12年ぶりに開催されるデザインイベント
「DESIGNTIDE TOKYO」。
私たちは揺らぎを生み出す当事者になれるか

「若手デザイナーが作品を発表する場がない」「アートイベントはたくさんあるのに、みんなが知るようなデザインイベントがない」「かっこいいデザインイベントがない」……。

いつしか東京のデザインシーンでこんな言葉が聞かれるようになった。多くのデザイナーはクライアントのためにデザインするだけでなく、プライベートワークとしてテーマを定めて作品を制作し、それを展覧会やイベントで発表する。イベントはデザイナーが自らの考えを人々にプレゼンテーションする機会であり、受け取った人々と対話を重ねる場でもある。こうしたやり取りが、やがてデザインの可能性を更新したり、より広い人々のデザインへの関心や期待を高めるといった効果を育んでいる。

DESIGNTIDE TOKYO 2008

DESIGNTIDEは、2005年にスタートしたデザインイベント。2008年に名称をDESIGNTIDE TOKYOに変え、東京ミッドタウンをメイン会場に、2012年まで毎年秋に開催された。1990年代に東京で開かれていた数々のデザインイベントの流れを汲みながらも、「思考をトレードする場」と掲げられたテーマからわかるように、他のイベントとは異なる、デザインを啓蒙しようという態度を打ち出していた。出展者は、毎年、3、4組の招待デザイナーに加え、公募で選ばれた50組ほど。展示ブースに常駐し、自らの作品について来場者に説明する出展者など、会場は人々の熱気に溢れていた。また、建築家やデザイナーが展示会場をデザインするのも特徴だった。やがてDESIGNTIDEのスペースデザイナーに起用されることが、「建築家の登竜門」とまで言われるようになった。

DESIGNTIDE TOKYO 2009

そんなDESIGNTIDE TOKYOが、今年11月、12年ぶりに復活する。ファウンダーとして率いるのは、本イベントの設立者のひとりである松澤剛(E&Y代表取締役/デザインエディター)と、新たに加わった武田悠太(ログズ代表取締役)。武田はアートフェア「EASTEAST_TOKYO 2023」や10代向けのクリエイティブ教育「GAKU」を立ち上げたアグレッシブな人物だ。デザインの専門家ではない武田の参加が、DESIGNTIDEに揺さぶりをかけているように見える。「今、企業がアートと言っているものの大半が実はデザインだと思う。それでも人々がアートと言いたいのは、デザインが面白くないから。デザインは世の中を、社会を揺るがすことができるのか。それぞれが引いているデザインという言葉の線を揺るがしたい」(武田)。

松澤剛(左、E&Y代表取締役/デザインエディター)と武田悠太(ログズ代表取締役)

ディレクターには6人の名前が連なっている。まずは佐藤拓(ギャラリーディレクター)と秋本裕史(E&Y取締役/ディレクター)。このふたりが実際に出展者をキュレーションしていくのだろう。「デザインはいつしか高尚な、権威化したものになってしまった。そうではなく、見た人が『わからない』とエラーを起こすぐらいの作品でなければ面白くない。もっと人間味にあふれた、振り切ったイベントにしたい」(佐藤)。「今、デザインに求められているのは、デザイナーの個としてのエゴが表出しているようなもの。つくり手に本物の熱量がなければ、イベントに人は集まらないと思う」(秋本)。

佐藤拓(左、ギャラリーディレクター)と秋本裕史(E&Y取締役/ディレクター)

さらに、マックス・フレイザー(デザインジャーナリスト)、モニカ・ケムスロフ(Sight Unseen共同創刊者)、ジル・シンガー(Sight Unseen共同創刊者兼編集長)、スズキユウリ(サウンドアーティスト)がディレクションに加わっている。海外を拠点とする4名を選んだ理由のひとつを、松澤は「日本にはデザインについて自分の言葉で語れる人がいない。メディアを含めて」と語った。これは弊誌にも耳が痛い言葉だ。スズキには今のデザインに欠けている「遊び」の要素を求めているという。

マックス・フレイザー(左、デザインジャーナリスト)、モニカ・ケムスロフ(Sight Unseen共同創刊者)とジル・シンガー(Sight Unseen共同創刊者兼編集長)、スズキユウリ(サウンドアーティスト)

開催は2024年11月27日(水)〜12月1日(日)、会場は日本橋三井ホール。出展者のエントリー締め切りは5月15日(水)正午。35歳以下のクリエイターには補助制度が設けられているという。

DESIGNTIDE TOKYOの復活を心待ちにしていたデザイナーは多いに違いない。同時に、ステートメントに記されているように、停滞している世の中に対して大きな可能性を示し、うねりを生み出すことができるのか、イベントに関わるひとりひとりに問われている。(文/AXIS 谷口真佐子)End

DESIGNTIDE TOKYO 2010