PROMOTION | コンペ情報
2023.04.05 13:53
グッドデザイン・ニューホープ賞は、若い世代の活動支援を目的として公益財団法人日本デザイン振興会が新設したデザイン賞。テーマは「出会いたい。これからの世界をつくる 新しい才能たちと」。応募対象は、学生および新卒者で、在学中に制作したゼミの課題や卒業制作、自主研究などの作品を募る。第2回となる2023年度の応募は、3月17日からスタートした。
本記事では、2022年度の最優秀賞・優秀賞を受賞した8点の選出理由や賞の目的などを、同賞の2023年度審査委員長を務めるクリエイティブディレクターの齋藤精一(パノラマティクス主宰)に聞いた。
学生ならではの柔軟で自由な発想を募る
1957年に設立されたグッドデザイン賞は、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の運動である。これは企業やプロのクリエイターを対象にしたものだが、新設されたグッドデザイン・ニューホープ賞(以下、ニューホープ賞)は、学生および新卒者といった若い世代を対象にしたものだ。クリエイティブな人材発掘とキャリアの蓄積を支援し、デザインを通じた新たな産業および文化の発展に寄与することを目的としている。
ニューホープ賞の創設理由について、齋藤はこう語る。
「グッドデザイン賞は、アイデアが社会実装されていることが基本条件にあります。多様な制約があるなかで一定のボーダーをクリアしてつくられるものなので、それとは違う視点をもつ、既成概念にとらわれず、学生ならではの柔軟で自由な発想から生まれるものにも光を当てたいと考えました。また、社会のなかでデザインへの期待が高まっています。学生時代からデザインの意味を深く理解し、取り組んでいただくことが大事だと考え、賞を新設しました」。
ニューホープ賞は、「物のデザイン」「場のデザイン」「情報のデザイン」「仕組みのデザイン」という4つのカテゴリーで募集する。2022年度は414点の応募があり、そのうち入選は83点、優秀賞は8点、その中から最優秀賞が選ばれた。
学校の課題や研究、自主制作などで取り組んだものであるが、構想だけでなく実証実験を行い、すでに社会実装されているものもいくつかあった。これから応募を考えている方の参考のために、2022年度の最優秀賞・優秀賞を受賞した8点について、10名の審査委員が話し合いを重ねたなかから選出した理由を齋藤に聞いた。
社会から求められる声を形にした「物のデザイン」
「物のデザイン」部門で優秀賞を受賞したのは、香川大学創造工学部創造工学科の松岡芙実による「日常に溶け込んだ1型糖尿病の治療を可能にする外出用インスリン注入器」。「安全性を優先して考えると、従来のペン型に収まってしまいかねない。日常で使うことに焦点を当て生まれた形に学生ならではの柔軟な発想がある」と齋藤は評価した。
同じく「物のデザイン」部門で優秀賞に選ばれたのは、多摩美術大学美術学部生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻の武輪幸之介の「Flick Braille(フリック・ブレイル)」は、「スマートフォンのフリック入力という、デジタルインターフェイスを点字に落とし込んだ思考」が面白かったと評価された。プロダクトの社会実装はなかなか難しいが、2019年度にグッドデザイン賞を受賞した音知覚装置「Ontenna(オンテナ)」は、もともと学生が大学で研究していたものを企業に入社して製品化を実現したという事例もある。1型糖尿病と中途失明者は国内で増加傾向にあり、さらなる研究開発と企業との出会いを期待したいところだ。
「情報のデザイン」部門の優秀賞は、法政大学大学院デザイン工学研究科システムデザイン専攻の桑嶋玄樹の「カム機構による情報記憶メディアを持つ自動演奏型気鳴楽器 「Camgraphone(カムグラフォン)」。「スマートフォンで気軽に音楽を楽しめる時代になったが、音楽が形をもたないものになり、身体性が失われていくなかで、物理性を回帰させるという着眼点」を評価した。
当初は「情報のデザイン」部門へのエントリーだったが、これは「物のデザイン」でもある。このように、近年ますますデザインの定義が広がるなかで、2022年度のほかの応募作品もカテゴリーに収まりきれないほど、バラエティに富んだ内容が揃った。
発想の豊かさに着目して選出した「場のデザイン」
「場のデザイン」部門の優秀賞は、工学院大学工学研究科建築学専攻の新美志織の「都市を停める−工事仮設物を用いて更新し続ける駐車場−」。「近年、増加している大型都市開発に際して、建築を部分的、段階的に補完し変容させながら未来へとつなぐという、これからの都市のあり方を考えた発想」が興味深かったという。
同じく「場のデザイン」部門で優秀賞を受賞したのが、日本大学大学院生産工学研究科建築工学専攻の谷口真寛の「神楽の降下橋 〜峡谷で舞う高千穂夜神楽〜」。「実際に建てられた姿を見てみたいと思わせる、ダイナミックさと、伝統芸能や祭りなどが縮小化していくなかで、新たに場をつくり継承していこうというチャレンジ精神」が評価のポイントになった。
「場のデザイン」部門においても、応募にあたって安全性や建築法などの現実的な問題を一旦、脇において、何よりもまず発想力を大事にしてほしいという。
実行力が高く評価された「仕組みのデザイン」
「仕組みのデザイン」部門で優秀賞に選ばれたのは、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の関口大樹の「アーキテクチャ型遊び場環境の構築プロセスに関する研究」。「構想だけでなく、実際に子どもたちとワークショップをしながら考えていった、その実行力と遊び場の新しい視点」を評価した。関口は子どもの遊び場を手がける設計会社に就職が決まり、今後も引き続き、そのデザインに取り組んでいきたいという。
同じく「仕組みのデザイン」部門で優秀賞を受賞したのは、前田陽汰(慶應義塾大学総合政策学部)、中澤希公(慶應義塾大学環境情報学部)、佐々木雅斗(慶應義塾大学環境情報学部)による「葬想式」。「物理的な身体の終わらせ方と、そこから情報的身体の終わらせ方を考えた発想が興味深く、すでにウェブサイトも実装した、社会のニーズを捉えたビジネス的思考」を評価した。
個人の体験から生まれた最優秀賞作品
最優秀賞に輝いたのは、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科の奥村春香による「第3の家族」。自身の体験をもとに自主制作で取り組んだプロジェクトだ。
選出理由を、齋藤はこう語る。「短期間に4つのサイトを立ち上げ、そのなかでコミュニティが育まれている。その情報デザインのクオリティも全応募作品の中で秀でていました。個人的な課題意識に基づいてものをつくるということが、本来のものづくりのあるべき姿だと改めて気付かされたプロジェクトでした」。
「ピュアな熱意」がものづくりの原動力に
2022年度の受賞作品は、奥村のほかにも、個人の体験から発想されたものが多く見られた。「Flick Braille」の武輪は、実際に中途失明者と知り合い、音で聞くのではなく、本を読みたいという強い想いを聞いたことがきっかけとなり、「アーキテクチャ型遊び場環境」の関口は、保育園を運営する家庭で育ち、以前から子どもの遊び場や社会の仕組みなどに強い関心をもっていたという。「葬想式」の佐々木は、大好きだった祖父を見送る際に何かできないかと考え、親族中から思い出の写真を集めて式場で流し、温かい会にすることができたことがアイデアの原点となった。
すべての受賞作品を振り返って、齋藤はこう語る。
「経済性や合理性などを考えて石橋をたたいて渡るのではなく、それぞれがこういうものをつくりたいというピュアな熱意をもって、一点突破でその熱意を燃料に走り続ける姿勢に心を打たれました。それは僕も含めてデザイナーがどこかに置き去りにしてきた、デザインをするうえで大事な要素だと改めて感じ、ぜひプロのデザイナーの方々にも思い出していただけたらと思いました。そして、こういった個人的な視点を社会的な視点に発展させていく手助けをするのが、ニューホープ賞の意義だと感じています。まだまだ手探りではありますが、日本だけでなく、世界に向けてデザインで解決できるものが若い才能から生まれてくるように、この賞が今後成長していければと考えています」。
受賞者のためのさまざまなサポートを用意
日本デザイン振興会では、受賞者に対してのさまざまなサポートを計画している。プロフェッショナルなデザインの現場の見学会のほか、アプリの「Discord(ディスコード)」を活用して受賞者同士の交流を促す場を設け、地域や学校をこえたつながりを促進し、他分野の知見が出会うことで新たなものづくりへの発展を願っている。
ニューホープ賞の第2回は、3月17日から募集がはじまっている。齋藤はこう言う。「美大だけでなく、情報や化学、医療など、どの学科、どの分野の方もデザインの視点をもっています。自分が取り組んでいることもデザインなのだと気づいていただくことで、さらに多彩な視点の提案が増えることを期待しています。皆さんのピュアな熱意をお待ちしています」。