Nothing CEOと深澤直人が語る
テクノロジーに愛されるプロダクトデザインとは

優れたデザインと最新のテクノロジーを融合させたプロダクトで最近注目を集めている、イギリスのコンシューマ・テクノロジー・ブランドのNothing。2024年3月にPhone (2a)が日本向けに展開され、4月にはNothing Japanが設立。今回は東京・表参道で行われたPhone (2a) Special Editionの発売にあわせて、トークイベントを開催した。Nothing CEO カール・ペイと日本を代表するプロダクトデザイナー 深澤直人が「テクノロジーに愛されるプロダクトデザインとは」というテーマで話した、イベントの模様を紹介する。

Phone (2a) Special Edition

Phone (2a) Special Edition

デザインへのあくなき探究心

深澤が手がけた代表作のひとつに、2003年にauから発表された「INFOBAR」がある。今でも復刻モデルやINFOBAR型のApple watchケースが発売されるなど、依然として愛され続けるプロダクトだ。そんな深澤はここ20年のデジタルデバイスを振り返り、皆が同じものを持つ時代から、個性が求められる波が訪れ、そこに新しい魅力を持ち込んだのがNothingであると話す。

深澤直人/1956年山梨県生まれ。セイコーエプソンに入社し、先行開発のデザインを担当。1989年渡米し、ID Two (現・IDEO サンフランシスコ)で、シリコンバレーの産業を中心としたデザインの仕事に7年半従事した後、1996年帰国。2003年NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。

Nothingはテクノロジーの会社ではあるが、その根幹にはデザインへのあくなき探求がある。ペイはNothingのミッションに「テクノロジーを面白くすること」を掲げ、そのツールとしてデザインを使っているという。その実現のため、プロダクト開発に着手する前に、まずブランドブック作成をすることから始めたそうだ。

カール・ペイ/起業家。Nothing CEO兼共同創設者。2013年にスマートフォンブランドOnePlusを共同設立し、同社を数十億ドル規模に成長させた。2020年にOnePlusを退社し、ロンドンを拠点とするテクノロジー企業Nothingを設立。

デザインは形がないものに姿を与えること

GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)の登場は、デジタルデバイスに劇的な変化をもたらした。しかし、それが当たり前になると、人々はその体験の変化にあまり気づかなかったと深澤は指摘する。それと同じように、今われわれは、AIの世界にどっぷり浸かっていて、すでにAIがなかったら何もできないような状態にあるという。「どんなにAIが発達しようと、その有用性を判断するのは人で、形のないものに対してどのように姿を与えるか、それがデザインという行為になっていく」と、今後のデザインのあり方について語った。

また、ペイはこれまでの人間の仕事やクリエイティブな活動が奪われるのではないかというAIへの懸念に対して、技術開発の原則は人間を助けることであり、AIはあくまでも問題解決のツールにすぎず、どのような使い方をしていくかが重要であると話す。

さまざまなテクノロジーが台頭するなかで、深澤が今後のプロダクトに期待していることについて、自身が館長を務める日本民藝館での展示に触れながら「朝鮮時代の器の破片を展示したのですが、その破片だけを見ても全体像がどんなに格好よかったかが想像できるんです。それは自分にとって初めての経験でした。人間は自分のセンサーで何かを感じ取っているということをもっと自覚すべきだと思いました。美学や文化のなかに、まだテクノロジーが入り込んでいないので、もっと面白いことが潜んでいるのではないかと期待しています」と述べた。

ものづくりの喜びの根源

最後にデザインに関わっていて、いちばんうれしいことはどんなとき?と振られ、深澤は「何もなかった姿が現れ始める瞬間がやっぱりいちばんたのしみです。今日はこうしてふたりで話しているけれど、ビジネスを介した関係だけでなくて、同じ興味を持った人たちが集まって、何か新しい物事が生まれてくるのが自然だなと、そういう瞬間がいちばん幸せに感じます」とものづくりの喜びについて語った。

反対にペイはものづくりの裏側にはさまざまな苦しみがあると話す。「例えば、キャッシュフローやサプライチェーン(笑)なんでこんなこともやらなくちゃいけないんだと思うこともありますが、虜になってやめられないのは、アプリだけでなくて、物理的なプロダクトをつくっているからだと思います。道を歩いているときに、自分をつくったものを使っている人がいる、そういうことにとても喜びややりがいを感じます」。

また、深澤はペイの印象について、自身の自宅を案内したときのことを振り返った。「僕の家は、壁に四角い穴が開いてるんですけど、それはエアコンの穴なんですね。エアコンが見えるのが嫌だから隠しているんです。カールはそれを見つけると、他の穴はどこにあるんだと聞いてきて。あとは壁のコーナーにある溝とかに興味を持つんです。ディティールに目がいく、これはかなりの“デザイン頭”だなと思ったんです(笑)」と、ユーモアを交えて話した。

さまざまなテクノロジーが生活に入り込んでくるなかで、われわれが触れるのはインターフェースの部分だ。テクノロジーをデザインでいかに解釈していくのか。切っても切り離せない両者の新たな関係を構築していく、Nothingの活動にこれからも注目したい。End(AXIS/荒木 瑠里香)

イベントでは、実際にPhone (2a) Special Editionを体験することもできた。

「Nothingアパレル」としてウェアも展開。teenage engineeringと共同でデザイナーやエンジニア、クリエイターのためのユニフォームを制作している。