京都を拠点に活動するPUBLIC SERVICEが掲げる
伝統技術や素材を生かしたデザイン

「COFFEE CEREMONY」2024。Photo by Kim Dooha 

PUBLIC SERVICE(パブリックサービス)は、京都を拠点に活動するデザインデュオ。竹や木工製品をつくる会社で研鑽を積んだ石上諒一と、アウトドア用工業製品を扱う会社で働いていた大津寄信二が2021年に結成した。工芸と工業製品という、異分野で培ったそれぞれの強みを融合させたデザインを展開し、日本の伝統技術や素材を生かしたものづくりにも取り組む。新作は、10人の職人と協働した「COFFEE CEREMONY」。さらなるステップを目標に掲げて、今年のミラノのサローネサテリテに初出品した。ふたりのデザインに対する考えや今後の展望について話を聞いた。

「STEM」Rivers(2018)。大津寄がリバーズ時代に手がけたロングセラー商品。ノベルティグッズとして展開する際にロゴを入れやすいように、シンプルな形状とグラフィックを考えた。Photo by Yoshiyuki Imazawa

デザインに興味を抱いたふたりが京都で出会う

大津寄信二は、1988年兵庫県宝塚市に生まれた。高校生のときに工学や物理に興味を抱き、将来は商品のデザイン設計の仕事をしたいと考えた。京都精華大学に入学したが、翌年、第一志望だった金沢美術工芸大学を再び受験して合格。同大学の製品デザイン専攻に進んだ。

卒業後、業務用製品を扱う会社を経て、アウトドア用ボトルなどの工業製品を販売するリバーズに転職。製品の企画・デザイン・海外の工場とのやり取りまで携わった。ここでの経験が現在のプロダクトデザインの仕事の礎になったという。

「WAVE」長岡京都市開発(2021)。京都・長岡京市JR西口広場で開催するイベントのために、真竹を使用したパビリオンを製作。Photo by Yoshiyuki Imazawa

石上諒一は、1990年静岡県静岡市に生まれた。小学生の頃、授業の一環で静岡の伝統工芸、駿河竹千筋細工のワークショップ体験から、ものづくりへの興味が芽生えたという。工業高校に進んでインテリアや家具デザインを学び、京都精華大学のプロダクトデザイン学科では授業で伝統工芸に触れられると知り、入学した。

卒業後の進路を考えているときに、寺社仏閣の竹垣や茶道具、木工製品を製作する京都の高野竹工を大学の教授から紹介され、石上は特に竹素材に興味を持ち入社を決めた。最初の3年は製造部門で職人として従事し、その後、商品企画部に配属された。「製造を経験したことで、つくり手や職人の目線も持ちながら商品企画やデザインを考えるようになり、それが今の活動にも生きています」と石上は言う。

彼らは京都精華大学で出会い、ともに大学のサッカー部に所属していたこともあり、卒業後も交流が続いた。

「RANTO FLOWER POT」椎名洋ラン園(2021)。胡蝶蘭「ranto」シリーズのために開発した専用ポット。色彩の美しさと有機的な造形は、彼らのデザインの特徴だ。Photo by Yoshiyuki Imazawa

京都を拠点に活動開始

ふたりは次第に自分自身で企画してものをつくってみたいと思うようになり、2012年頃から会社で働く傍ら、自主制作と展示発表を始める。棚や椅子、ハンガーラック、カトラリーなどを手がけ、西日本のインハウスデザイナーが参加する展示会「サイドデザインプロジェクト」や、ツインメッセ静岡で開催される家具見本市などに出品した。

「BLOOM」HLM(2023)。プロダクトレーベル99PRODUCTSにて「花と共に暮らす家具」をテーマに、花瓶をしつらえたノックダウン式の家具を製作。Photo by Tomart -Photo Works-

2019年からは、PUBLIC SERVICEというデュオ名で自主活動を始めた。当時、大津寄がリバーズでデザインしたシリコン製のドリッパーがあり、それに合うスタンドのデザインを大津寄が考えると、石上が竹で製作。やがて日本の茶道具にヒントを得て、コーヒーを淹れる一連の道具を竹素材でつくれないかと考えるようになった。試行錯誤を重ねたが、竹素材ですべてをつくるのは難しく、やがて多様な素材を使ってつくるという考えに変わっていった。

ふたりは退職し、2021年に京都で起業した。本格的にデュオとして活動しようと思った理由を、石上はこう話す。「僕らは分野も業種も扱う素材も異なることから、ひとりで活動するよりふたりで協業するほうが、ものづくりの可能性が何倍にも広がると感じたのです」。また、活動の拠点を京都に置いたのは、ふたりとも古くから伝わる伝統技術や素材に興味があり、作品に取り入れたいという考えがあったからだ。

「COFFEE CEREMONY」(2024)。石上が静岡の指物作家の戸田勝久と協働して製作した、ノックダウン式の展示台。

「COFFEE CEREMONY」(2024)。竹製スタンド(高野竹工)、漆仕上げの和紙製ドリッパー(和紙/修繕寺 紙谷和紙工房の舛田拓人、漆塗り/佐藤喜代松商店)、備前焼のコーヒー豆入れ(龍峰窯の藤田昌弘)、ガラスのサーバー(ガラス職人の池上太郎)、石のグラインダー(斉田石材店の齋田隆朗)、野焼きの土器(陶芸家の田中太朗)、再生素材でつくったトレイ(germination)、湯沸かし専用器具(六兵衛窯の清水宏章)、木型でつくる干菓子(京菓子司 金谷正廣の和菓子職人の金谷亘)がある。Photo by Kim Dooha

ミラノで発表した「COFFEE CEREMONY」

その後もコーヒー道具の開発を続け、5年の歳月を経て結実したのが、今年のサローネサテリテで発表した「COFFEE CEREMONY」だ。10名の職人の協力を得て制作したもので、いずれも以前から付き合いのあった人々だという。

サローネサテリテ出品を振り返って、それぞれに感想を聞いた。石上は、「僕らがこれまで知り合った職人さんたちと、各々の素材や技術の魅力を引き出した商品をつくり、発表しました。たくさんの反響をいただき、伝統工芸が衰退していくなかで自分たちができること、やるべきことがまだたくさんあると感じました」と想いを語る。

大津寄は「現在、このCOFFEE CEREMONYの国内外での販売に向けて検討中ですが、今後、職人さんたちと別の製品開発にも挑戦していけたらと考えています」と抱負を述べた。

「TSUM」高橋工芸(2023)。越前漆器の技術を継承し、現代の暮らしに即したデザインを取り入れ、未来へつむぐことを目指したプロジェクト。トレイや箱として、多目的に使用できる。Photo by Tomart -Photo Works-

デザインというよりサービス

それぞれのものづくりに対する考えを尋ねた。「一期一会のように、人との出会いを大切にしています。その職人の方がどういう人物で、どのような思いを持っているか、扱う素材や技術など、いろいろな話を聞きます。そのなかからその人ならではのものをすくい取り、デザインに落とし込んで、製造や販売流通、PRなどもつくり手に寄り添いながら考えていきます。最初から最後まで、ものづくりのすべてをプロデュースする。デザインというよりサービスだと考えているので、デュオ名をパブリックサービスとしました」(大津寄)。

「つくり手をリスペクトし、われわれ自身も互いにリスペクトし合い、切磋琢磨していきたいと考えています。どんなに遠くても、工房や工場に足を運びます。その土地の風土、つくり手、仕事を観察し、われわれふたりの視点で意見交換するなかから、提案するための出発点を見出していきます。われわれにとっていちばん重要なのは、その土地と文化に触れること。そこからデザインが始まります」(石上)。

「COLUMN」(2024)。6月のインテリアライフスタイル2024で発表したテーブルとスツール。「COFFEE CEREMONY」の素材や技術を発展させて、家具を製作。木製部は、愛知のアーティストリーとの協働により製作。黒色の木のベースは既製品で、もう一方のベースは「COFFEE CEREMONY」にも参加した京都の斉田石材店との協働によるもの。Photo by Kim Dooha

海外での活動も視野に入れて

今後も京都だけでなく、さまざまな産地の伝統工芸のつくり手と仕事をしていきたいという。同時に、これまでも手がけてきたが、家具をつくりたいという考えがある。実は、「COFFEE CEREMONY」をミラノの国際家具見本市に出品したのは、商品としてだけでなく、家具などのプロダクトにつながる契機になればと考えたからだ。

石上は言う。「デザイナーとして、自分たちは新しいものを考えて生むという立場にいますが、今あるもの、昔からある優れた技術、素材にもスポットを当てながら、ものづくりに取り組んでいきたいと考えています」。ふたりは違う分野で学んだ個性を発揮しながら、日本の古き良き伝統文化に目を向け、ロングライフのデザインを目指していると語った。

「TURRIS」(2024)。インテリアライフスタイル2024で発表したオブジェ。「TSUM」を製造する福井の高橋工芸と協働した実験的作品。漆の根来塗やギターのレリック技法をヒントに吹き付け漆にエイジング加工を施し、長く守り伝えられる伝統工芸に新しい風を吹き込んだ。Photo by Kim Dooha

筆者が彼らと初めて会ったのは、江口海里の仕掛けるイベント「COMPOSITION」だった。若手支援に尽力する江口のような存在もあり、関西のデザイナーたちの発信の場が広がりつつある。彼らは、海外のデザイナーも注目する日本の伝統文化や地場産業をバックグラウンドに持ち、世界の舞台で闘う力を備えるとともに、未知なる可能性を秘めている。

PUBLIC SERVICEは、そのなかでサローネサテリテという大舞台に今年挑戦し、新たな一歩を踏み出した。その経験を糧に、今後も国内外で活動を展開していきたいという。「COFFEE CEREMONY」は、7月に京都で発表されることが決まった。まだ見ていない人は、ぜひ足を運んでいただきたい。End

【展示企画|報告会】COFFEE CEREMONY & 10 SHOKUNIN IN KYOTO

会期
2024年7月19日(金)〜27日(土) 11:00〜19:00 日月休
報告会:7月19日(金)19:00〜21:30
会場
FabCafe Kyoto 京都市下京区本塩竈町554
詳細
https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/202407_coffee_ceremony/


PUBLIC SERVICE(パブリックサービス)/石上諒一(写真左、1990年静岡県生まれ)と大津寄信二(1988年兵庫県生まれ)により、2021年京都に結成。キッチンウエア、家具などの量産品から、伝統・産業技術を取り入れた特注品の設計製作まで、多岐にわたるデザインを手がける。これまで培った協力業者・異業種ネットワークを活用し、「つくり手をつなぎ、つくりたい想い」 の実現に向けて伴走し、ものづくりのすべてをプロデュースすることを心がけている。