デザインの力で“無理ゲー”課題を乗り越えろ!
新たなイベント「NEURON TOKYO」開催

去る11月1日、東京・六本木のAXISギャラリーで「NEURON TOKYO」(主催:AXIS、TD)という一風変わったイベントが開催された。これは、デザインとその周辺の人々によるネットワーキングと創発の場。ニューロン(神経細胞)のように、個々の想いや新たな情報が刺激となって、それぞれに伝わることで、今までにないプロジェクトやアイデアにつながっていく、そんなきっかけとなる場を目指している。

イベントはゲストによるトークと、ピッチ(プレゼン)大会、懇親会で構成。第1回となる今回のテーマは「デザインの力で“無理ゲー”課題を乗り越える」だ。無理ゲーとは無理難題のこと。私生活や仕事において、われわれはさまざまな無理ゲーに直面している。しかし、デザイナーであれば、そんな無理ゲーを乗り越えてきたはず。

「ぜひ、無理ゲー克服の話を聞かせてほしい。いや、克服できなくても失敗談の中にヒントがあるはず」。そんな主催者からの無理な依頼を受けた企業9社がピッチ大会に参加した。

MIMIGURI 代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹さん。

ゲストはMIMIGURI 代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹さん。イベント冒頭で、「 “無理ゲー”課題の乗りこなし方」をテーマに語ってくれた。安斎さん曰く「人間は誰しも矛盾した欲求を持っている。Aしたい、けど実はBしたい。それが感情パラドックス。例えば、田舎に移住したいけれど、やはり東京にいたいとか。そんなパラドックスが無理ゲーを生んでいる。まずは矛盾を受け入れて、両立する新たなゲームをつくることで、無理ゲーは克服できる」。詳しくは安斎さんの著書「パラドックス思考」を読んでほしい。

さて、安斎さんのトーク後、ピッチ大会には企業9社のデザイナーが参加。それぞれが仕事や私生活で直面した無理ゲーについて語ってくれた。

公平を期すために、イベント冒頭、抽選によってピッチの順番が決められた。

NEC コーポレートデザイン部 大谷京香さん。

NEC コーポレートデザイン部の大谷京香さんは、入社後、デザイン部のミッションとともに、自身の役割も変化。現在はCEOのコミュニケーションデザイン担当チームとしても活動している。「そんなことやったことないよ」という新しい仕事を立て続けに任されるなかで、いま目の前にある仕事から学び、「将来の自分の強みをつくる」ことを新たな価値と考え、無理ゲーを乗り越えていきたいと語った。

富士フイルム デザインセンター 田口 雄さん(左)と今村 響さん。

富士フイルム デザインセンター 小林 寛さん。

富士フイルム デザインセンターからは田口 雄さんと今村 響さん、小林 寛さんが登壇。超小型撮影デバイス「INSTAX Pal」のデザイン開発でのいくつもの無理ゲーを「愛さえあれば無理ゲーは乗り越えられる」という“究極の解”によって打破していった。製品アイデアが斬新すぎて、社内上層部の承認を得るのが難しい場合でも、“愛あるプレゼンテーション”で乗り切った。「まさに愛の結晶ともいえる最新プロダクトです」。

東芝 CPS xデザイン部 本間多恵さん。

東芝 CPS xデザイン部の本間多恵さんが語ったのは、3.11後の福島県のある村の復興支援について。「復興を遂げた未来の村の絵を描いてほしい」という無理ゲーだ。上司からの無茶振り?をいかに乗り切ったかを、ユニークな語り口で語ってくれた。「わからないなら、聞けばいい」というスタンスと類い稀なコミュニケーション力で乗り切ったことが伝わってくる内容だった。

イベント冒頭、参加者全員で乾杯するなど、終始リラックスした雰囲気で進行した。

日立製作所 デザインセンタ 園田幸子さん(左)と吉治季恵さん。

日立製作所 デザインセンタからは園田幸子さんと吉治季恵さんが参加。 「公共性の高いものをデザインするときの無理ゲー攻略」と題して、鉄道車両関連のデザインについて語った。ドア横に立つ人が出入りの邪魔になるという問題をいかに解決したか、コロナ禍の外出自粛している状況で「お出かけを前提としたサービス」の価値を検証するなど、矛盾に満ちた環境下での価値転換の話が印象的だった。

シチズン時計 デザイン部 三村章太さん。

シチズン時計 デザイン部の三村章太さんが語ったのは、無理ゲーに敗北した話。本社敷地内の最古の建造物を保存・活用しようというプロジェクトで、さまざまなステークホルダーとの調整を経て、いくつもの無理ゲーを乗り越えたと思ったら、最後の最後で不測の事態に見舞われ、プロジェクトは中断となる。その理由に対して「わかる〜」と、会場からは共感の笑いが起こっていた。

パイロットコーポレーション デザイン室 神部 萌さん(笑)と岩﨑由紀子さん。

パイロットコーポレーション デザイン室からは神部 萌さんと岩﨑由紀子さんが登壇。「競合商品を打倒するために自社製品の認知度をアップせよ」という無理ゲーに挑んだ。市場シェアぶっちぎりNo.1の競合商品を前に、勝つことよりも、“自社製品だからこそできること”を探したという話。まさに矛盾を受け入れて、新たなゲームをつくり上げるというアプローチだろう。

ブリヂストン プロダクトデザイン室 齋藤圭吾さん(左)と菊地 学さん。

ブリヂストン プロダクトデザイン室の齋藤圭吾さんと菊地 学さんが語ったのはタイヤデザインの独自性について。タイヤという機能製品では性能が第一、性能を出すためにスタイリングが大いに制限されるという矛盾のなかで、どのようにしてデザイン性を上げていくのか。設計者とデザイナーがウィンウィンの関係で動いていくという新たな考え方について紹介してくれた。

JVCケンウッド・デザイン 望月琴未さん。

JVCケンウッド・デザインの望月琴未さんのテーマは「新規事業創出に伴走するインハウスデザイナーの無理ゲー話」。新規事業といっても全く何も決まっておらず、デザイナーへの依頼も漠然としている状況で、活動とアイデアのビジュアライズなどを行っているという現在進行形の話である。しかし、何も決まっていない“0フェーズ”であってもデザインでできることをやることで、少なからずチャンスは舞い込んでくる。話を聞きながら共感して頷いている参加者が多数いた。

本田技研工業 デザインセンター 澤井大輔さん。

最後の登壇者は、本田技研工業デザインセンターの澤井大輔さん。仕事ではなくBBQの話。合格率20%のBBQインストラクター上級検定試験に合格するために、いかに戦略的かつ丁寧に動いたか。生成AIをクリエイティブに活用することで看板レシピを編み出すなど、しっかりとデザインの話になっており、会場からは感嘆の声があがっていた。

スポンサーによるブース展示も実施。

ピッチ大会後はネットワーキング。ふだん交流のあまりないデザイナー同士、若手からデザインのトップまでが柔らかな雰囲気のなかで語りあった。

今回のイベントで印象的だったのは、参加者たちが面白がっていたこと。「無理ゲー」という、少し変わったテーマだったが、それを面白いと感じた人々が集まり、互いの中にあるモヤモヤを共有することで、さらに発想が拡がっていく。そんな可能性を感じさせるイベントだった。

「NEURON」は今後もユニークなテーマのもと、開催地も東京に限らず、日本各地での開催を目論んでおり、インハウスデザイナーだけでなく、スタートアップや大学、自治体など多様な人々を巻き込んでいく予定だ。End