REPORT | ソーシャル / 建築
2023.12.13 12:14
大阪・夢洲(ゆめしま)で国際博覧会「2025大阪・関西万博」(以下、万博)が2025年4月13日(日)から開催される。日本での万博の開催は2005年の「愛・地球博」以来20年ぶりとなる。開催が期待される一方で昨今の社会情勢が影響し、資材の高騰や人手不足が重なり、出展を辞退する国も現れている。そんななか建設費用を自ら負担する「タイプA」で出展するサウジアラビア王国がパビリオンのデザインを公開した。
2020年の「ドバイ国際博覧会」でベストパビリオン部門賞と栄誉賞を獲得した同国がどのような舞台を披露してくれるのか、2023年11月15日(水)に大阪・中之島の堂島リバーフォーラムでプレス関係者を招いて開催されたガラディナーの様子とともにレポートする。
Designing Future Society for Our Lives
――いのち輝く未来社会のデザイン
イスラム教の聖地メッカとメディナを有するサウジアラビアの歴史は数千年におよび、215万k㎡(日本の約5.7倍)の国土で醸成された独自の文化や価値観は旅行客を魅了してやまない。2023年には国際観光客到着数で世界第2位にランクインするほどだ。
そんな同国がどのようにパビリオンひとつで表現されるのか。設計コンセプトや見どころをパビリオン建築担当者である建築・デザイン委員会CEOのスマヤ・アル・ソライマン博士(以下、スマヤ博士)に尋ねた。
「今回のパビリオンのコンセプトは『Designing Future Society for Our Lives』です。国家が掲げているテーマ『活気ある社会』『盛況な経済』『野心的な国家』を象徴するようなパビリオンづくりを目指しました。また、このコンセプトには『統一性』『信頼性』『人間中心』『住みやすさ』『イノベーション』『サステナビリティ』の6つのアイデアを内包しています。パビリオンがサウジアラビアと日本の文化の調和を象徴するものとなり、持続可能な未来や技術進歩にコミットメントできるようにプロジェクトを進めてきました。建築責任者に選ばれたときは光栄だと思う半面、難易度の高いミッションだと思いました。豊かな自然環境と近代的な建築要素を融合させ、サウジアラビアという国をひとつの建物で表現することはひじょうに難しいからです」(スマヤ博士)。
スマヤ博士は建築設計事務所のフォスター+パートナーズと協業することでようやくかたちにすることができたという。
「コンペティションを開催し、10社のなかからフォスター+パートナーズを選出しました。提出された計画が優れていたことはもちろんですが、同社は首都リヤドで最初に建設された超高層ビル『アルファイサリヤセンター』を設計するなどわれわれとは付き合いの長い企業であり、サウジアラビアという国を良く理解してくれていました。デザインテーマは『スーク(市場)』です。発展した都市だけでなく、国内に点在する村(田舎)を感じられるようにつくっています。エントランスをくぐると最初に目にするのは小さな村。そこからまがりくねった道を進むと徐々に都市へと行き着くようにサウジアラビアの今と未来を想像させる設計です。ひとつひとつの建物が集まってやがて村となるように、会場もデザインされています」(スマヤ博士)。
つづけて、スマヤ博士は2025年にパビリオンを訪れる人へメッセージをくれた。
「サウジアラビアを実際に旅行しているように感じてほしい。サウジアラビアの1日を感じられるようにコンテンツを充実させています。カフェやレストランを設け、植栽も多く取り入れることで日陰をつくり、昼間は静かで落ち着くような場所にしていたり、夜になると色鮮やかな照明が広がるエネルギッシュで活動的な場所へと変化するように工夫しています。コンテンツをとおしてサウジアラビアに親しみをもってもらえたら嬉しいです」(スマヤ博士)。
デザインテーマの「スーク」は、商人の街である大阪の文脈にも通ずる。サウジアラビアの市場をイメージさせるように歴史的建築に使われている「アドビ(泥レンガ)」を使った建造物とその間を縫うようにつづく道の演出にも注目したい。また、サウジアラビアは砂漠のイメージが強いが意外にも緑が多い国だというスマヤ博士。パビリオンの壁面にはそうした私たちの知らない同国の魅力的な景色が映し出されるそうだ。訪れた際には壁面にも目を向けてみてはいかがだろう。
五感で体験するアラビアンナイト
ガラディナー会場の四方の壁には、サウジアラビアの夜の風景をイメージした映像が映し出され、まるで静かな砂漠のなかのオアシスにいるような雰囲気が演出されていた。
会場で、ゲストに提供されたのは、サウジアラビアのシェフが腕をふるった4品のコース料理だ(写真撮影が許されなかったことが大変惜しい)。サウジアラビア料理を口にするのがはじめてだった筆者は、スパイシーな味付けを想像していたのだが、やさしい食感と食材の旨味に驚いた。旅といえば、現地でしか食べられない料理に大きな醍醐味がある。ラム肉や南瓜、豆類のペーストなどからなるサウジアラビア料理をパビリオンに併設されるレストランでぜひ食べてみてほしい。料理のペアリングには、豊かな土の香りが楽しいムバッカルウォーターがおすすめだ。
コース料理に舌鼓を打っている間にサウジアラビア・パビリオンのロゴが発表された。日本の書道にインスピレーションを得たアラビア文字とカタカナの「サウジ」がサウジアラビア王国の形をなしたデザインだ。カラーリングは深い緑から黄緑へと移るグラデーションでサウジアラビアの豊かな自然を彷彿とさせるものになっている。筆者は手書き文字のようなデザインが「かわいい」と感じたが、読者の方々はこのロゴにどのような感想を抱くだろう。
民族音楽とダンスのパフォーマンスであるサムリも披露された。アラビアンナイトを連想させる伝統的な音楽とともに男性たちが音楽のリズムにあわせてステップしながら回ったり、拍手でムードを盛り上げる。食事と音楽、サウジアラビアの夜の景色に包まれ、大阪にいながらサウジアラビアを旅しているような体験をすることができた。
この万博、日本にいながら各国を旅行できるとてもお得な機会かもしれない。体験が合わなければ次のパビリオンに移動すれば良いし、気に入ったパビリオンがあれば実際にその国に行くということもできる。膨れ上がる予算や海外パビリオンの建設遅れなど課題は多いが、万博を開催した際の経済波及効果は約2兆円から2兆8,000億円になると試算されており、地域経済の活性化やビジネス機会の拡大などメリットも多い。2025年の開催時にどれだけの国が出展してくれているかはわからないが、サウジアラビアをはじめとする各国の魅力が凝縮されたパビリオンを巡れる日を楽しみに待ちたい。(文/AXIS 西村 陸)