デザイン領域の拡大に伴って、課題解決はさまざまな企業を巻き込んで取り組むことが求められる。そんな共創の時代を見据えて、NTTコミュニケーションズのデザイン部門であるKOELは、組織や企業の枠を超えて活躍するインハウスデザイナー3.0の姿を、社外のインハウスデザイナーとの対話を通じて模索しようとしている。初回は、三井住友銀行 (以下、SMBC)で同行初のデザイナーとして活躍する金澤 洋を迎え、KOELの田中友美子、金 智之の3人が、デザイン組織の立ち上げから社内へのデザインの浸透、インハウスデザイナーのさらなる活躍について聞きました。
インハウスデザイナー像を描き直す
――今回の企画を実施した背景は?
金 智之 最初に少しだけ、KOELの紹介をさせてください。KOELは、NTTコミュニケーションズが2020年4月に立ち上げたインハウスのデザインスタジオ。主に社内のデジタルプロダクトや新規事業などの開発支援をしています。6年前に設立した経営企画部内の「デジタル・カイゼン・デザイン室」が前身です。今回、金澤さんと3人でお話したいと思ったのは、ゼロから銀行のデザインチームを立ち上げた点にシンパシーを感じたから。対話のなかから、新しいインハウスデザイナー像を見つけられるのではと思ったことが動機です。
田中友美子 KOELはさまざまな企業のインハウスデザイナーをつなぐ、コミュニティ醸成に力を入れています。その活動の先にあるのが、「インハウスデザイナー3.0」の存在です。プロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーといった、色や形で表現するスキルを備えた企業のデザイナーを「インハウスデザイナー1.0」、デザインスキルに加え、市場情報や経営情報などを分析するスキルを持った、デザイン思考やプロセスが重視される時代の人材を「インハウスデザイナー2.0」と定義しています。インハウスデザイナーは今後、より経営や事業に貢献できるようになり、社内外の共創を生み出すポテンシャルを秘めていると思います。
金澤 洋 私は、「金融×デザイン」というレアなデザイン領域なら自分の強みを生かせると感じて、2016年に三井住友銀行のデザインチームに初のデザイナーとして入社しました。デザイナーが3人に増えた19年に、チームで関わった「三井住友銀行アプリ」がグッドデザイン賞を受賞。直後にnoteを開設したところ、「なぜ銀行がデザインを?」と話題になりました。今回、私から聞いてみたかったのが、海外でデザインのプロフェッショナルとして働いていた田中さんは、なぜ「KOEL」に?
田中 社会の変化が大きいですね。近年の社会の多様化などによって、インハウスデザインはいわば混迷期にあります。そこに、面白さや可能性を感じていて、大企業でも、デザイナーが提案できる自由度が増しているように思います。これはKOELのメンバーに入社時に渡しているスターターキットで、オリジナルのマグカップなどが入っています。KOELは、立ち上げがコロナ禍に重なったこともあり、出社してメンバーが顔を合わせる機会があまりない。そこで、フィジカルな共通項を持ちたいと考えて、カップをつくろうと考えました。どんな青にするかなど、みんなで話し合って決めたプロセスも含めて、つながりを感じられるアイテムです。小さなことではありますが、自ら起案すればこういうことを実現できるという自由さもまた、KOELに惹かれた要因のひとつ。こうした自由さにこそ、これからのインハウスデザイナーの可能性を感じます。
まずは社内を巻き込んでファンを増やす
――デザイナーが社内、行内で認められるには?
金 まずは、「いいね」と言ってくれる人たちを見つけて、一緒に作業して、成果を出すことを大切にしています。デザインの力をうまく使って、事業貢献をひとつひとつ積み重ねることで、今はあまりいい反応をしない人たちも、ポジティブに変わっていきますね。
田中 一方で、何かを変えるときは、相手の想定外に踏み込むことも重要です。いい人材を集めて、デザイン組織をさらに強くするという目標に対するブレない意思の強さも大事だと思っています。
金澤 三井住友銀行のデザインチームの仕事は、社内の近くにいる人たちの信頼を獲得することから始まりました。入社当時の仕事には、ウェブサイトのバナーやポスターのデザインといったもののほか、忘年会の出し物に使う似顔絵描きというのもありました(笑)。
金 私もKOELの前身のデザイン組織では、社内へのデザインの浸透を意識して、自らウェブサイトを制作しました。その際、所属部門のトップからポジティブなフィードバックをもらいました。似顔絵もそうだと思いますが、感性に働きかけるというのは、デザイン組織への理解を促すうえで重要なポイントです。
田中 「巻き込み力」が求められる共創の時代に、金澤さんの似顔絵というスキルが思わぬかたちで生きたというのは面白いエピソードですね。書籍『銀行とデザイン』の出版後、デザインチームへの関心はさらに高まったんじゃないですか?
金澤 そうですね。noteの記事は本当に興味がある人だけが読んでくれた印象ですが、本になったことで、より多くの人に私たちの活動を知ってもらえるきっかけになりました。
インハウスデザイナーのこれから
――どんなデザイン組織を目指す?
金澤 デザインチームの立ち上げからこれまでは、アプリやウェブサイトのデザイン監修が私たちの活動範囲でしたが、最近ようやく、デザイン活動をグループ内に広げていけるようになりました。今、デザインチームには8人のデザイナーがいますが、来年度は10人まで増やす予定で、デザインを行内にさらに浸透させる段階に来ています。今後は、さまざまなスキルを持ったデザイナーが集まった、みんなで教え合ったり、助け合ったりできるチームが理想です。スキルセットは最低限必要ですが、それよりもどんな想いがあるかを重視しています。
田中 KOELが求める人材も、成果物のクオリティが高いことだけでなく、今後、さらに自らや組織を高めていきたいという気持ちがあるかどうか。与えられたお題に返すのがこれまでのインハウスデザイナーでした。ですが、これからは、例えば場づくりなど、状況を紡いでいく力が重視されていく。ひとつの職人性ではなく、さまざまな打ち返しができる人材を求めています。
金澤 私は自分の採用面接のとき、デザイナーだからといってポートフォリオを見てもらっても、デザイナー以外の人には何も伝わらないんじゃないかと思って、自分がこれまでに感動したデザイナーについてプレゼンすることにしました。三宅一生さんから始まって、高校時代にハマった三原康裕。そこからインテリアに興味が広がり、大学前後ではバウハウスやル・コルビュジエに関心を持ったという内容です。
田中 目の前にいる人に、「これは刺さらなさそう」と判断して、新しい提案に切り替える力。インハウスデザインの変革期に必要なのはまさにそれで、共創のファシリテーター役を担うデザイナーにとって、参加者や文脈に合わせて伝え方を変えたり、より響く打ち手に変えたりする力が欠かせません。ただ伝えるのではなく、そもそも何が必要かまでさかのぼって考える姿勢が重視されます。
金 社内を中心に、さまざまなステークホルダーとやりとりしながら難しい課題を解いていくインハウスデザイナーには、そういった能力や引き出しの数も求められますね。
金澤 先日、行内のさまざまな担当者を集めて、カスタマージャーニーマップや時系列に沿って銀行のサービスをマッピングして、不足しているサービスがないかどうかという検討をしました。現状のサービスを可視化して、ユーザー視点化して問題提起するというデザインアプローチによる新規のサービス開発です。今後はさらにその先にある、「使って楽しい」とか、「三井住友銀行のサービスはワクワクする」といった、感性に訴えかけるような水準まで、サービスの質を高められればと思っています。
対談を終えて
今回の金澤さんとの対話を通じて見えてきたインハウスデザイナー3.0の共通項として、「課題そのものを問い直す姿勢」「感性を軸に組織間をしなやかに横につなげて周囲を巻き込んでいく力」、そして、それらふたつを実行するために、ひとつの職人性にとどまらない「ファシリテーター役としてのスキルの応用」という3つの力が挙げられる。
金澤さんや私たちKOELが対象とする、デジタルを切り口とした銀行や通信インフラなど公共的な社会基盤領域のデザインは、人々の暮らしに与えるインパクトが大きく、やりがいがある一方で、デザイナーとして「人とテクノロジー」「人とデジタル」「人とデータ」の関係に対する責任や倫理といった深いまなざしが不可欠である。こうした点も踏まえて、次回は公共、行政分野で活躍する方をゲストに、デジタル変革に伴うインハウスデザイナーの姿勢とアクションというテーマで議論を展開したい。(KOEL田中)
文/廣川淳哉
※この記事はKOEl DESIGN STUDIO by NTT CommunicationsとAXISの企画広告です。
本記事はデザイン誌「AXIS」222号「社会とつながるデザイン教育」(2023年3月号)からの転載です。