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2023.03.31 10:00
打ち放しのコンクリートによるストイックな空間に、浮遊するように点在している無数の黒い点。近づいてみると、それらはすべて、スイッチやコンセント、火災報知器といった電気設備で構成されていることがわかる。これらパナソニック製のプロダクトを用いた印象的なインスタレーションが「BLACK LANDSCAPE(ブラックランドスケープ)」だ。
会場のデザインを担当した建築家の佐々木慧とプロダクトを開発したパナソニック・エレクトリックワークス社のデザイナーの近藤高宣に話を聞いた。
2023年3月21日、22日の2日間に、東京・表参道のギャラリースペースSTUMP BASE 1Fで開催されたBLACK LANDSCAPEは、パナソニックが手がける「BLACK DESIGN SERIES(ブラックデザインシリーズ)」のコレクションを紹介する企画展。
部屋のどこかには必ずあるごく身近な存在でありながら、日頃はあまり目立つことのない配線器具をはじめとした電気設備。こうしたアイテムに潜むデザインの魅力を捉えつつ、それがいかに普遍的な風景をつくりだしているかというストーリーを交えて、情感溢れるインスタレーションに昇華させたのは、建築家の佐々木慧だ。
「リノベーションが広く一般的になった昨今では、電気設備を剥き出しにしたスケルトンの事例もたくさん見受けられます。洗練されたフォルムの『BLACK DESIGN SERIES』はディテールが美しく、無駄な凹凸が一切ありません。シンプルな空間に置くと、シルエットがより美しく浮かび上がってきます」と佐々木は語る。
安藤忠雄が設計した表参道STUMP BASE 1Fを会場に選んだことで、コンクリート壁の背景と黒いプロダクト群が絶妙なフュージョンを起こし、インスタレーションがぐっと目のなかに飛び込んでくる。さらに、展示の周囲を巡ると、まるで映像のように次々に景色が変化していくような感覚を抱く。
建築家として、家具デザインから、複合施設、ホテル、住宅、プレハブ建築開発、都市計画まで、国内外でプロジェクトを手がける佐々木にとって、黒色の配線器具や照明器具の登場は、移り変わる現代の暮らしの感覚、建築や空間の捉え方を反映していると言えるのだろうか。
「ショールームのようにプロダクトを整然と並べて見せるよりも、抽象的な風景、有機的な空間のなかで、自由に見ていただき、思い思いの解釈をしていただけるように構成しました。壁や天井に電気設備を埋め込み、空間を整然と見せていた時代を経て、いまや人々は配線器具や配管材にまで意識を向けています。決まりきったライフスタイルや住空間のあり方から一歩進み、もっと自由で、寛容な暮らしを求めるなら、選択肢は多様にあるべき。僕自身も、白一色だった電気設備のあしらいに悩んで、自分で塗装をしてしまったことが何度もあります」。
一方で、長年パナソニックのインハウスデザイナーとしてさまざまなプロダクトデザインに携わってきた近藤高宣は、BLACK DESIGN SERIES登場の背景を教えてくれた。
「佐々木さんがおっしゃるように、リノベーション物件の増加は、空間に対する配線や照明のあり方を大きく変えたと思います。プロダクトを開発する私たちとしても、モノ単体でなく、配線や照明を主役として扱うのか、背景に同化させるのかという空間のなかの役割を意識してデザインしています。既存の白に加え、黒を持つことで、プロダクトが空間デザインの意図に沿う『図=主役』にも『地=背景』にもなれる選択肢をつくりました」。
ひとえに黒といっても、赤みがかったものや、少し青っぽく見えるものなど多様な色味が存在するなか、近藤たちが求める黒はすべての色のなかで明度、彩度が最も低く、環境の影響を受けない「純黒」だ。
「市場にある『純白』とは正反対の存在であることを意識しながら、もっとも彩度、明度ともに深い、純粋な黒を目指しました。最初は、カラーチップから調色を重ねてサンプルをつくりましたが、表面のテクスチャーやプロダクトの形状によって、実際には色が違って見えてしまうことがある。そこで、電気設備が『図や地』になるために、樹脂成型でできる限界の黒を実現することが必要でした。機械による数値測定だけでなく、何人もの社内デザイナーとともに目視でひとつひとつ細かに調整していきました。さらに、光の反射による影響を受けないように、表面には細かなシボ(凹凸)をあしらい、色味を統一しています」と近藤は教えてくれる。
エッジの仕上げや光の当たりかたなど、あらゆるアングルから細かにデザインを構築していったBLACK DESIGN SERIES。これを機に、いまいちど部屋を見渡し、空間と電気設備の関係性に意識を向けてみたい。(文/猪飼尚司、写真/五十嵐絢也)
【プロフィール】
佐々木 慧(ささき・けい)/axonometric CEO、建築家。1987年長崎県生まれ。九州大学卒業後、東京藝術大学大学院修了。藤本壮介建築設計事務所を経て、2021年に独立。2022年Under335 Architecture Exhibitionゴールドメダル賞受賞。現在手掛けているプロジェクトに〈NOT A HOTEL FUKUOKA〉〈2025年日本国際博覧会 ポップアップステージ〉など。
近藤高宣(こんどう・たかのぶ)/パナソニック・エレクトリックワークス社 デザインセンターシニアデザイナー。1973年埼玉県生まれ。東京造形大学卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。インハウスデザイナーとして、配線器具、住宅設備、照明などを手がける。Gマークベスト100、IAUD国際デザイン賞受賞など、受賞歴多数。