タカスガクデザインアンドアソシエイツ(TGDA)の代表であり、インテリア・プロダクトデザイナーの髙須 学は、地元の福岡と東京の2拠点を軸に活動する。空間に合わせて家具や金物、内装材の一部を独自に開発し、昨年よりプロダクトのオンライン販売も始めた。日本の商空間は短命と言われるなか、髙須の手がける店は20年以上続くところもあるほど、息が長い。コストや納期など、厳しい条件下でどのように多くの人に愛される、心地良い空間を生み出しているのか。デザインに対する考えなどを聞いた。
大学時代の学びからインテリアデザインの道へ
髙須は、1974年に福岡で生まれた。小さい頃からクルマが好きで、カーデザイナーになることを目指して1993年に九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科に入学。大学で学ぶうちに「美しいものには人々を幸せにする力がある」ことに気づき、デザインの魅力に惹き付けられた。そのなかで自分にできることは何かと考え、在学中の4年間、福岡にある名店のバーでアルバイトをした経験から大きく方向転換する。
「どうしたらお客様を喜ばせられるか、より美味しい料理を提供できるかと日夜考え、丁寧に仕事をするスタッフの方々の姿を見て感銘を受けました。店づくり、空間づくりに興味が湧き、卒業後はインテリアデザインの道に進もうと決めました」。80、90年代にかけてインテリアデザイナーが数多く生まれ、東京を中心に商空間のデザインが注目を集めた。
卒業後、東京の会社に就職しようと考えたが、アルバイトをしていたバーの常連客だった長峰秀鷹と出会い、考えを変えた。長峰は、福岡の天神にあった国内外のモダン家具などを扱う伝説的なインテリアショップNICの元インテリアデザイナーであり、福岡をデザイン都市として盛り上げていくために活動したことでも知られる。
髙須は、「興隆していた東京に比べて、なぜ福岡に面白い店舗デザインが生まれないのか」という疑問を抱き、自分の生まれ育った地の人々のために尽力したいと思い、長峰が代表を務める福岡のFARM一級建築士事務所に1997年に入社。ホテルや商業施設など、大手企業の大型物件をはじめ、地元の工場や職人とのやり取り、家具製作にも携わり、多くのことを学んだ。
独立後に転機となった、ふたつの空間デザイン
90年代初頭のバブル崩壊後、日本のインテリアデザイナーの数は次第に減少し、2000年以降は内部空間にあまりお金がかけられないローコストデザインの時代に突入する。そんななか、髙須は2002年の28歳のときに独立し、タカスガクデザイン(現・タカスガクデザインアンドアソシエイツ)を開設。福岡を中心に店舗設計をいくつか手がけた。確かな手応えを感じ、自信につながったのは、2004年の美容室「TERMINAL」だった。
「それまで自分が目指すようなデザインが上手くできず、ジレンマを感じることも多かったのですが、このときにクライアントの個性や考えに寄り添い、唯一無二の魅力を表現することができ、それがちゃんと評価につながったと感じられました」と髙須は語る。全国で販売する雑誌に初めて取り上げられ、それ以降、さまざまなプロジェクトが評価を受け、取材も舞い込んだ。
2回目の転機となったのは、東京に本社を置くBAKEが国内外に店舗をもつチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」の福岡店。工場直送のつくり立ての美味しさを届けるというコンセプトのもと、空間全体をショーケースに見立ててガラスで覆い、菓子工場に訪れたかのような臨場感やワクワク感を引き出すことを考えた。
また、スタッフの足元まで清潔に美しく見せたいというクライアントの要望から、日本に入ってきたばかりのモールテックスを用いて浮遊感のある什器をつくり、80、90年代に憧れたデザイナーらのようなアヴァンギャルドなデザインに初めて挑戦。そうした空間デザインが短命に終わるのを数多く見ていた髙須は、自分に抑制をかけていたが、このときに「足かせが外れたのを感じた」と言う。
前衛的でありながら、クライアントの思いや客の目線が考え抜かれた空間デザインが高く評価され、その後、バンコクやソウル、シンガポール、長崎、鹿児島、東京駅構内の店舗も任された。
空間に合わせてオリジナルで家具を製作
髙須は、什器だけでなく、家具の一部もオリジナルで製作している。空間に合わせて調和するデザインを考えるだけでなく、機能性や美しく座り心地の良さも徹底して追求する。
2012年の会員制図書館「BIZCOLI-BIZ COMMUNICATION LIBRARY-」では、椅子「LATO」を製作。グループミーティングやイベント時に容易に移動できるようにそり脚にして、着座時に自然に肘をかけられるようにアームの形状や高さを考えて設計した。この椅子の評判が高かったことから、2013年にカッシーナ・イクスシーで製品化された。
自主企画展を機に、内装材の開発に着手
髙須のデザインは、さらに次のステージに移行していく。福岡を拠点に活動する坂下和長、中庭日出海とともに展開している自主企画展Beyond the simplicityにおいて、2017年に発表した「haze」が契機となった。東京のガラス工場と協働して素材からオリジナルで開発したものだ。この経験から素材に興味を抱き、内装材の開発にも着手し始める。
現在は地元の九州を中心に、各地の工場や職人と開発した素材を活かしているが、決して無理をせず、その空間にとって意味のあるものを採用しているという。2018年の福岡の「リストランテフォンタナ」のリニューアルプロジェクトでは、創業から27年という世代を超えて愛されてきた空間を今の時代にふさわしい要素を加えて、未来へつなぐことをコンセプトに置いた。
最も空間を印象付けているのは、旧店舗を象徴するアンティークの赤レンガを再利用した壁面だ。解体後に粉砕した赤レンガの粉と博多赤土を使って土を生成し、古くからある「版築工法」という左官技術を用いて土を積み固めながら壁を形成。老舗レストランの時の蓄積を、赤土壁の地層柄として表現した。
衣食住すべての要素を盛り込んだホテルに向けて
予算枠やタイトな工期スケジュールといった厳しい条件があるなかで、空間に合わせて家具や内装材を開発し、空間すべてをディテールまでこだわって手がける理由について、髙須はこう語る。
「われわれのひとつつひとつのプロジェクトに注ぎ込む時間と、図面の量はおそらく他社よりも多いと思います。それが多ければ多いほど、その空間は個性という魅力を持ちはじめ、クライアント、そして、お店に訪れるお客様(エンドユーザー)の心に届くと思っています」。
髙須が目指すインテリアデザインとは何か。「クライアントの気持ちに寄り添って設計し、訪れる人が最高に心地いいと思ってもらえる空間をつくる。誰かを豊かにするためにデザインする、それがインテリアデザイナーの仕事の原点だと思います」。
今後手がけてみたい空間デザインは、「衣食住のすべての要素が盛り込まれたホテル」だという。「われわれが今まで培ってきた多彩な部分を活かせると確信しています」と意気込む。次なるステージに向けて、また新たな扉を開こうとしている。