PROMOTION | グラフィック / ファッション / プロダクト
2024.05.24 10:00
極上の手触りと美しい質感、植物由来原料を用いたサステナブルなストーリー性。化学繊維ならではの高い機能性によって、国内外の革新的なクリエイションを支えてきた東レが開発する「Ultrasuede®(以下、ウルトラスエード)」。
50年以上にわたってデザイナーらに愛されつづけてきた魅力はそのままに、唯一無二の本素材が持ち得る心揺さぶられるほどの感動を広く周知すべく、ウルトラスエードのプロモーション映像「About Ultrasuede “Beautiful Possibilities”」が制作された。映像を手がけたのは、「⼈々の⼼に躍動を生み出す」をミッションに掲げ、圧倒的なCG表現で世界をけん引してきたビジュアルデザインスタジオのWOW(ワウ)。「WOWにしか実現できない」と東レから直接依頼して制作された本映像の裏側に迫る。
東レ×WOWの挑戦 “触りたくなる”表現を求めて
——ウルトラスエードのプロモーション映像を制作するにあたって、WOWへの依頼内容はどのようなものだったのでしょうか。
関口(東レ) 「ウルトラスエードの“魅力すべて”をビジュアライズしてほしい」とお願いしました。ファーストコンタクト時の依頼内容は、ウルトラスエードが持つ機能性と情緒的な美しさを表現することだったのですが、WOWの中路さんと意見を交わすうち、素材から生地になるまでのプロセスも含めて、この生地が持つ多角的な魅力を映像にまとめることになりました。
西村(東レ) 映像化にあたっては、本素材の特性を熟知するウルトラスエードのメンバーが集まって話し合い、達成目標を定めました。それは、映像を観た人たちがウルトラスエードを“触りたくなる”ものにすることでした。
——こうして完成した映像をご覧になって、今どんな心持ちですか。
西村 私はもともと営業畑の人間で、今でもデザインは専門外ですが、ただただすばらしくて感嘆するしかありません。ハリがある柔らかなドレープ感、自重で美しく垂れ下がる落ち感、思わず触りたくなるやさしい起毛感など、まさに手に取れそうなほどのウルトラスエードがそこに再現されています。
中路(WOW) ご依頼内容のなかでも、映像をご覧になる方の「触りたい」という欲求をいかに刺激できるかについて試行錯誤した結果、ウルトラスエードが持っている質感を極限まで表現することでそれが叶えられることに思い至ったんです。ですから、弊社の中でもトップクラスでCGの質感表現に優れたスタッフに依頼をして、ふたりがかりで挑みました。
——約4分に集約された映像は、製造プロセス、加工性、機能性の3セクションに分かれていますね。
関口 ウルトラスエードは、アパレルやインテリアをはじめ、クルマの内装、コンシューマーエレクトロニクスなど、さまざまな領域でご活用いただいていますから、目的ごとにセクションを分けたほうが映像をご覧になるお客さまが情報をキャッチアップしやすいと思ったのです。
西村 ウルトラスエードはあくまで中間商品ですから、最終製品として世の中に出していただけるメーカーやブランドの方々にどうアプローチしていくかは、相手によって大きく変わる。これは、東レのような素材メーカーにとっては、永遠のテーマです。
中路 その一方で、3つの映像は地続きの1本として見れるようにもしています。従来の石油由来のポリエステルや植物由来のポリエステルのペレットが糸になって、生地になって、商品になって——。最後には世界に広がっていく。こうしたつくりは僕のディレクションでは珍しいものですが、3本をとおして見るとストーリーとしても伝わるようになっています。
関口 弊社の販売拠点は、アメリカや中国、ドイツにもありますし、今後さらに販路を拡大させていこうとするなかで、ストーリーが与えるスケール感の広がりは、私たちの想いを体現するものでもあります。
バーチャル“だからこそ”つくり出せる本物の魅力
——そもそも本企画を発案したのは、関口さんだったそうですね。
関口 はい。これまでウルトラスエードは、上質な質感や発色の良さはもちろん、通気性や軽量性、ウォッシャブルであることなどの機能性や高品質といった魅力を堅実に伝えるような広報表現をおこなってきました。ですが、近年お客さまが素材メーカーに求める価値観が変化し、エンドユーザーも素材にこだわって購買するようになりました。この変化に対応するためには、世界中の誰が見てもウルトラスエードの魅力を伝えることができるツールが必要だと感じたんです。
ウルトラスエードに直接触れたときに心が動かされるような情緒的な価値や魅力を、文章や図で表現するのは難しいため、今回は映像という表現ツールを選択しました。
——生地の魅力を映像化しようと思ったとき、どうしてWOWに白羽の矢が立ったのでしょうか。
関口 むしろWOW以外にはあり得ないと思っていました。光の下でウルトラスエードを見たときの息を飲むような美しさを映像で感じていただくためには、並大抵の表現方法では難しいと感じていたのです。もともとWOWが手がけた作品はさまざまな機会で目にしていたので、この映像をつくる方々ならきっと私たちの想いを叶えてくれるはずだと思って、制作をお願いしました。
中路 はじめてお会いしたときに説明を聞いて、東レの実現したいことはすぐに理解できました。ただ、その後に工場見学もさせていただいてわかったのは、言葉で説明すれば何分あっても足りない複雑な製造工程や豊富な加工性、充実した機能性があるということです。それらをいかに簡潔にまとめあげられるかが映像化における勝負の分かれ目だと感じたことを覚えています。
——西村さんも映像制作中は絵コンテやラフ映像などもご覧になっていると思いますが、不安な要素はありましたか。
西村 正直に打ち明けると、絵コンテやラフ映像を見ても私にはイメージがつきませんでした。文字や図解、写真、映像でウルトラスエードの魅力を伝えることの難しさをずっと感じてきたので、すべてをCGでつくるなんてあり得ないと思っていました。
——そうした想いはどのように払拭していったのでしょうか。
西村 理由のひとつは部下への信頼です。関口の仕事ぶりや成果物をこれまで見てきましたし、定例会議で社員の目線は揃っていましたからとにかく信じることにしました。
もうひとつは、私たちの技術の心臓部である製造工場をすべてスチル撮影することは技術的な観点や知的財産的に絶対にできませんが、CGなら必要な部分だけを描いていただけることに気がついたんです。
中路 メーカーでは、実物を撮影しないことへの抵抗感はいまだに根強く、そうしたご意見は珍しいことではありません。今回の映像も、完璧なライティングをすればスチルカメラでも撮影可能な部分はあったと思います。
ただ、関口さんたちが僕らに依頼してくれたということは、実写のもつ魅力に加えて、WOWのCGにしかできないことを求められているのだろうと。実際、ウルトラスエードの質感の表現を再現することはひじょうにハードルの高い内容でしたが、結果としては映像のクオリティを担保しつつ、ご依頼内容を満たした映像になったんじゃないかなと満足しています。
今改めて理解する「進化する素材、その美しき可能性」
——映像が完成した今、このたびのコラボレーションを振り返ってみてどんな想いですか。
西村 ただただWOWのクリエイションのすごさに驚くばかりですし、自分の営業マン時代にこの映像があったらどんなによかっただろうか……と思わずにはいられません。この映像は、展示会や宣伝目的での使用を予定していますが、ブランドの進化を周知するために、東レ企業内でのインナーブランディングを目的に使用することも検討しているところです。
関口 本映像は、素材を熟知している私たちにも驚きを与えてくれる素晴らしいものでした。ウルトラスエードには「Beautiful Possibilities (進化する素材、その美しき可能性。)」という、ブランドの価値を象徴するタグラインがありますが、映像をとおしてその意味を真に理解できたような気さえします。
そして、この素晴らしい映像が完成した今、今後どのように活用していくかを検討中です。ウルトラスエードの展示会やSNSでの発信など、ブランドのなかでの活用は勿論ですが、すでにウルトラスエードを使っていただいているお客さまが、自社のショールームやディーラー、イベントなどで、エンドユーザーの方に素材を説明するときにこの映像を使っていただきたいなと。この映像を通じて、すでにお付き合いのあるお客さまにもプラスになるような取り組みを提案していければと考えています。
——今回の協業を経て、WOWや中路さんにとっての気づきや新しく挑戦してみたいと感じたことがあれば教えてください。
中路 今回のご依頼内容は、「美しさ」や「情緒的」、「触りたくなる」という、主観的で五感に訴える要素が多かったと思います。難しいお題ではありましたが、やり終えて感じたことは、主観的で答えがないお題で制作することの大切さでした。
関口 確かにとても難しいお題だったと思います。ただ、今回の制作を通じて中路さんに試行錯誤いただいた、主観的に答えがないことを掘り下げるというプロセスは、結果的にウルトラスエードが持っている魅力の再認識と、お客様視点で表現することの大切さに改めて気付くことにつながったと思います。映像制作中のブレストで「ウルトラスエードが持っている根本的な価値」についても話し合ったのですが、心地よい質感や美しい光沢、色彩など、中路さんが言うように五感に訴えるピュアな特徴がウルトラスエードのとても大きな魅力だと認識できました。
また、お客さまが「きれいだな」と感じる気持ちに寄り添って、コミュニケーションやツールをつくること、それこそが正にウルトラスエードがつくる「情緒的」「美しさ」の表現だと再確認できたと思います。素材ブランドあるあるかも知れませんが、メーカー側の歴史や誇り、突き詰めてきた技術や知識など、つくり手側が伝えたいことって本当にたくさんあって、思わずそれを強調して表現してしまいがちになるのですが、単視眼的にならずに素材を購入してくださる方のことを第一に考えた表現を大切にしていきたいと思っています。
中路 そうした、ウルトラスエード事業部として大切にされている情緒的な感覚は、人の心を動かすうえで重要な要素ですよね。この映像も、僕やWOWのみんながウルトラスエードを目で見て触って話を聞いてできあがったもの。だから、すごく人間味のある映像に仕上がったと感じています。この経験は、AIで簡単に映像が生成できてしまう今、目に見えないものや、必ずしも言語化できないけど人間の中にある感情などの視覚化にチャレンジする大切さに気付かせてくれたように思います。きれいだなとか、触りたいな、と思う感情は、世界共通で普遍的な人間の感覚ですから。(文/阿部愛美)