この季節になると暑さに耐えかね、冷たいものや涼しい場所で涼をとりたくなります。エアコンのなかった時代は冬の寒さは火でしのげても夏の暑さには対処できなかったため、食べ物や飲み物のほかに、漢方や薬湯、行水や川遊びなどで、五感を使って暑気払いをしていたようです。
夏を元気に過ごすため 現代も続く風習
今でも、京都では「夏至」の頃を過ぎると神社で行われる神事 「夏越の祓」に向けて境内や鳥居の下には「茅の輪」が設けられ、和菓子店のショーケースには「水無月」が並びます。水無月は、1年の残り半分の無病息災を祈祷して食べる和菓子ですが、その形は、氷室※から切り出した氷をイメージしたものと言われています。氷に見立てられた涼しげなお菓子は、冷蔵庫がなく氷が貴重で入手できなかった時代から今も変わらず多くの人に一時の涼をもたらしてくれます。
目に見えないものから涼をとる
視覚から涼をとることも効果的ですが、聴覚・嗅覚・味覚・触覚をとおして得られる涼もまた風情が感じられます。高く鳴る風鈴の音色に涼しさを感じる方も多いのではないでしょうか。風鈴の起源は中国とされ、魔除けの意味もあり軒先に古くから吊るされていたそうです。
また、ミントのようにスッキリと爽やかな香りや風味でも清涼感を味わえます。これは、ミントに含まれるメントール成分を脳が涼しいと判断するからだとか。同様に夏の気分にぴったりなお香やアロマからも涼しさを感じることができます。
さらに、涼のイメージと結びつく娯楽としてお化け屋敷や肝試し、怪談などがあります。特に怪談は、江戸時代から「暑さを忘れる涼み芝居」として「盆芝居」や 「盆狂言」とも呼ばれ、お盆の頃(旧暦の土用の時期)に上演されていました。怪談話には冷たく暗い場所や水辺などの描写も多く、不気味な雰囲気や怖いストーリーも相まって、外の暑さを忘れてしまうくらいぞっと背筋が凍ります。そんなひと時を求めたくなるのは今も昔も変わらないようです。
感覚を働かせ、記憶や体験イメージをつなげる
今やAIが身近になりました。膨大な情報の中から欲しい情報や答えを高い確度で素早く得られるようになり、その恩恵は大きいと実感します。もちろん瞬時に目的や答えを得ることも必要ですが、欲しい情報や目的に一直線にたどり着けることがスタンダードになったことで、自分自身の内にあるプリミティブな「感覚」を忘れていることに気づくことがあります。じっくり五感を働かせることにより浮かび上がるイメージや意味に気づく力を育てることで、新しい視点や美、さらには幸福につながる要素を見つけることもできるのではないでしょうか。私たちは「色」という人間の五感の大半を占める視覚情報を扱っていますが、目を閉じていても想像できるような色の世界観やストーリーも大切にし、あらゆる感覚へ意識を向けながら色の価値を高めていきたいと思います。