NEWS | インテリア
2022.11.04 13:57
「装い/ファッション」というテーマを一貫して探求し、装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で展開している美術家・西尾美也。同氏が「装い」を軸とした共有空間を町にひらくアートプロジェクトが企画され、インテリアデザイナーの鈴木文貴(やぐゆぐ道具店)が空間デザインを行った。
この共有空間は西尾のアトリエ・大学研究室であり、町に開かれた学びの場である。誰しもが装い・アート・生活文化を学んだり、創造的な試みをしたり、裁断や縫製の道具も揃えるなど、市民に開放された場だという。
奈良の古い瓦屋根が続く街並みにぽっこり抜き出たようなビルの最上階で、360°ルーフバルコニーに囲まれている。風と太陽には不自由しない、ちょっと浮かんだ空に近いところという印象で、洗濯物がよく乾きそうなこの場所は「装いの主人」にふさわしいように感じられる。
一方、「装い」の裏側には「脱ぐ」とか「洗濯」して「干す」という行為がある。ルーフバルコニーでは360°全周に洗濯物を干すことができる。「装い」の対義の姿が路上の人々とのコミュニケーションの接点となり、テラスに干された洗濯物が逆説的に建物を「着飾る」ことになる。
出入口階段の上に屋根を架け、完成した作品の展示場とした。服は天日に晒すように展示され、屋根の穴から覗き込んだ人は、顔のすぐ下に置かれた服を試着させられることになるそうだ。
トイレや収納を隠すカーテンは、衣服の腕を剥ぎ取り繋ぎ合わせたものを採用。ネガティブな目隠し感を無くしたもので、「装い」がもつ人の記憶を利用した空間アイデアである。
そのほか、訪問者が着古した服を脱ぎ投入する脱衣穴、ポケットを剥ぎ取り繋いだ裁縫道具入れ、たくさんの人の服の中で着替える試着室、服で装われた段ボール製のスツールなど、西尾の「装い」を軸に空間を構成した。
この場は西尾により「DATSUEBA」と命名。「奪衣婆(だつえば)」はこの世とあの世を分かつ三途の川のほとりで、亡者の服を剥ぎとると伝えられてきた妖怪とされる。また「脱衣場(だついば)」は服を脱いで心身を浄める場に向かう場所である。
まさに「装い」の対局の行為が示されて、訪問者は日常の「当たり前」な「装い」を脱ぎさり、新しい気持ちで物事を始めることになる。