REPORT | アート / 展覧会 / 工芸
2023.10.11 19:21
のっけからあまり「工芸」らしくない写真だが、実は、今年のGO FOR KOGEIはこんな雰囲気だ。統合監修・キューレータの秋元雄史氏によれば、「物質的想像力と物語の縁起ーマテリアル、データ、ファンタジー」をテーマに、「工芸の枠組みから飛び出し、絵画や現代アートと並行して展示し、相対的に工芸を捉えた」祭典だという。撮影できた作品を中心に今年のGO FOR KOGEI 2023をレポートする。
ヨーロッパの都市では珍しくない風景だが、東京の街のまんなかではコンクリートの岸壁なしの水路を見ることはほとんどない。しかしここ富山では、穏やかな川面のうえに枝を伸ばし揺れる大樹の葉影、音もなくのんびり泳ぐカモの群れ、水門の開閉によって変わる運河の水位といったヨーロッパの街ではよくみられる風景が、街のなかに溶け込んでいる。
水の都ともいわれる富山は、日本海に面し江戸時代からの北前船の中継地として栄え、また治水に長年頭を悩ませてきたこの街は、水を繰ることに長けた街だ。GO FOR KOGEIという工芸の祭典は、展示だけでなく、それをきっかけに北陸という土地の歩んできた歴史や文化を再認識させてくれるのも大きな魅力だ。
2020年から始まったGO FOR KOGEIは、富山、石川、福井の北陸三県という広い舞台に現代の工芸を散在させてみせてきたが、今年は富山の、それも水辺の運河沿いの約5キロメートルの3エリアに集中させている。
工芸といえば金沢に注目が集まりやすいが、富山は金沢よりもコンパクトな市街地で、そこに開催場所が集中したことによって、自分の足で歩いて、または遊覧船や路面電車という、少々ゆっくりした速度の交通手段をつかって見てまわることができる。こうした日常生活のリズムから離れた鑑賞のスピードというのも、今年の魅力のひとつとなっているのは確かだろう。
中島閘門エリアの作品
中島閘門エリアには冒頭の上田バロンの作品の他、絵画や大型作品などが展示されている。
環水公園エリアの作品
1番富山駅に近いエリア。環水公園の屋外の展示のほか、富山県美術館と樂翠亭美術館の2館が展示会場に選ばれている。樂翠亭美術館には焼き物を主とする土に関する作品が集められていて、庭では、野村由香が富山市内の工事で出た残土を神通川の水で溶き、油圧ジャッキで押し出すという作品制作を行っていた。最初に、または最後に観ることをおすすめする。
岩瀬エリアの作品
遊覧船の終着点。富山港に面した宿場町で、港街。旧北国街道沿いにある旧家や老舗に現代アートと工芸が取り入れられた。
この他にも興味深い作品があり、出展アーティストの数は総勢26名。ジャンルも作者も多岐に及ぶ。しかし、工芸といえば、やはり熟練した常人のものとは思えない技巧をじっくり鑑賞したいというのも正直なところだ。
毎回新たな試みを展開してきたGO FOR KOGEI。今後、最近よくある「芸術祭」となってしまうのか、またはまったく違う新たな姿を私たちにみせてくれるのか。来年度は大きな正念場を迎えるだろう。(文/AXIS 辻村亮子)
北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023
- 会場
- 富山県富山市富岩運河沿い(環水公園エリア:樂翠亭美術館他、中島閘門エリア:電タク他、岩瀬エリア:桝田酒造店 満寿泉他)
- 会期
- 2023年9月15日(金)~10月29日(日)
- 時間
- 10:00~16:30(入場は16:00まで)
- 休館日
- 樂翠亭美術館(水曜)富山県美術館(水曜)ほか会期中無休
- チケット料金
- 一般:2,500円、高校生:1,500円(ガイドブック付き)
- 公式サイト
- https://goforkogei.com