ATMOSPHERE(空気感)をデザインすることを目指す、デザイナーでありアーティストの進藤篤

「HAORI」(2023) 

進藤篤は、1991年生まれの現在32歳。企業のインテリアデザイナーであり、デザイナー、アーティストとして個人でも創作活動をしている。今年は新作「HAORI」を国内外で発表し、大きな反響を得た。初出品となった4月のイタリアのサローネサテリテのほか、6月のインテリア ライフスタイルでは、次世代のインテリアデザイン業界を担う若手に贈られるヤング・デザイナー・アワードを受賞し、2024年1月開催のドイツのアンビエンテの招待出展が決まった。近年、ダブルワークをする若手デザイナーが増えているなかで、今、注目が集まる進藤に仕事に対する考えや今後、挑戦してみたいことについて聞いた。

「HONEY」(2021)。富山ガラス工房でガラス作家の和田修次郎との出会いから生まれた。ガラスの反射と屈折を駆使して、蜂蜜の艶やかな美しさを引き出した。

小学生のときにデザイナーになる夢を抱く

子どもの頃から、ものをつくることが好きだった。父親がインテリアやランドスケープの仕事に携わっていたこともあり、詳しくはわからなかったが、デザインやデザイナーという言葉を早くから耳にしていた。家で使う家具や当時、飼っていたウサギの小屋など、家族で一緒にものづくりをすることがあり、その体験を通じて想像していたものが現実の世界に立ち現れることに面白さを感じたという。

小学生のときに将来なりたいもの、夢を書く欄に「プロダクトデザイナー、建築家、インテリアデザイナー」と記し、漠然とそういう道に進みたいと考えるようになった。

「THE TOWER」(2015)。カメラ・オブスクラ(写真機の前身の装置)の原理を利用し、レンズを通して天地が反転した風景が見える作品を制作。今見えているものは何か、気づきを与えることをテーマに考えた。六甲ミーツ・アート 芸術散歩2015の公募大賞準グランプリを受賞。

デザインを総合芸術のように捉え考える

2010年日本大学生産工学部創生デザイン学科に入学。手を動かしてものをつくるための工房と設備があり、新設2年目という新しさに期待して選んだ。授業を離れた個人の作品づくりにも打ち込み、さまざまなデザインコンペに応募したが、最初の頃は落選が続いた。

当初はもの単体を丁寧にデザインすることに注力していたが、それだけでは周囲に影響を与え、世界観を変えるような力が備わらないことに気づいたという。そこでそのものが使われる場やシーン、人との関係性まで考えてつくるようになると、自分が目指していた本来の姿が作品に立ち現れるようになり、コンペに通り始めた。それ以降、プロダクト、空間、環境と、作品を取り巻く「ATMOSPHERE(空気感)」すべてをデザインすること、デザインを総合芸術のように捉え考えることが自身の指針となったと語る。

「THE BOX」(2016)。東京藝術大学大学院の修士制作。人が入れる最小の空間である棺桶をモチーフに、プロダクトと空間の中間領域を探ることを目指した。

もっとものづくりがしたいという思いが高まり、卒業後、2014年に東京藝術大学大学院デザイン専攻に進学。プロダクトや空間に訪れる人を含めた環境全体を手がける空間設計に興味を抱き、在学中にインテリアデザイナーの片山正通が代表を務めるWonderwallをはじめ、いくつかの設計事務所でアルバイトを始めた。

その後、現在勤める内装設計会社を知り、大学院を卒業して2016年に就職。国内外のホテル、オフィス、商業施設などの設計、デザインを担当し、日々、多くの学び得ているという。

「AMAHARASHI」(2021)。富山県高岡市の高岡石材工業と協働したブックエンド。かつて墓石や城壁に活用された、雨晴(あまはらし)海岸にある岩崎石に再び生命を吹き込んだ。

進藤は会社の仕事をしながら、個人活動も続けている。どちらかがメインではなく、自分にとって同等の比重で必要なものだという。「10対10の割合で、両方とも全力で取り組んでいます。インテリア空間、環境、プロダクト、アート的要素など、複数のものが同時並行で進むことで、いろいろなものが複合的につながり、そこから見えてくる表現があったり、それぞれの活動にいい影響を与えていると感じています」。

東京ミッドタウンで開催された企画展「BLINK」(2021)。

転機となった企画展「BLINK」

個人活動では、大学生のときからコンペだけでなく、デザインやアートイベントにも積極的に参加している。2021年の東京ミッドタウンでの企画展「BLINK」は、富山デザインコンペティションへの応募がきっかけだったという。

「富山県を代表するマテリアルには、金属、ガラスなどがあり、すでに多彩なデザイナーが参入しているという状況があります。すごく大きな提案ではないかもしれないけれど、僕は富山の豊かな資源と技術のなかから新たな魅力を掘り起こしたいと考えました」と、進藤は当時の思いを話す。

THE LOOFAH COLLECTIONの「YULA」(2022)。へちま産業と協働し製品化された、アロマスプレーを吹き付けて使用するアロマスタンド。

何度も富山に足を運ぶなかで出会ったのがへちま産業だった。昔は国内に数多くあったヘチマ農家が減少の一途をたどるなかで、同社は40年以上、無農薬栽培によるきめが細かく良質で美しいヘチマをつくり続けている。進藤はヘチマの魅力を再発見し、その軽やかさや涼やかさに光を当て、同社と協働してインテリアアイテムを考えた。そして、富山デザインコンペティションで入選を果たし、商品化を目指すことになった。

富山に行く機会が増え、ほかにもさまざまな職人や素材、技術に出会い、最終的にヘチマ、ガラス、岩崎石の3つの素材を用いた作品をつくり、東京ミッドタウンでの企画展「BLINK」で発表した。「富山での出会いを通じて、自分のデザイン観のなかに地域の素材や技術への興味や関心が高まり、多くの関係者の方の支えと自然の産物に対する恩恵を感じながら、幸せをかみしめる展示になりました」と喜びを語る。また、デザイナーやデザイン関係者からもさまざまな反響を得て、進藤の名が世に出る、転機となる展示となった。

「HAORI」(2023)。光源となる、シェードの内側に設置したスティック状のLEDがシェードの内側を照らし、光だまりが生まれる。

「HAORI」(2023)。食用牛「神戸牛」の副産物から生まれた素材で製作。上品な質感と重量感が高級感を醸す。

「光に羽織をかける」がコンセプト

今年はイタリアのサローネサテリテと日本のインテリア ライフスタイルで、「HAORI」を発表。進藤は、これまで作品を取り巻く「ATMOSPHERE(空気感)」すべてをデザインすることを目指して取り組んできたが、その考え方が大きく花開いた作品となった。これは進藤自身が羽織に袖を通す機会があり、そのときに感じた「晴れやかな着心地のよさ」を照明器具に落とし込んだものだ。光に羽織をかけることによって、内側に生まれた光だまりが空間を豊かに彩り、穏やかで優しい心地いい時間をもたらす。

今回は展示のために、再生利用率の高いアルミニウムや食用牛の副産物の牛革、規格外品をアップサイクルした布など、エシカルな素材を用いて製作したが、シェードのサイズを含めてさまざまな展開が考えられる。現在はプロトタイプだが、今後、製品化を目指していく予定だという。

「U,」(2022)。富山県高岡市の仏具メーカー、佐野政製作所と協働した贈り物ケース。キャンディやジュエリー、花などを入れることができる。

デザインで目指していることを尋ねると、進藤はこう答えた。「宇宙の惑星のように、浮遊している多様なものを探検しながら見つけ、それらをゆるやかにつなげていくのがデザイナーの役割だと考えています。そこから生まれたものに対して、どういうふうに見ても、どう感じてもらってもいいし、どんな使い方をしてもいいというように、余白をもたせたものをつくりたいと思っています」。

今後、挑戦してみたいことは、「神社仏閣や墓のような古来より続く文化と交わるデザインや、ウィンドウディスプレイ、インスタレーション」に加え、同世代のデザイナーと今の時代を映すようなグループ展を開催したいという思いを抱いている。今秋開催のDESIGNART TOKYOでは、オフィシャルエキシビション会場の空間構成とインスタレーションを手がける予定で、2024年1月のドイツのアンビエンテの出品にも期待が高まる。「まだ誰も見たことのない世界を創造してみたい」と、進藤は言う。今後もいろいろな人との出会いをつむぎながら、新しい世界を切り拓いていってほしい。End

進藤篤(しんどう・あつし)/インテリアデザイナー、デザイナー、アーティスト。1991年千葉県生まれ。2016年東京藝術大学大学院デザイン専攻課程修了。同年より、内装設計会社でホテル、オフィス、商業空間等のデザイン、設計に携わる。個人活動では、より無垢な眼差しを起点に、空間、インテリアオブジェクト、アート等、多岐にわたる作品を発表。空間的視点を軸に、生活に密接する事柄や素材の可能性を見つめ直し、それらをゆるやかにつむいでいくことで、新たな価値観と根源的な美を探る活動を行う。