PROMOTION | コンペ情報 / ソーシャル / テクノロジー / プロダクト
2024.06.28 10:00
415点もの応募が寄せられた2023年度のグッドデザイン・ニューホープ賞(以下、ニューホープ賞)。インタビューの前編では最終審査会を経験した3組の受賞者それぞれの作品制作の意図やプロセスに迫った。後編では彼ら/彼女らのデザインアワードへの向き合い方やその意味を言葉にしてもらった。
動くものをつくる、つくりながら動く
都市環境、建築、AIという異なる分野を学んでいた3名によるクリエイティブユニットのun-pers(アンパース)。メンバーたちは出会ったその日に意気投合し、その2カ月後に開催が迫っていた地域の芸術祭への出展も同時に決めたという。密なブレストを1週間続けたのち、街に繰り出しながら「まちに擬態したいAI」のコンセプトを形にしていった。
un-persの代表でエンジニアの加藤 優は、仲間と練ったアイデアを形にしたいというピュアな気持ちが活動当初から今も続いているという。
「整ったデータやきれいなデザインができるよりも前に、まず外に繰り出す。まちに身を置きながら、日々の変化や進捗を自分たちが楽しむということを大事にしていました。1カ月ものあいだ開催される芸術祭への参加にあたって毎日変化する作品をつくる、動きつづけるものをつくりたいという意図と同時に、”動きながらつくる、楽しみながらつくる“自分たちの姿に地域の方々が興味を持ってくださったり、それが街自体の活性化につながったら嬉しいという想いもありました。そういった活動そのものを評価してもえるのではないかという期待からニューホープ賞にエントリーしました」(加藤)。
「Loglee(ログリー)」を手がけた中橋侑里もまた、作品づくりの当初より「動くものをつくる」ことが念頭にあったという。
「Logleeの前身となる学部時代のプロジェクトの段階で、学外のコンペやアワードに出すことを念頭に制作に取りかかっていました。またデザインとエンジニアリングを両方学ぶ環境において『体験できるもの』がないと評価されないという価値観があったので、必要となる電子工作の技術をひとつひとつ調べながら、とにかくプロトタイプを重ねる、『ワーキングプロト』をもってフィードバックの機会を得るという習慣を重ねていきました。制作メンバーの入れ替えなどもありましたが、その姿勢は変わりません。そういった技術面だけでなく、ユーザーの情緒性やその先の社会課題に根ざした活動であることをアピールする場として、ニューホープ賞を捉えていました」(中橋)。
作品を客観視する場
2023年のニューホープ賞に既卒者としてエントリーした項 雅文。企業のデザイナーとしてのキャリアを歩みはじめるなかで、「MYMORI(マイモリ)」というプロジェクトが卒業制作として終わってしまうことに心残りがあったという。
「卒業制作展で学外の方の目に触れる機会を得て、『自宅で子どもと使ってみたい』といったコメントをたくさんいただきました。フィードバックをもらうなかでこのプロジェクトは、より多くの人に菌糸を栽培してものづくりする楽しさを知ってもらうことが目的だと再認識しました。このまま終わらせてしまっていいのか?という想いを持つなかで、既卒者もエントリーできるニューホープ賞の存在を知りました」(項)。
アワードにエントリーするための資料やプレゼンテーションの準備をとおして、項自身もまたMYMORIというプロジェクトの意義や価値を捉えなおすことができたという。
「フィードバックのひとつに、MYMORIというプロダクトそのものよりも、それを使ってもらうプロセスをより丁寧に伝えるといいのではないかというものがありました。ユーザーへの届け方や伝え方をブラッシュアップすることは、アワードへの準備に重なる部分でもあり、仕事の合間を縫ってMYMORIの体験動画を制作しました」(項)。
エントリーをきっかけに、テストユーザーとの接点を改めて得る。それもまたアワードが発揮した価値のひとつだろう。
「Logleeの制作時期はコロナ禍と重なっていたこともあり、子どもや家庭を対象にしたテストをじゅうぶんに実施できていませんでした。今回のアワードを機に自分の家族以外のユーザーテストを重ねることができ、具体的な改善点の発見やモチベーションにつながりました。自分たちの活動が『制作』ではなく『社会課題の解決』であるという意識を持つことができたと思います」(中橋)。
デザインから生まれるつながり
ChatGPTなど生成AIの話題がやまない昨今にあって、そのブーム以前より活動を始めていた加藤らは、AIへの変わらぬ姿勢を示す。
「AIに賢さを期待する声が世の中には多くありますが、私たち自身は、『よわいAI』だからこそ可能な、人間とAIの対話のかたちがあると考えています。今後はこのAIをオープンソース化することをはじめ、人間とAIの接点となるさまざまなインターフェースをデザインしていきたいと思っています」(加藤)。
中橋はLogleeの展望について「愛着」という言葉を挙げる。
「Logleeは現実の課題に即して動作するデバイスとしてデザインしたものではありますが、そうした短期的な役割を超えて、親子にとって愛着のある道具や思い出として先々に残るものになってくれたら嬉しいです。子どもが幼稚園でつくったり描いたりしたものが大事に家に飾られているように、家族をつなぐ存在をつくることができたら」(中橋)。
また項は改めて「アワードのお陰でプロジェクトを継続していく勇気が得られた」と振り返る。
「会社で仕事をしながら、今回のチャンスを機にプロジェクトを発展させていきたいと思うことができました。個人プロジェクトの域を超えて、仲間を増やしながら活動を続けていきたいです」(項)。
最終審査会以降、受賞者同士や審査委員からのフィードバックをとおして、新しい仲間や手法のヒントを得ることができたと振り返る姿を、今回のインタビュイー3名に見ることができた。実際にニューホープ賞では受賞者向けプログラムとして、デザインに関する研修や交流のプログラムがさまざまに計画されている。ニューホープ賞をとおした内外の「つながり」から生まれる新たなデザインに期待したい。(文/長谷川智祥)
2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞 応募要項
- 応募期間
- 2024年3月15日(金)~8月15日(木)13:00
- 応募資格
- 応募者は個人またはグループとし、2024年4月1日現在で個人またはグループの全員が日本国内の各種専修専門学校・大学・大学院に在籍しているか、2023年6月1日以降に卒業・修了した者を対象とする。いずれかに該当すれば年齢の制限はない。
複数人が共同で創作などを行ったグループによる作品等を応募する場合は、グループを構成する全員の同意が必要。 - 応募対象
- 応募作品は、応募者が独自に創作し、2019年4月以降に制作された作品で、2024年10月31日の受賞発表日に公表できるもの。
各種権利の侵害がなく、関係教育機関や企業などとの間で応募に関して支障がないことを確認できたもの。
同一年度に同一の応募者が応募できる点数は1点までとする。 - 応募方法
- 公式ウェブサイトより各種情報を登録すること。
- 出品料
- 無料
- 賞と賞金
- 最優秀賞(1点)/賞金30万円
優秀賞(7点程度)/賞金5万円
入選(点数制限なし)
※最優秀賞・優秀賞には、副賞として1受賞作品につき記念品と表彰状を贈呈。
※各賞において「該当なし」の場合あり。
※受賞発表後には受賞者が参加できる活動支援プログラムを実施。 - スケジュール
- 一次審査会 2024年9月20日(金)※非公開
受賞発表 2024年10月31日(木)
最終審査会 2024年12月7日(土)※公開形式で開催予定 - 詳細
- https://newhope.g-mark.org/
審査委員
- 審査委員長
- 齋藤精一(クリエイティブディレクター/パノラマティクス主宰)
- 審査副委員長
- 永山祐子(建築家/有限会社永山祐子建築設計取締役)
- 物のデザイン
- 金森聡史(デザイナー/本田技研工業株式会社クリエイティブソリューションセンター)
田子 學(アートディレクター、デザイナー/株式会社エムテド代表取締役)
玉井美由紀( CMFデザイナー、環境クリエイティブ・ディレクター/株式会社FEEL GOOD CREATION 代表取締役)
松本優子(プロダクトデザイナー/パナソニック株式会社くらしアプライアンス社) - 場のデザイン
- 鈴野浩一(建築家/株式会社トラフ建築設計事務所共同主宰)
鷲尾有美(空間デザイナー/コクヨ株式会社、neighborGood 主宰) - 情報のデザイン
- 浅沼 尚(デジタル監/デジタル庁)
河瀬大作( TVプロデューサー/株式会社Days 代表取締役) - 仕組みのデザイン
- 内田友紀(都市デザイナー、リサーチャー/ YET 代表、株式会社リ・パブリックディレクター)
松坂孝紀(学校経営者/神山まるごと高等専門学校)