韓国テジョンの建築事情。
エキスポ後の再開発によって生まれ変わった街

今回は、前回の続編として、韓国で目にした気ニナルアーキテクチャについて書くことにする。ソウルの建築はなくテジョンのみだが、その理由は、たまたま宿泊したホテルが1993年のエクスポ会場跡地のエキスポサイエンスパークに隣接しており、周辺を散策するだけでも興味を惹かれる建物に多く出会ったためだ。これらは、エキスポブリッジとハンビッ塔を除いてエキスポ後の再開発などで建てられたものが大半のようだが、とても新鮮に映ったので、ぜひ紹介しておきたいと思った次第である。

まず、遠くからも見え、間近で確認したいと感じたのは、中央部分が吊り橋状になっているエキスポブリッジという橋だった。交差した2本のアーチからワイヤーが立体的に張られた様子は、見る位置によって形が刻々と変わり、実際に橋の中央部近くまで行って初めて構造の詳細がわかる。ただし、橋脚間のスパンはさほど長くはないため、アーチ部分は荷重を支える役目をある程度果たしつつも、シンボル的な意味合いのほうがが強いようだ。

巨大なガラス張りのDCC2ことテジョン(英語表記ではDaejeon)コンベンションセンター2号棟は、地下2階、地上3階建構造になっており、最大8,000人を収容できる施設である。少しも古びたところがないので調べたところ、これは通商展示ホールがあった場所に2022年に建てられたばかりの新しい建物だと判明した。韓国のトムヌン(漢字では「土門」と書き、土地と建物を意味する)という建築デザイン会社が手がけ、3方向に緩やかにカーブした大屋根によって、躍進するテジョンの姿がシンボライズされている。

同じく、大きく湾曲した屋根と円形のガラス張りの外壁が特徴のテジョン・アーツセンターは、1,500を超える観客席を備えたオペラハウスを内包し、演劇、ダンス、音楽、美術などのさまざまな催しが行われる施設である。大阪万博の太陽の塔にあたるハンビッ塔からエキスポブリッジを渡ったところに位置する、広大なハンバッ樹木園という公園の一角にあり、テジョンの市立美術館と隣り合っている。

もともと農村地帯だったテジョン市一帯は、韓国語で「大きな田畑」の意味の「ハンバッ(한밭)」と呼ばれていたが、日本統治時代に「大田」の漢字があてられ、その韓国語読みが現在の地名となった経緯がある。その意味で、ハンビッ塔やハンバッ樹木園の名称には、かつての通称へのノスタルジアが感じられる。残念ながら市立美術館は改装中で休館していたが、地下のオープンストレージエリアへの入り口となっているキューブ状の地上の建屋が夕陽を反射して美しい光を放っていた。

ウェルツタワーと呼ばれる2連の高層マンションは、外観に連続した凹凸が設けられている。よく見ると、単に装飾的な造形ではなく、出っ張りの上面を上の階のバルコニーとして利用した合理的な構造になっており、それが単調になりがちな高層ビルに個性とリズム感のある表情を与えている。往年のメタボリズム建築の面影も感じるものの、実際にはモジュラー化されているわけではなく、固定化された建築だ。それでも、外壁の意匠と機能性を融合する試みとして興味深いものがある。

最後のゾイマル(ジョイの綴り変えの「ゾイ」と、韓国語で頂点を意味する「マル」を組み合わせた造語で「最高の楽しさ」といった意味)は、ゴルフシミュレーターの開発・販売企業で日本にも進出しているゴルフゾンが、70億円の総工費をかけて1万坪の土地に建設したゴルフのテーマパーク。建物の手前のスペースがショートホールのコースになっているほか、ゴルフ関連設備以外にも、プールや子ども向けのミュージカル劇場などが併設されている。

もしテジョンを訪れる機会があれば、こうした建築巡りをしてみても面白いだろう。次回は、街中の工夫編をお届けする。End