3回にわたって綴ってきた韓国レポートの最後は、街なかの工夫編である。実際にはこれまでの渡韓で目にしていたはずのものに、天気の具合でふと気づいたりする。
交差点の折り畳み式の日除け/雨除けは、まさにそういう存在だった。一度そこに意識が向くと、テジョンでもソウルでも、少なからぬ交差点に設置されていることがわかる。比較的小さな交差点のユニットは、リゾートのプールサイドにもありそうな手動のパラソル式だが、大きな交差点になると、商店の軒先にあるような直線的に展開するタイプのものが設置されている。強風の際には畳まれて影響を受けないようにでき、詳細は不明だが、後者は電動でリモート操作できるようになっている可能性もある。
いうまでもなく、これらは晴天や雨降りのときに信号待ちをする歩行者の利便性を考えて設けられた公共の設備なわけだが、ここまで異常気象が続くとなると、日本でも設置を検討して良いように思われた。
同じく歩行者関連の設備で興味をひかれたのは、大きな交差点の歩道の際に埋め込まれた補助信号的な高輝度の光るタイルである。メインの信号と連動して、渡れる方向とそうではない方向のタイルが、それぞれ青と赤に点滅して注意を促すようになっている。道幅が広いと向かいの歩行者信号が小さくて見えにくい場合もあり、最近では信号待ちの間もスマートフォンに目を落として前を見ていない人も多いため、このような仕組みが交通安全の一助になっていると感じた次第だ。
また、テジョンのエキスポサイエンスパーク近くの河原を散策しているときに、土手の上から若者や子どもたちの歓声が上がった。そして、ある一角からずっと聞こえてくる。何かと思って土手の上にあがってみると、そこに並んでいたのは3棟のガラス張りの小屋であり、人々がランチを楽しむ姿だった。実は、この小屋は都市ガスで肉を焼けるバーベキュー施設で、自動ドアを開けると4基の鉄板が設えられ、頭上には巨大な換気扇が設置されている。つまり、最大12組のグループが同時に調理できる仕組みだ。日本でも、薪で火を起こして使うタイプのバーベキューの設備が屋外に設けられているところはあるが、しっかりした建屋で囲われているのは、寒いテジョンの冬でも気軽に使えるようにという配慮からのようだ。
しかも、この施設は、空いていれば予約なしに誰でも無料で利用できるのである。火を使うだけに管理が大変そうだが、利用者のマナーが良いのか、市の清掃職員が頑張っているのか、内部が清潔に保たれていることに感心した。ガス代も無視できないと思うのだが、市民にとっては大いに嬉しい施設となっているに違いない。
さらに、ハンバッ樹木園内の遊具にも興味深いものがあった。座ってペダルを漕ぐと大きなスイングの動きをしたり、シーソーのように上下しながら全体が回転するといった遊具なのだが、当初は、どのようなギアの取り回しになっているのかと頭を捻ることに。しかし、実際にはどちらも電動で、ペダルで発電した電力をモーターに送って、こうした動きを実現していたのだった。
これもまたメンテナンスが大変そうだが、それなりの経年変化も見られるので、設置から何年も経っているようだ。電動にすることで従来にない形や動き、楽しさが生まれるのであれば、こういう方向性もありだと思えた。
最後は、ソウルの街なかで見かけた学校施設の外壁の展示物である。手話のイラストと個々の字が頭につく物事をテーマに子どもたちが描いた絵が並べられていたり、手形が点字とともにカラフルなタイルに焼かれて飾ってあるのだが、これらもインクルーシブな社会をつくる啓蒙活動の一環なのだろう。
特に手形のタイルは、掌を押し当てた跡の凹面のままつくられることが一般的だが、ここでは、それを型としてつくられたと思われる、実物に近い凸面の造形となっていた。それは、これが単なる記念作品ではなく、実際に視覚障碍者が手で触れたときに、手として実感できることを重視したためのようだ。これも、今まで見落としていた視点に気づかせてくれるものだった。
これからも出張先などで気ニナルデザインに遭遇するたび、ここに書き綴っていこうと思う。