先日、4年ぶりに韓国ソウルを訪れた際に、ザハ・ハディドが設計した「東大門デザインプラザ」向かいのファッションビル「メクスタイル」の壁面に設置された、斬新な屋外デジタルサイネージが目に飛び込んできた。以前には見かけなかったため調べたところ、新型コロナウイルス禍中の2022年初夏に登場したようで、おそらくアフターコロナを睨み、先行投資的に導入したものと思われる。
遠目には表面がブロック状に分かれて動いているように見え、当初は日中の視認性を高めた特殊なプロジェクションマッピングと思えたが、近づいてみると驚くような仕掛けが待っていた。なんと、実際にスクリーン面が細かく分割され、そのひとつひとつが独立して前後に動きながら映像を映し出していたのだ。
2021年暮れに新宿駅東口近くに設置された、猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョンは、特定の角度から見たときに擬似的に立体映像のような表示を可能とするものだった。それに対して、こちらは実際にスクリーン自体を物理的に動かすという力技によって、本物の立体(構造)ディスプレイを実現したわけだ。
とはいえ、3D街頭ビジョンが一目で動物や製品が飛び出してくるようなダイナミックな演出が可能なのに対して、「ウエーブスクリーン」と呼ばれるこの方式では、スクリーン自体が動くぶん、映し出されるコンテンツは逆に静的なものになる。映像自体に大きな素早い動きがあると、スクリーンの凹凸を機械的に追従させることが難しくなるためだ。加えて、可動部の多さからそれなりのメンテナンスも必要と思われるが、サイネージを見る角度の制約が少なく、既存の2Dコンテンツもそのまま表示でき、専用コンテンツの制作も比較的楽に行えそうな点がメリットとなるだろう。
実は、3D街頭ビジョンは中国の聯建光電(LianTronics)、ウエーブスクリーンも同じく中国の磐景智造という企業が開発したものだが、単純に解像度や色の再現性を競うのではなく、異なる視点からディスプレイを捉え直そうとする発想は、日本企業にとっても参考になるのではないだろうか。