栃木県益子町を拠点に、領域を横断して活動する秋山亮太

▲「CRACK & SHRINK」(2021)。

アート、クラフト、デザインの領域を横断して作品づくりに取り組む、若い世代が近年、世界各国から生まれている。2019年のDESIGNART TOKYOでの展示作品を見て以来、注目していた秋山亮太もそのひとりだ。現在、個人の活動のほかに、マルチスタンダードというグループでの活動も行い、国内外の展示会で積極的に作品を発表している。今夏、地元の栃木県益子町に工房を開設した。今後、目指していることなど、工房を訪ねて話を聞いた。

▲「CRACK & SHRINK」(2021)。塗料の割れの表情を引き出すために、クラックの起きやすい塗料を配合して制作した。

幼少期の体験から、ものづくりの世界へ

秋山は、栃木県の益子焼や笠間焼で知られる土地に隣接した地域で生まれ育った。親が陶芸家という同級生も多く、家に遊びに行ってよく土いじりやろくろで器づくりをやらせてもらったりした。また、秋山の母方の親戚のほとんどが食に関わる仕事に携わり、料理人の叔父から魚のさばき方を教わったこともあった。

そんな幼少期の体験から、手を使い、何かをつくる仕事につきたいと思うようになり、高校で進路を決める際にデザイナーの仕事を知り、自分の興味があることと結び付いた。そして、いくつか美大を受験するなかでデザインだけでなく、工芸も学べることが決め手となり、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科への入学を決めた。

▲「CRACK & SHRINK」スツール(上)とローテーブル(2022)。

当初、秋山はマスプロダクションのプロダクト(工業製品)の道に進むことを考えていたが、基礎を学ぶ1年目にクラフト(工芸)の科目を多く取り、ガラスや陶磁、木工といった多様な素材に触れ、自分の手を動かしてものをつくる面白さを改めて実感した。2年目に専門コースを選択するタイミングで、デザイナーの山中一宏がインテリアデザインコースの教授に就任。ユニークな課題テーマや、いろいろな素材を使ってものをつくるという評判を聞いて同コースを選んだ。その頃から秋山は課題とは別に作品をつくり始め、東京デザインウィークやニューヨークのデザイン展に出品するようになった。

▲2019年のDESIGNART TOKYOにおいて、AXISビル3Fの共有スペースで展示発表したDraadDの作品。

グループでの展示発表

大学を卒業して2年後、2019年のDESIGNART TOKYOにDraadD(ドラアド)というグループ(平澤尚子、成田雄基、秋山)で作品を発表し、注目を集めた。その中のひとつ、秋山のアイデアによる作品「CRACK & SHRINK」は、収縮やひび割れなどが起きる多種多様な塗料を発泡スチロールに施し、窯で焼いたものだ。「窯の温度、素材の厚みや密度、塗料の配分量や濃度、湿度や気温、空気に触れる時間」などにより、人為的な操作の及ばない偶発的な変化が生まれ、それがそのまま作品の味になる。

その実験から生まれた数々の作品は素材見本のようでもあり、多様な可能性を感じさせる興味深いものだった。現在も秋山個人で実験を重ねながら「CRACK & SHRINK」の制作を続けていて、これまでにトレイやスツール、花器などを生み出した。

▲2021年のDESIGNART TOKYOで展示したマルチスタンダードによる「chopping (チョッピン) 」。木を薪割りの手法で割り、各背を合わせて接着して木の内部をあらわにしたスツール。

2020年には、マルチスタンダードというグループを結成。メンバーは、古舘壮真松下陽亮シン・スダンリー田渡大貴、秋山の5名。みな武蔵美の卒業生であり、各々個人活動をしながら、グループでの作品づくりも行い、それぞれで得たものを相互にフィードバックできればと考えている。

国内外の展示に積極的に出品し、特に2021年のDESIGNART TOKYOでは武蔵美の在校生やアーティストとともに渋谷の廃墟ビル一棟を会場に展示したことが話題になり、その名が広く知られるようになった。今年、田渡が愛媛に、秋山が栃木県益子町に、それぞれ工房を開設。東京在住のほかの3名と互いの工房を行き来しながら創作活動を続けている。

▲益子町のアトリエ。扉やガラス窓、作業台などを自作し、少しずつ手を加えながら工具類も揃えていく予定だ。奥には、「CRACK & SHRINK」などを制作するための大きな窯を置いている。

益子町にアトリエを構える

秋山の益子町のアトリエは、もともと農家が暮らしていた家で、離れに納屋があり、そこを作業場として活用している。昨今、身体感覚を大事にして素材と格闘しながらものづくりに向き合うデザイナーが増えているが、秋山がアトリエを構えた理由も、「手を使ってものづくりができる環境が欲しかったから」と話す。

「やはり手でつくることが大事だと思っています。最初から1分の1サイズでつくっていくことが多いのですが、手を動かして素材を触るなかでデザインのアイデアやタネのようなものが見つかったり、身体を使うことで、自分の日々の生活や住んでいる土地性などがものに吹き込まれて、生きた作品が生まれるのではないかと思っています」。

▲「CRACK & SHRINK」(2021)。異なる塗料を重ね塗りすることで、下地の色が所々に表出して個性的な表情が生まれ、焼き物の花器や美術工芸品のような佇まいを見せる。

ビジネスにつなげるために

秋山のように、アート、クラフト、デザインの領域を横断して活動するクリエイターは、日本でも確実に増えていて、面白い作品も数々生まれている。しかし、そういう作品は日本ではなかなかビジネスにつながらないのが現状だ。みなが閉塞感を抱くなかで、秋山は打開策を模索しているという。

「欧州では、アートギャラリーが展示作品の制作費を援助して若い才能を育てる体制があり、中国や韓国では若いクリエイターの活動を支援する国の政策があります。けれども、日本では僕らのような領域を横断して活動する人の立ち位置は曖昧で、マーケット(市場)も小さい。そこで個人よりも、集団(グループ)で作品を展示発表することで、世間に強いインパクトを与えてアピールできるのではと考えました。それを見て興味をもってくれる人が増えて、マーケットが広がるきっかけにつながればと思っています」。

▲「BTF」(2020)。建築現場にあった鋼材をつなぐための錆加工の美しさに着想を得た。レーザーカッターをコンマ数ミリ単位で設定を変えながら、錆の積層を削ることで多様な柄が生まれる。SOMEWHERE TOKYOで販売。

DraadDやマルチスタンダードの展示は、確かに多くの人にインパクトを与え、興味をもつ人も増えた。しかし、まだ小さな動きでしかない。「これは自分たち個人の問題だけではないので、横(クリエイター)のつながりも大事にしながら、こうした領域の市場全体を拡大する活動や認知度を高める行動など、土壌づくりにも取り組んでいきたい」と、秋山は思いを語る。

▲「BANSO」(2022)。新作のアルミ製の椅子(プロトタイプ)。アルミの特性を考えながら、背の部分を手でひねり素材と格闘して制作した。

これから取り組んでみたいこと

秋山が目指しているのは、新しいものを生み出すこと。「1から10を生み出すのではなく、まったくの0から1をつくりたい」と話す。また、「CRACK & SHRINK」のように長く制作しているものは、時代背景や自分の今いる環境や状況によってコンセプト(考えや思い)が刻々と変化しているという。今年、ものづくりに興味をもった原点と言える地元に戻り、クリエイションに存分に向き合える場を得たことで、これから生み出されていく作品も楽しみである。

今後も制作領域を限定せず、「陶芸やセラミックについてもきちんと勉強したいし、地域に根付いた仕事にも携わりたい」と語り、マスプロダクションの工業製品や家具、空間デザインなどへの興味ものぞかせる。

▲「oozing(ウージン)」(2021)。着色した接着剤がものとものの間からにじみ出ている。ものづくりにおいて、普段は隠される存在である接着材の美しさを表に見せた作品。

今年は海外の展示にも挑み、6月に開催されたミラノデザインウィークでは、秋山個人とマルチスタンダードの作品を発表した。11月には、秋山は上海で個展を、マルチスタンダードはベルリンでの展示を控えている。また、秋山の作品を扱うシボネは、9月にニューヨーク店をオープンした。日本から世界へ視野を広げるなかで、貪欲にチャンスを掴み取っていってほしい。無限の可能性を秘めた、秋山とマルチスタンダードの今後の躍進が期待される。End

MULTISTANDARD「The last As Seen By」

会期
2022年11月11日(金)〜14日(月)
会場
Kant Garage(ベルリン)
詳細
https://www.instagram.com/_multistandard_/

秋山亮太「West Bund Art & Design

会期
2022年11月10日(木)〜13日(日)
会場
介末Craft(上海)
詳細
https://www.instagram.com/ryotaakiyama01/

秋山亮太(あきやま・りょうた)/デザイナー、アーティスト。1993年栃木県生まれ。2017年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。2019年デザイングループ「DraadD」結成、2020年「マルチスタンダード」結成。制作領域は固定せず、素材の成り立ちや時代背景のリサーチを元に、現代的な要素をフィルターにすることで固定化された概念を更新し、新しい関係性や機能を生み出していく過程そのものをアートワークとしている。