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2023.11.21 19:15
デザイン家具の「旭川」
北海道旭川市は、家具の5大産地のひとつである。他と大きく違うところは、「IFDA(国際家具デザインコンペティション旭川)」を開催するなど、産地全体で新たな家具デザインを追求している点だ。2019年にはユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN)のデザイン分野で加盟が認められた。
加盟が認められた取り組みのひとつに、毎年6月に開催される「Meet up Furniture Asahikawa」がある。旭川家具工業協同組合が主催する家具の展示会で、旭川市のほか、周辺の東川町や東神楽町などの家具メーカー、工房、ショップ、デザイン事務所が参加し、新作を展示する。現在は家具からさらに広い分野へ拡大し、Meet up Furniture Asahikawaと同時期に「あさひかわデザインウィーク(ADW)」が開催されている。(注*)
*注記
Meet up Furniture Asahikawaは2022年からの名称で、それ以前は「あさひかわデザインウィーク(ADW)」だった。現在のADWは家具のデザインにとどまらない、街ぐるみの一大イベントになっている。
デザイナーとメーカーをつなぐコンペ
デザインに新たな風を吹き込み続けるための取り組みが、3年に1度のデザインコンペティション「IFDA(国際家具デザインコンペティション旭川)」だ。1990年にスタートし、来年の「IFDA2024」で12回目を迎える。
「IFDAがなかったら、うちの会社はなかったかもしれないね」。
こう語るのは、IFDA会長であり、東神楽町の家具メーカー「匠工芸」の会長でもある桑原義彦だ。
IFDAでは毎回、応募作品から25点の入選作が選ばれ、さらに金賞、銀賞、銅賞が決められる。これまで、のべ77カ国以上から9,433点にのぼる応募があり、そのうち50点以上が旭川家具として商品化されている。商品化は上位3作品にも入選作品にも限らず、旭川家具工業協同組合の組合員が「自社で開発したい」と希望すれば、応募作品すべてが対象になるという。
「日本のデザイナー、さらには世界のデザイナーにコンタクトを取ることができる。そしてメーカーとデザイナーの提案がうまく合致すればコラボレーションする、というのがIFDAの原点です」(桑原)。
IFDAは旭川家具にとってデザイナーとメーカーをつなぐ大事な役割を果たしているようだ。これはIFDAが設立された時代背景と、現在の旭川家具の原点と大きく関係している。
箱物家具から脚物家具へ
IFDA設立に関わった中心人物のひとりは、カンディハウスの創業者、長原 實だ。長原は若いときに市の研修でドイツに派遣され、戦後の生活環境の変化とともに建築が変わっていく様子を目の当たりにしたという。
建築が変われば、箪笥や食器棚のような箱物家具の需要はどんどん減り、椅子や机などの脚物家具へ変えていかなければいけない。「そのためにはデザインが大事になる」。問屋主導で家具をつくる時代は終わり、デザイナーと質の高いものをつくらなければならないと考えた長原は、世界に旭川という地を発信してデザイナーと商品をつくっていこう、とIFDAを開催したのだ。
当時はまだ旭川の家具工房の60〜70%が箪笥などの婚礼家具をつくっていた時代。先を見据えた長原の決断がどれほど先進的だったか想像に難くない。世界のデザインへの足がかりとしてIFDAを立ち上げた旭川。デザインを誇る旭川家具の原点であり、現在まで引き継がれるスピリットの主軸となってきたのがIFDAなのだ。
歴代の受賞作品
IFDAと旭川家具の、長い歴史が感じられる場所がある。それは旭川家具の中心地ともいえる、旭川デザインセンター(ADC)だ。ADC には、30のメーカーが家具やクラフト製品を販売するブースのほか、企画展やコレクション展を開催するギャラリーがある。
さらに2023年6月のリニューアルオープンでは、旭川家具の歴史やものづくりを学ぶことができるミュージアムと、ワークショップが実施されるラボ、木製雑貨を買うことができるショップが新たに併設された。ミュージアムにはIFDAでこれまで製品化されてきた家具が83種類並んでおり、そのなかには「Twister(ツイスター)」や「Barca(バルカ)」など、旭川家具の技術力の高さや独創性を実感する。
かつてのADCはメーカーのショールームがずらりと並んだような空間だったが、今回さまざまな機能を持つ施設に生まれ変わった。リニューアルの背景には、ADCを旭川家具の産業観光の拠点にしようという狙いがある。
旭川家具工業協同組合の理事長、藤田哲也はこう話す。「産業を観光化するということは、その産業の魅力を引き出して伝える必要があります」。これまでは家具を買おうとしなければデザインセンターに来る機会がなかった。しかし今回のリニューアルによって、子どもと一緒にワークショップに参加したり、旭川家具の歴史を学びに来てもらったりすることができるようになったのだ。
なかでも力を入れているのが「ADCラボ」だ。「大切なのは体験してもらうこと。木にじかに触って、時計やノックダウンの椅子をつくったりしてもらえます」。「木育」という考え方をご存知だろうか。これは北海道でつくられた言葉だと藤田は説明する。道庁のサイトには「子どもをはじめとするすべての人が『木とふれあい、木に学び、木と生きる』取り組み」と記している。小さい頃から家具産業に興味をもってもらうことで人材育成にもつながる。藤田は、ADCがその一環となるべく、観光客のみならず、市民が有効に活用する場になることを目指している。
自分たちの家具をさまざまな空間に並べたい。
WOW × 平山真喜子、平山和彦
「IFDA 2021」で商品化が実現した4組のデザイナーと工房に話を聞いた。
ケベック友好賞を受賞した「フラットチェア」。デザインを手がけたのは、平山真喜子と平山和彦。商品化でふたりとタッグを組んだのは、旭川のメーカー「WOW(ワオ)」(旧名メーベルトーコー)だ。
受賞したフラットチェアは、シンプルだが端正で、すべてのパーツが華奢に見えながらも強さを備えた美しい椅子だ。
「自分たちの工房でつくれないものをつくりたかった」という言葉通り、個人工房では難しい成形合板の技術を取り入れている。それによって背もたれと座面にしなやかな反りが生まれ、座ったときに体にフィットする、フラットな印象の椅子を実現した。また、先端にいくほど細く削った脚部が、より軽やかな印象を与えている。
成形合板は、単板や突板と呼ばれる無垢材を薄いシート状にスライスしたものを複数枚重ねて型にはめ、熱を加えながらプレス加工をしてつくられる。ワオでは熱を加える設備は有しておらず、大きなプレス機械で半日かけて行われている。
ワオの代表的な商品である「SORAHE(ソラへ)」も、2005年のIFDA受賞作品である。どこの工房も製作に手を挙げず、先代の社長が引き受けたという。しかし当時はまだ、上部にいくほど細くなる丸い支柱などを仕上げられる技術がなく、外部に依頼していた。その後5年ほどかけて自社で製作できるようになり、そこで習得したのが成形合板だった。その技術は11年IFDAの「ハーフチェア」に活かされ、さらに今回のフラットチェアの製作につながった。商品化をきっかけに築いた技術が次の作品との出会いを結ぶという好循環を生み出している。
後編では、「IFDA 2021」で商品化が実現した他3組と、「IFDA 2024」審査員長の藤本壮介さんへのインタビューをお届けします。(文/AXIS 鳥嶋夏歩、写真/萬田康文)
IFDA2024
- 公式サイト
- https://ifda.jp
- 応募期間
- 2023年12/20(水)まで
- 予備審査
- 2024年1月下旬
- 本審査
- 2024年6月18日(火)予定
- 表彰式
- 2024年6月19日(水)予定