“そうぞう”から始まる 領域横断型のデザインの祭典
「Featured Projects 2024」

2024年5月24日から5月26日の3日間にわたって、領域横断型のデザインの祭典「Featured Projects 2024」がコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」で開催された。Featured Projectsは、「よいものづくりは、明日を拓く」をコンセプトに掲げたデザインプロジェクトで、さまざまな分野とコラボレーションをしながら、「デザイン」の可能性を拓くことを目指している。

2回目の開催となる今年のテーマは「”そうぞうから始まる”」。AIをはじめとした技術の進化が著しい現代では、ものづくりとの向き合い方やものをつくることの意義について、改めて考える機会も多い。そこで、これからの未来を“そうぞう”するために、”想像”すること、そして”創造”することのふたつのテーマが設けられた。トークセッション、ミートアップ、ワークショップ、展示、クリエイターズマーケットといった、プログラムで展開された同イベントを紹介する。

会場を埋め尽くす、“そうぞう”の高揚感

会場に入ると、まず目に入るのが印象的なビジュアルだ。「“そうぞう”からはじまる」というテーマを体現するような、わくわくとした高揚感が掻き立てられる。ポスターやチケット、サイン、トークセッションの映像など、会場全体に展開されていた。これらのアートディレクションを担当したのは、新進気鋭のデザインユニット「NEW」。2020年頃から活動を開始し、同年には大阪・関西万博公式ロゴマーク最終候補になった。ほかにも多数の受賞歴を持ち、メンバーのひとりである坂本俊太は2024年JAGDA新人賞にも選ばれるなど注目が集まっている。

デザイナーがいま取り組むべき課題

イベントの中心となったトークセッションは、3日間で全11回行われた。登壇者はデザインスタジオ経営者、プロダクトデザイナー、プロデューサー、グラフィックデザイナー、コンサルタント、建築家、アーティスト、編集者など、多様なものづくりの領域から参加し、“そうぞう”からはじまるを軸に、デザインの時流を組み込んだプログラムを実施。デザインやものづくりに関わる人たちにとって、いま取り組むべき課題や、ものづくりを続けていくうえでのヒントとなるようなテーマが設けられた。今回はそのうち3つのトークセッションを紹介する。

ひとつめのテーマは「なぜあの人はつくるのか:そうぞうの原点」。MMA Inc代表の工藤桃子とTAKT PROJECT代表の吉泉 聡がものづくりの原体験について対談。モデレーターは東京工業大学 准教授で美学を専門とする伊藤亜沙が務めた。美大を卒業し社会人を経験後、工学部へ進学したバックボーンを持つ工藤は「人を豊かにする文化の可能性を広げたいと思って事務所を立ち上げた。だから、必ずしもアウトプットは空間である必要もない」と語る。対照的に吉泉は工学部を卒業後、人の心を動かすようなことがしたいと、デザインの世界に入った。クライアントワークとともに自主プロジェクトも活動の軸であり、「ものをつくることで感覚的に面白いと思ったことが、どのように世界とつながっていくのか考えることを楽しんでいる」と話した。

ふたつめは、サン・アド アートディレクターの藤田佳子とグラフィックデザイナーの三重野 龍による「人生の折り返し地点。改めて向き合う“そうぞう“の旅」。モデレーターは、長きにわたり第一線で活躍しつづける、コズフィッシュ代表でブックデザイナーの祖父江慎が担当した。トークは藤田と三重野が作成した人生のダイヤグラムを交えながら展開。20代後半から社会人になった藤田は、キャリアのはじめで挫折を味わったが、会社の仕事をとおしてスキルを身につけたいとクライアントワーク中心で活動をしてきた。現在は、JADGA新人賞などの受賞や作家との協働をきっかけに個人制作をはじめたという。大学卒業後からフリーランスの三重野は、仕事がない時期にはフリーペーパーをつくるなど、自主的な活動することが、その後の仕事につながった。個人で活動してきたため、これまでの範囲を超えてどう仕事をしていくべきかを考えていると語った。祖父江は二人の現在の活動をふまえて「デザイナーは自分のプロジェクトをやるべき」と言い、時折放たれる祖父江の率直でユーモアに富んだ問いかけが会場に笑いを生んでいた。

3つめは、自身もグラフィックデザイナーでありながら、環境活動家としても活動する平山みな美をモデレーターに迎え、プロダクトデザイナーの熊野 亘とグラフィックデザイナーの長嶋りかこが「持続可能な“よいものづくり”。健やかなクリエイティビティの条件」というテーマで話した。熊野は「長く使ってもらうことが重要。それはもののよさだけではなく、素材や工程もデザインしていく必要がある」と語る。長嶋は「グラフィックデザインは情報を取り扱うからこそ、企業の姿勢が大事。違和感があるときは、まずはクライアントと対話をする」と言う。プロダクトとグラフィックで求められる職能や扱うものの違いについての話題となった。両者は共通して、クライアントは協業するパートナーでもあるといい、本質的に必要なことはなにか?を問いかける姿勢が重要であると語った。また、モデレーターを務めた平山はマーケットにも参加し、気候変動に対する実践についてデザイナーにインタビューした書籍『ジレンマと共に未来からデザインする──気候危機時代にグラフィックデザイナーにできることとは?』の販売も行った。

新たなクリエイターとの出会い

全日をとおして、賑わいが絶えなかったマーケットでは、領域や分野を横断した多様なジャンルのクリエイターが参加。雑貨、ポスター、ZINE、テキスタイル、アクセサリー、インテリアグッズ、文房具など、56組の出展者による作品販売が行われた。多くのブースでは、作品やブランドを手がけるクリエイター本人が立ち、直接話を聞きながら実際に購入できる貴重な機会となった。こうしたイベントへの出展経験がまだあまり多くないと話す出展者も多く、新たなクリエイターと出会うきっかけとなっていた。

陳 文亮 Wenliang.Cと王 睿宇 Wang Ruiyuが東京で設立したデザインオフィスConpany2。 「ふたりだからcampany2なんです」と話すユニークな彼らを表すような「インスピレーション」と書かれた梨のオブジェ(インスピレーション“なし”の意)。ほかにも、リソグラフのZINE、キーホルダーなどを販売。

デザイナー・グラフィックリサーチャー 深地宏昌とプログラマー 堀川淳一郎による「DIG RAPH」にセラミックアーティスト 横山成美を迎え、立ち上げられた陶磁器ブランド「ComPotte」。「コンピュテーショナル・ポッテリー」をコンセプトに、デジタルならではの緻密さを陶磁器で表現することを追求している。

3Dプリント技術でつくられた商品を展開するデザインブランド「QUQU」。独自の技術によるグラデーションが取り入れられた照明や花瓶、アクセサリーなどを販売。3Dプリンターでプロダクトを出力している様子は、来場者の興味を引いていた。

希望ある未来を”そうぞう”する

同イベントではほかにも、親子でも楽しめるワークショップや、新たな仲間との出会いとなるミートアップが開催され、自ら取り組むプログラムや交流の場も用意された。

同イベントでは、新しいクリエイターたちとの出会いとなる場所になってほしいという主催者の考えから、すべてのプログラムで前回とは異なるクリエイターが選ばれている。作品やプロダクトだけではなく、実際にデザイナーやクリエイターと出会うことで、これからのデザインやものづくりを考える人たちと対話をする機会となった。参加者や来場者らはこうした開かれた場をとおして、希望ある明日を“そうぞう”していくきっかけになったことだろう。(文/AXIS 荒木瑠里香)End