9回目を迎えた「日本の道具 眺めのいいもの、馴染むもの」展

松岡ようじ《光のかけら》

1カ月にわたり、LIVING MOTIF1階で開催されている「日本の道具」展。残り数日となったがこの展覧会を振り返ってみたい。

実はこの展覧会は9回目。時期が近づくと来店される方から、開催を確認されることもあるようで、企画協力者として光栄だ。今年は40名・組の作り手が一同に会場に揃った。その中から、今回初出展の皆様をご紹介。

リビング・モティーフ店内の会場の様子

鈎(まがり)一馬

京都で作陶する鈎一馬さんの紅瓷(こうじ)の品々。ご本人は「新しい何か」を生み出すために、基礎となる原料の知識を駆使し、さまざまな挑戦を続けた結果、独自に調合した釉薬と土が反応してこの独特な桃色が生まれたという。不安定だからこそ生まれる美しさというものがある。調合や温度、その他の要素の難しいバランスによって現れる色。

「釉薬で色が付くわけではなく、土との反応で赤みを帯びるから、土から発色したような感じでしょう」と楽しそうに話す。「もちろん中国陶磁や李朝は好きですが、模して文様を描いているわけではありません。ただただ、つけた柄によって変わる微妙な色の深みが見たいだけ」と言う。偶然から生まれたこの色は可能性がまだまだ深く、窯出しのたびに表情を見るのが楽しくて仕方ない。

窯から出立ての作品群。窯に入れる前は真っ白。高貴な香りを漂わせるが、使ってよし、盛って良しだ。

studio SHIMONE

「関東初出店ですよ」と期待に胸膨らませ製作してくださったのはstudio SHIMONEの兵庫出身の西村友幸さん。現在は大阪・富田林の工業地帯の一角に工房を構える。屋号は自らが住んでいた集落の名前をつけた。

インテリアを学んだ学生時代、デザインしたベンチを自分で制作したのが、鉄との出会い。施工などを手伝いながら鉄との付き合いは続いていたが、次第に“叩く“楽しさを感じるようになる。もともと料理好き。食材をとびきり美味しくする蓄熱の良いフライパンを、おいしさを損なわず、使いやすい軽さの厚みを試行錯誤した結果、選んだのは1.6mm厚の鉄板。丸くカットするところから、持ち手を溶接するところまで、すべてひとりで作業する。

工房は至ってシンプル。コークスを燃料にした炉と溶接のためのガス。この工房を訪れるたびに、「100%の手作り」だと、感じる。ただただ叩くのみ。何気ない形だが、味がある。日々の道具はそういうものがいい。

自分が納得する底にするまでの微調整が案外難しいそうだ

竹田亜希子

2021年のこの展示会で、Good Job! Center KASHIBA のキャンドルホルダーが並んだ。福祉施設のメンバーがオイルで仕上げた作品の木部をつくっていたのが竹田亜希子さんだと知ったのは2022年。従事していた工房を独立したばかりだった。元建設会社の社員寮の食堂だったという現在の工房を訪ねた。

体育教師を目指したのち、家具製作の仕事に転向。大量生産の家具工場に違和感を感じた頃、木工旋盤技術である“ウッドターニング”に運命の出会い。工房で旋盤に向かうとあどけなさの残る面影は消え、いきなりアーティストの顔に変わる。回る材木に当てた刃物からスルスルと木が削れ、動きが止まるとエレガントなかたちが生まれている。ライブで図面のない世界だ。

この美しいシルエットはいかにして生まれるのか……と尋ねたところ、「ヨーロッパの柱ばかり写っている本」がきっかけだという。中世の建物の柱を眺めていたら、その要素が自分の感覚にストンと落ちてきて、腑に落ちたらしい。今回は、キャンドルホルダーとコンポートを制作してもらった。一堂に並べた様子はなかなか壮観。ぜひ、直接、ご覧になっていただきたい。

KITAWORKS

岡山・津山で制作をされている木多隆志さん。スタイリッシュな家具の工房は、父の時代は町の鉄工所だった。実家を離れ山暮らしなどもしていくうちに、デザインに興味を持ち、金属と木を使った家具製作を試みるようになる。工場に並ぶ一代では揃えられないほどの加工機械もKITAWORKSの武器だが、何よりも、木多さんの凝り性が作る家具のクオリティーを上げている。

ガラスのシェルフに付けられた美しい真鍮の金具は自作。ウォールキャビネットのガラス板は見えるところは薄く、支えるところは厚い物を選んでいる。このセンスは、こだわりを持つ人に口づてに伝わるようで、「営業したことがない」と本人は言うが、世界的に有名なデザイン集団が関わる宿泊施設やスタイリストなど、ハイセンスな人たちから声がかかり特注を受けることも多い。今回の展示でも「結局はひとつひとつ、つくっているので、サイズの相談などはいくらでものれます」と言ってくださっている。

津山のショールーム。

京都桐箱工芸

明治10年に京都市左京区にて創業の木工所だが、看板すらない。門前に並ぶ桐などの板材が表札がわりだ。桐箱も受けるが、仕事の8割は茶道の関係からの仕事だという。お茶事に使われる「八寸」と呼ばれる酒肴をのせるための盆は、板に切り込みを入れて曲げる「折溜(おりだめ)」という技法。今の便利な生活に迎合せず、本式の無塗装で仕上げている。今回の材料は上質な秋田杉のへぎ板と竹釘で仕上げている。新たに作った桐のキャニスターは蓋を閉じる際、押し込まずとも、乗せるだけにすうっと落ちていく。ぜひ、お店で実際にお試しいただきたい。

松岡ようじ

1967年生まれ、多摩美術大学でガラスを専攻。山梨、静岡、そして今の神奈川県でガラス工房を開設。宙吹き技法だけでなく、ガラスが溜まったような小さな“木の実ピッチャー”は、“ピンブロウ”という技法を使い、底を徹底的に磨くことで透明感が増して見える。型に溶けたガラスを流し込む“ホットキャスト”やさまざまな技法をなんでもさらっとやるも謙遜する、かっこいい作家だ。

小泉硝子製作所

明治45年(1912年)創業時より理化学硝子の製造工場として日本ガラス業界の礎を築いたうちの1社。JIS規格に則り製造する理化学硝子製品は、意匠登録できず「基準通りのもの」をつくるのを絶対とするが、手吹き工場である小泉硝子製作所のガラスは微妙な揺らぎを感じ、規格品ながら味を感じる。

昭和の時代、サイフォンも多く製造し、種子標本瓶である「タコ瓶」は珈琲豆のディスプレイなどにも使われた。アノニマスデザインの潔さは、家の中で、長く相棒として役立つこと、間違いない。耐熱温度差120℃。

TERAS

“刺し子”という日本の伝統工芸技術に特化したブランド。明かりを“灯す”願いを込めて設立された就労支援事業所「TOMOS」companyが、就業支援A型(A型は雇用契約を結ぶ。B型は雇用契約は結ばない、などの違いがある)として立ち上げたのが「TERAS」。

就労支援という言葉に身構える方もいるかもしれませんが、就業者はこの“ちくちく”を心から楽しんでいる。刺し子の作業に向いた人たちがつくっていると気楽に考え、楽しんで使いたい。


桜雲窯

肩書きは「轆轤師」の松田あきこさん。のせる料理が思い浮かぶのは松田さんの食に対する敬意と愛情からか。青春時代は“暗黒時代”だったそうだが、脱出のきっかけは、陶芸家の父。28歳で京都の陶芸訓練校に入学。その後、ろくろで挽いた土を自作の素焼きの型に打ち付けかたちづくる「型打ち」の技術を学ぶため、半ば押しかけで九谷の工房へ。作家として独立した今も、盛岡の工房で、轆轤師として下請けの職人の仕事もこなし、プロとの戦いを続けている。

kochia

デザイン事務所kochia(箒木)を運営する荒木孝文さんの活動は、一言では言い表せない。横浜で生まれ旭川の大学でデザインを学び、京都のデザインショップで商品開発アシスタント、飛騨高山でデンマーク家具の復活や製品開発、旭川に戻りイタリア系ソファ会社で新製品の研究開発や造形試作を担当。現在は、生活道具作家として、またデザイナーとしては、地域資源活用やデザインプロデューサーとして活躍。今回のカッティングボードは旭川地域の森や木工の環境の中から生まれた。

ギャンブレル(腰折れ)屋根と呼ばれる、特徴ある厩舎を工房にするkochiaの荒木文孝さん。

小峠 貴美子

「陶芸がしたい」という想いだけで、信楽に飛び込んだ小峠さん。いきなり工場で仕事を任されるところから陶芸人生は始まったそう。その後、「基礎は学びたい」と瀬戸の訓練校に入学。卒業後、再び工房で働き、34歳で独立。形は、タタラづくりの生地を石膏型に打ち当てる「型打ち」。赤土をベースに、白化粧を施し、絵柄は焼きあがると土に滲み、透明釉に入るヒビが趣を添える。自ら編み出した「滲み」は唯一無二の風情。

米沢 研吾

秋田県角館に生まれた米沢さんが樺細工に興味を持ったのは、工業デザイナー柳宗理への興味からだったそう。宗理の父親の、民藝という世界をつくった柳宗悦が樺細工の指導をしていたことを知る。地元に戻り樺細工の道に入った時に、“名人”と呼ばれる人たちがまだ存命だったことも幸いだった。先達から受け継いだ技術と持って生まれた美への感覚が相まって出来上がった作品は、他とは一線を画した魅力を感じさせる。

「日本の道具 眺めのいいもの、馴染むもの」展

会期
2023年10月6日(金)〜11月7日(火)
会場
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル1F リビング・モティーフ