好きなアイドルやキャラクター(だけに限らず好きなモノすべてが対象)をさまざまなかたちで応援する「推し活」はZ世代を中心に世代やジャンルを超えてひとびとの生活に浸透しています。
2021年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたことでも認知度が高まり、今や「推し活」の経済効果は約6000億円以上の規模に及びます。なかでも「推しに触れる・染まる」という活動では、「メンバーカラー」「担当カラー」といった個々に割り当てられたイメージカラーや、ファッション・ヘアカラーが存在し、「推し」を連想させる各カラーのグッズやアイテムをコレクションすることで、自身が推す対象への応援や気持ちをアピールします。活動の一例として、好きなアイドルやキャラクターのアクスタ※1やブロマイド、推しぬい※2などのグッズを収納・コレクションするためのアイテムを独自にデコレーションしたり、DIYでカスタマイズし、こだわりの詰まった唯一無二のアイテムづくりをするのも推し活の楽しみ方です。
※1 アクリルスタンド。立ち絵や肖像をアクリル素材板に印刷し、台座に立て飾ることのできる定番アイテム。
※2 推しがデザインされたぬいぐるみ。ライブグッズや自作したもの等、推しの分身として好みにカスタマイズもしている。
防汚性があり細密描写で展示映えする「マット加工」、サングラスのようなメタリック偏光やオーロラのような透明干渉で光を受けてさまざまな色に輝く幻想的で目立つ「ホログラム加工」、シールやラインストーンで立体的なデコレーションをすることで自身の推しアイテムを華やかにしています。このように鮮やかに映えさせたアイテムをライブやイベントに持ち運び、一緒にお出かけした写真をSNSに投稿することも推し活の楽しみのひとつとなっています。
このような推し活需要に伴って、飲食店や複合エンターテインメント施設、均一価格の小売業でもさまざまな推しのイメージカラーに対応できるような商品を展開し、推し活に力を入れています。また逆に取り扱う商品の色を限定した新しい視点の古着店なども登場し、限られた色の商品しかない分、推しのカラーを探しやすく購入しやすいため人気となっているようです。
推しカラーを意識しながら雑貨や飲食料品を購入し、服装やメイク、持ち物など身の回りに推しの要素を取り入れつつコーディネートすることで、常に推しを身近に感じることで気分が向上し、幸福感や充実感を得ることができ、生きる活力になる。少し前ではネガティブな印象もあった「オタク」活動が、多様性を尊重される現在において、広く享受され寛容になってきていると思います。
「Y2K」から「Y3K」へ、近未来的な雰囲気に変化
メイクやファッションで少し前に話題となったY2K(Year2000の略、2000年代前後に流行した「ギャル」や平成レトロなどのリバイバルブーム)は進化し、Y3Kへ移行しています。Y3Kは「3000年の近未来感」を表現したY2Kの派生スタイルで、SF・デジタル感、ゲーム世界や仮想現実などを連想させるフューチャリスティックな世界観です。近年ハイブランドでもY3Kを彷彿させるルックが発表されており、インパクトを与え話題となっています。
Y2Kは彩度の強いピンクなどのポップで元気なカラーや、ラインストーンのようなギラギラとした力強い光輝感が特徴でしたが、Y3Kでは少し非現実的でネオンやCGグラフィックを思わせるグラデーションと光の移ろい、薄膜を1枚張ったようなクリアで無機質なツヤ感、液体のようなシルバーメタリック素材、ライトブルーやパープリッシュなどの淡いペールライトトーンでシアー感ある組み合わせなど、サイバー感のある色合いが特徴です。
平成レトロやサイバーパンクなど過去に流行った価値観やカルチャーが、デジタルネイティブ世代には目新しく新鮮に感じられ、自身の個性を表現するスタイルとして上手く取り入れて、新しい表現方法へと昇華されているようです。
玩具や雑貨の変化にも注目
最近の家電量販店やデパートにあるおもちゃ売り場の商品や雑貨も、前述の価値観変化と共通しCMFデザインも変化していると感じます。以前はストロングからビビッドトーンのような純色に近い高彩度・中明度色でソリッドのような重さを感じる素材感が中心でしたが、近年ではペールからライトトーンの低中彩度・高明度色に、ホログラムやパールのような無粒子で動きと透明感のある軽い質感が多く見られます。
近年の商品や雑貨では明るいミントグリーン、青味方向のライトピンク、ライトパープル、ライトブルーなど、中性的なカラーが全体的に多く、デジタル感と浮遊感のある軽快で幻想的雰囲気が感じられます。近年の玩具は機能や仕掛けも凝っており、大人も見ているだけでワクワクさせられます。
また、Japan Mobility Show 2023でも同様のCMFを一部見ることもでき、EV化に伴う近未来的な雰囲気を上手く表現しているように感じました。
今回紹介したCMFのトレンドの背景には、生成AIやNFTなどのデジタルテクノロジーが社会へ浸透してきたことがあると思います。特に最近では、動きや光・音を取り入れたキネティックアート、より世界観に没入できる参加型のイマーシブ体験など、ひとびとの感覚に訴えかけるクリエイションも話題となっており、現実世界と仮想世界の境界線が曖昧になっていると感じます。このふたつの境界線が曖昧になったことで、リアルとバーチャルをクロスオーバーさせたようなCMFが注目を集めているのではないでしょうか。われわれも物理的制約がないデジタルならではの自由な発想と表現、「この製品にはこのカラーと質感が定番!」という固定概念に縛られない、多様性と新しい視点を取り入れたデザインに挑戦していきたいと思います。