型を制作。小さな空間にさらに小さなコンビニストアが設けられ、コンの足跡をよりリアルに感じられる工夫も。さらに、店内の数カ所にはコンのアートワークが飾られ、ショッピングしながらでも自然と作品を楽しめた。

DICE&DICEの店内。

「Goods」@ B・B・B POTTERS(薬院)

B・B・B POTTERSの外観。

薬院の一角で、生活用品や雑貨をはじめとしたライフスタイルグッズを販売する「B・B・B POTTERS(スリービーポッターズ)」。この店の2階で行われたのは、世界中で拾いあげた古物店「Goods」のポップアップ。とりわけ使い心地や機能性を追求した生活の道具をセレクトした商品が並ぶ店なだけに、使い道が定かではなく、どのような目的のものかさえ判断しづらいようなGoodsのアイテムが目を引く。

B・B・B POTTERS内に展開された「Goods」のポップアップ。

手に取ってみると子どものころ工作の時間につくったもののようなおぼつかなさや愛嬌があり、そのときの記憶が呼び起こされるようにも感じた。

また、Goodsは場所を変えて、次は東京でポップアップショップの開催を予定している。ここに並ぶチャーミングなものを手に取りたい方は、ぜひ会場へ。

Goods at 代官山 蔦屋書店

会期
2024年8月2日(金)〜 8月20日(火)9:00-22:00
会場
代官山 蔦屋書店(〒150-0033 渋谷区猿楽町17-5)

「Pieces」by 中島あかね @Blumo(大楠)

中島あかねによるドローイング。

花器を筆頭にオリジナルの家具や什器までを販売する「Blumo」。古い印刷工場の跡地で営業する同店の2階では、アーティストの中島あかねによるドローイングの展示が開催された。

ここに並んだ原画はいずれも水彩によって描かれており、まるで宇宙から見た大地のようにも顕微鏡を覗き込んだ先の風景のようにも見え、大小さまざまな自然を思い起こすような魅力に溢れていた。同店に並ぶ花器との組み合わせを想像してみたり、また空間にどのように絵を置けば心地よく感じられるか考えたり、ショップの中で行われているからこそ思いを巡らすような体験ができた。

Blumoの店内。

ここまで紹介してきたブックフェアの模様も、まだほんの一部。イベントやスペシャルコンテンツなどこの期間に足を運んでこそ味わえる催しも数多く用意されていた。

初の試みで溢れた本イベントは、アートブック好きに限らず、地元の方が出かけた先のショップで関連展示に触れたり、県外からの来場者が地元に根づいた店を訪れるに機会なったりと、ブックフェアの可能性を拓く会となったのではないだろうか。今後もアートを中心としたイベントの発展に注目したい。