喜友名美沙希(@kyuna_design)は、沖縄で生まれ育ち、沖縄県立芸術大学でデザインを学んだ。同大学大学院デザイン専修を修了するまでに、棚、照明、スツール、テーブルといった計6作品を制作。そのうち3作品がイタリアのA’デザインアワードを受賞し、IFFT東京国際家具見本市に2年連続で出品、2022年にサローネサテリテへの出展も果たした。この4月から、カリモク家具グループの製造部門で設計を担当している。そんな喜友名に家具づくりの魅力やデザインに対する考えを聞いた。
幅広く学べる沖縄県立芸術大学に入学
幼少期から絵を描くことが好きで、美術系の高校に進んでデッサンや絵画を学んだ。卒業後、沖縄県立芸術大学美術工芸学部に入学した理由をこう語る。「まだ自分が将来、何をやりたいかはっきりとわからなかったので、幅広くいろいろなことが学べることと、少人数制クラスなので、先生からこまやかな指導が受けられることに魅力を感じました」。
1、2年時は、グラフィックやイラスト、写真などの授業を選択して学んだ。だが、自分が本当は何をしたいのか、何ができるのかと自問自答し、将来の道を模索していたという。
家具デザインの世界に魅了される
転機が訪れたのは、大学3年の夏だった。課題で椅子を製作していたが思うようにいかず、悩んでいたときにデザイナーであり、准教授の高田浩樹から声をかけられた。「こうしたらできる」とアドバイスを受けて完成させることができ、初めて家具づくりの面白さに触れた。
その後、高田から国内外の多様なデザイナーとその仕事について話を聞いたり、研究室に並ぶ書籍を読んだりすることで家具デザインの世界に興味を抱き、4年次から高田の教えるクラスに入った。
ほかの学生よりもスタートが遅かったため、1年間に家具を2つ製作することを目標に取り組んだ。「自分が生活で使いたいもの、欲しいものをつくろうと考えました。機能性と、見たときや使ったときに心に働きかける部分を共存させて、どちらか一方に傾かないように注力しました」と喜友名は語る。
日本の居住空間の間取りや生活をするうえでの不満や願望などを書き出してアイデアスケッチを起こし、モックアップをつくり、高田をはじめ、いろいろな人の意見を聞いて検討を重ねた。デザインが固まったら、学内の工房で自身の手で製作する。工房のスペースは広く、切削や溶接、塗装などの機械がひと通り揃い、完成品を撮影するためのスタジオもある。高田と木工専門の講師が指導にあたり、喜友名も助言をもらいながら製作に打ち込んだ。
自分の欲しい家具を自身の手でつくる
最初の1年間に、見せる棚「BUTAI」と隠す棚「karakasa」を製作。「BUTAI」は、たいていの本棚が等間隔に仕切られているため、飾るものの大きさが限定されたり、背表紙のデザインに連続性があるシリーズ本を分割して置かなければならないといった小さなストレスが発想の原点となった。支柱兼仕切りの役割をもつ鋼板を固定せず、自由に配置できるようにして、好きなものを好きな場所に飾り、独自の世界観を創造できる棚を製作した。
大学の卒業制作作品には、ほこりや日焼けから守り、大切なものをしまう「karakasa」をつくった。収納スペースが少なく、壁に釘を打つことができない賃貸マンションの狭小空間で、デットスペースを活用して省スペースで使えるものとして考えた。
家具のなかでも、特に棚のデザインを考えるのが好きだという。「ものが好きだから、自宅では棚の模様替えをしょっちゅうしています。どこに何を飾るか、どう収納するか、美しく使いやすい配置を模索するなど、想像を巡らす楽しみが無限にあることが魅力です」と語る。
大学院で照明デザインに取り組む
棚のデザインに取り組む一方、家具づくりについてまだ知らないことが多分にあり、目指しているデザイン表現が上手くできないもどかしさを感じていた。もっと作品をつくって学ばなければいけないと思い、3年次から就活をしていたが、大学院に進学することに決めた。
大学院では、「日本の文化を背景にした情緒的な家具のデザイン」を研究テーマにおいた。1年次は、和紙を使った照明器具「Waon-和音-」と、コロナ禍に自宅時間を楽しむ家具として考えた「Lamp stool-蛍-」という、いずれも照明器具を取り入れたデザインに挑戦。
「Waon-和音-」は、美濃和紙を用いて、柔らかい曲面を描いた浮遊感のあるものをつくりたいという思いから出発した。試行錯誤を重ねた末、和紙を蛇腹状にして、数枚の透明なアクリル板を使って背面から折り目を支えることで、曲線を描きながら宙に浮いて見える照明が完成した。
「Lamp stool-蛍-」は、2022年に初めてサローネサテリテに沖縄県立芸術大学の一員として出品。そのときに喜友名を含む、出品した学生全員が海外のあるメーカーのブースに招待されて、家具づくりに対する考えを聞く機会を得た。
「家具は、細部にわたって手作業で製作する部分が多いため、職人の考えやセンスをとても大切にしている。家具づくりは、デザイナーひとりではできない、職人とともに生み出していくものである」と。これまでは「個」の思いから出発したデザインを考え、自身の手で製作してきたが、職人と協働することの意義を考え、家具づくりに対する興味がさらに深まったという。
大学院の修了制作では、これまでの集大成として「Palette Table-波紋-」を製作。「畳の間を使ったり、集まったりする機会が少なくなっているなかで、ひとりで使うこともできて、人が自然と集まってくるような、新しい令和の時代のちゃぶ台をつくりたいと考えました」と話す。コミュニケーションを促す3つの円が重なり合うフォルムの天板と、裏面は白く塗装し、建築物の柱を参考にして脚のデザインを考えた。
多様な人との協働、多様な人に向けた家具づくり
家具に向き合い、取り組んできてまだ3年余りだが、今の喜友名が思う、デザインに対する考えを訊ねた。
「デザインは、愛をもって創造することだと考えています。クライアントさんや職人さん、そのものを使う人など、それらすべての人に寄り添い、限られた時間のなかで試行錯誤し、最高の一品を提供する。誰かの悩みを解決してあげたい、美しさや新しさを発見し、感動できるものを届けたい。そういう思いをもって、取り組んでいきたいと考えています」。
まっすぐ向き合って挑戦すること、動き続けること
「これまで悩んだり、迷ったり、立ち止まったりすることが多々ありました。そんなときに、いつも高田先生が自分に正直に、まっすぐ向き合って挑戦すること、動き続けることが大事だと言ってくださり、そのおかげでここまでくることができたと思います」と、喜友名は現在の心境を語る。
イタリアのA’デザインアワード、IFFT東京国際家具見本市、サローネサテリテへの出品は、すべて高田が学生らを鼓舞し、参加を促して実現したものだ。高田のクラスからほかにも、稲嶺優子(@yuko_design.1999)、藤原颯真(@fujiwara.design)がA’デザインアワードを受賞し、2024年には7名(稲嶺優子、岩野杏弥(@anmi_dsn)、大城英里奈(@ern_d0411)、姜 藝晗(@erin_kyo_39073)、國光陽菜(@naharun_tenji)、仲村太斗(@factory_hiroto)、知念美月(@sa.ya3355))がサローネサテリテに出品する。
そして、喜友名は今春から愛知県のカリモク家具グループ製造部門で、デザイナーと職人をつなぐ重要な役割を担う設計を担当している。今後も貪欲に学び吸収し、日本のものづくり、家具デザイン界を盛り上げていってほしい。