この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター 岡田憲明の監修でお届けします。
近年、どの業界においても、お客様が何を企業に期待するのかを巡って変化が起きています。特にサービス産業は、世界経済の成長を牽引する重要な(そして確実に最大の)セクター。この広範なサービス産業に属する多くの企業も、進化し続ける顧客ニーズに対応すべく新たな方法を模索しています。そして今日、サービス産業の多くのサブセグメントが、エンジニアリング、調達、建設、輸送、流通、専門的サービスなどのB2B(企業間取引)市場の活性化を支えています。
そのうえでB2B企業の多くが直面している重要な課題は、お客様に共感していただきながら、いかに自社の価値を適正に伝え、示すかということです。以前のように、ひとつのやり方ですべてのお客様に対応するシンプルなアプローチでは、もはや不十分であることに気づきはじめたのです。
お客様にリーチする最適な方法は?
流動性が高い現代では、未来は不確実で、常に大きな変化が起きる可能性があります。そのため、市場参入戦略も根本から見直すことが重要です。専門用語ばかりの企業スローガンをなくし、もっと明確かつ率直に「お客様にリーチするための最適な方法は何だろうか」という問いを立ててみましょう。
実はその答えは「お客様のところへ会いに行く」という、シンプルかつ本質的な方法です。「アカウントベースドマーケティング(ABM)」の真価が発揮されるのは、まさにこの部分です。
B2B企業にとってのABMとは何か?
frogでは常に、客様の目標達成を支援する最新のツールを探しています。そこで注目しているのがABMです。ABMは、サービス産業をはじめ、その他の産業においても直面するであろう主な課題を解決するための重要なツールのひとつといえます。
ABMとは、価値の高い企業(アカウント)に焦点を絞り、カスタマイズされたマーケティングおよびセールス施策を通してアプローチしていく市場参入戦略のことです。ABMを活用することで、マーケティングチームと営業チームが緊密に連携して、優先すべきアカウントを選択します。それぞれに合わせてカスタマイズした施策でそのアカウントを大事に育て、収益を上げ、関係を強化していくことが可能になります。
つまりABMはマーケティングにおいて、これまでのように広範なオーディエンスへ一律のメッセージを発信するのではなく、特定のお客様に的を絞り、そのお客様により適したコンテンツを作成し、提供する機会を生み出すものなのです。
なぜB2BにABMが重要なのか?
B2Bビジネスにおいて、よりよいカスタマーエクスペリエンス(CX)を実現するために必要なこと。それは、お客様が抱える悩みに共感し、お客様に合わせてカスタマイズされた適切な方法で、意思決定者に直接マーケティングを行うことです。そしてデジタルとヒューマンタッチを適切に組み合わせて、お客様が希望する時間と場所でお客様にリーチできるようにすることです。
ABMを導入することで、よりパーソナライズされた有意義な方法でお客様との関係を育て、お客様をエンゲージする方向へと組織全体の意識をシフトできるようになります。
また、規模の大小にかかわらず、B2B企業では取引の完了までに数カ月かかることも珍しくありません。しかし、一見複雑なB2Bの営業プロセスが、実はwin-winの関係という非常に人間的なものの上に成り立っていることを忘れないでください。
ABMによって価値の高いアカウントに的を絞り、その企業特有のニーズに対してパーソナライズされた各種キャンペーンを実施することで、より簡単に自社の存在を知ってもらい、問い合わせにつなげることができます。マーケティングチームと営業チームが連携することで、チームの垣根を越えてターゲット企業のエンゲージメントをシームレスに引き出すことができ、その結果として見込み顧客や望ましい企業との有益な関係を構築していくことが可能になるのです。
ABMがB2Bビジネスを変革する6つの理由
1. 高い投資収益率(ROI)と事業成果
ABMを導入した企業は、ROIが97%も増加し、獲得したターゲット企業との取引規模は他のチャネルからの取引の2.3倍にのぼっているという報告があります。また、これらの取引成立までの営業サイクルは、ABMを使用していない組織よりも平均で30日以上短くなっています。戦略的にリソースを投入し、価値の高い見込み顧客に的を絞ることで営業プロセスを迅速化でき、新規顧客の獲得や既存顧客の維持をより効率的に行えるようになったのです。
2. 顧客エンゲージメントとロイヤリティーの向上
ABMはマーケティングチームにとって、幅広い層のお客様に一律のメッセージを送るのではなく、目標とする特定のお客様に、より適切なコンテンツを作成するチャンスをもたらします。このように「パーソナライズ」するためには、人間的なアプローチが必要となります。それがひいてはブランドに対する信頼を高め、お客様のエンゲージメントとロイヤリティーの向上につながる強固な関係づくりを可能にします。83%の企業が、ABMを活用して得られた最も大きなメリットはターゲット企業のエンゲージメント向上だと回答しています。
3. 時間や費用の効率化
ABMでは、「理想の顧客特性」(ICP)の定義から、ターゲット企業の選定、そして成約に至るまで、すべてのプロセスにおいてマーケティングチームと営業チームとの連携が求められます。社内の連携が強化されると、数値として目に見える利益が生まれます。営業チームとマーケティングチームがうまく連携できている企業では、マーケティングによる収益が208%も増加しています。同一の目標と指標に対する責任を両チームに持たせることで、より質の高いリード(見込み顧客)を獲得し、時間と費用をより効果的に使うことができるのです。
4. 組織内の連携と協働の強化
従来のマーケティングチームと営業チームの関係は、マーケティングチームが“戦略”や“戦術”を駆使してできるだけ多くリードを獲得し、マーケティング活動を通じて有望と認められたリードを営業チームに引き継ぐ。そして営業チームがアウトリーチやコンバージョンを行う、という分業体制になっていました。営業チームは最初のマーケティング戦略には関与せず、マーケティングチームは営業戦略には関与してこなかったのです。しかし、データ駆動型のABMアプローチを成功させるには、これまでのようにマーケティングから営業にバトンタッチして順番に活動するのではなく、両チームが連携し、ターゲット企業のエンゲージメント獲得に向けて協調的かつ継続的に活動していく必要があります。
5. ターゲットに合わせパーソナライズしたコンテンツ
パーソナライズはABM戦略の要であり、ターゲットに合わせた適切なコンテンツとメッセージを準備することは、自社がターゲット企業のニーズを理解し、信頼できるパートナーであることを示す重要なポイントです。しかし、実際のターゲット企業、想定される顧客像(ペルソナ)、あるいは製品やサービス購入に至るまでのプロセスの各ステージにおけるニーズに合わせてコンテンツを作成するには、非常に多くの時間とリソースが必要となります。だからこそ、適切なターゲット設定が重要になってくるのです。
6. 最適なABM用技術スタックの構築
さて、マーケティングチームと営業チームがうまく連携し、ターゲット企業向けにパーソナライズされたコンテンツを作成するところまではできました。そこで最後に残るパズルのピースは、マーケティングチームができるだけ多くのターゲット企業にアプローチできるよう、適切なAMB用の技術スタック(特定の目標を達成するために協働する複数のツールの組み合わせ)を構築することです。通常、企業がすでに保有している既存の技術スタックに、1~3種類の新しいソフトウェアを補うことになります。また、予算が許せば、ABMを効果的にサポートするABM専用ツールを購入してもいいでしょう。
ABMに基づいた技術の意思決定を
以上を踏まえたうえで、もうひとつ忘れてはならない重要なポイントがあります。それは技術に関する意思決定はABM戦略に基づいて行うべきであり、その逆ではない、ということです。ABM施策の中で、自社の事業目標に有効なものだけに集中する(重点を置く)ことが必要なのです。
B2B企業にとってABMというトレンドに乗らない手はありません。ABMアプローチであれば、より明確に的を絞り、ターゲットごとに差別化したマーケティングが可能になります。frogでは、ABMの導入やその他の事業目標の達成に向けた支援を提供しています。ABMに関心のある方はぜひお問い合わせください。