屋久島でリジェネラティブ建築を実践した
tonoが設計した「Sumu Yakushima」

「Sumu Yakushima」

現在、企業や個人が深刻化する環境問題を解決しようとさまざまな取り組みを行なっている。環境に優しく負荷をかけないサステナブル(持続可能)な発想もそのひとつだがそれだけでは解決できないことも多い。そこで注目を集めているのが、環境そのものを再生・回復させることを意味する「リジェネラティブ(再生可能)」という言葉である。

デザイナー兼建築家の小野 司が率いるデザインオフィス tonoは、環境との共生を重視する革新的なコンセプト「リジェネラティブ建築」をもとに、単に環境を保全するだけでなく、建築自体が環境を再生させる施設の設計を手がけている。

テラススペース

同オフィスによる鹿児島・屋久島の宿泊施設「Sumu Yakushima」も、リジェネラティブ建築のひとつである。南西諸島にある屋久島は、年間を通じて雨が多く、標高約2,000mの高い山と樹齢1,000年を超える杉の森がある自然豊かな島として知られる。同施設は「住めば住むほど自然が澄んでいく」をコンセプトに島の自然環境を再生・循環させながら、日々の生活のなかで環境と関わり、自然にも人にも優しい豊かなライフスタイルを体験できる場として創設された。

建物の基礎構造は、日本に古くから伝わる土木工法を採用。基礎の下に焼いた杉の杭を打つなど、周囲の植生に働きかけ、土中環境が成熟することで地盤を安定・強化させる設計とした。さらに、太陽光発電と蓄電池によるオフグリットシステムや、高気密、高断熱の省エネ工法など、現代のテクノロジーも組み合わせることで、デザイン性と快適性も確保する。また、地元材を使用し、訪れた人が自然とのつながりを取り戻すきっかけも提供する。

基礎構造イメージ

横長のカウンターやベッドから外の景色を眺めることができるキャビンは、ワークスペースとしても快適に使える。オープンプランのキッチン、リビングとダイニングルームは広々とした造りで、友人同士で食事の用意をしたり、地元の新鮮な食材を使ったケータリングパーティーも可能だ。

ラウンジは、日光が差し込んで内部を照らし、屋外にいるかのように自然とのつながりを感じさせる。部屋の隅には薪ストーブを用意され、寒い季節の島の暮らしにも対応する。また、木々に囲まれた浴室棟には、ファミリーサイズのバスタブを設置されており、ゆったりとお湯に浸かり、窓から太平洋の水平線を眺めながら寛ぎの時間を過ごせる。

キッチンスペース

同建築は現在、完全紹介制での宿泊を受け付けており、一般公開型のプログラム付きツアーも定期的に開催。2024年はインバウンドツアーの受け入れも予定している。End