自然を楽しむブティックホテル
「ししいわハウス軽井沢」でのデザイン旅

秋になると、紅葉の名地、長野県軽井沢には多くの人が訪れる。建築家、坂茂によるブティックホテル「ししいわハウス軽井沢」がオープンしたのは2019年。季節の変化を楽しめるこのホテルは、現代建築、デザイン、アート、美食、自然環境との調和を考えてつくられたという。実際に現地を訪れ、その見どころについて、オーナー兼ディレクターのフェイ・ホアンに訊いた。

自然に包まれた建築

中軽井沢に誕生したブティックホテル「ししいわハウス軽井沢 No.1」は、自然そのものを楽しむことをデザインコンセプトにした宿泊施設だ。都会の喧騒から離れた場所に知的な空間をつくりたかったという創業者フェイ・ホアンの依頼を受け、建築家の坂茂は、有機的なデザインを持つホテルを手がけた。木々の間を縫うように設計され、滑らかな曲線が印象的だ。

▲2019年に中軽井沢の地に誕生した「ししいわハウス軽井沢 No.1。

1棟目のオープンから3年、今年の7月1日に、2棟目である「ししいわハウス軽井沢 No.2」が、1棟目のすぐ近くに建てられた。こちらも坂茂による設計で、木造パネル工法が採用され、曲がりくねった天然素材がいたるところで活かされている。設備面では、大きなフォレストテラス付きのレストランとバーが特徴だ。テラスで食事をしながら、四季を堪能できる空間となっている。

▲レストランとバー付きのししいわハウス軽井沢 No.2。

シンプルでサステイナブルなインテリア

建物全体は一貫してシンプルで洗練されている。照明器具やドアハンドル、電気コンセント、家具までほぼすべての要素がししいわハウス軽井沢の「自然そのもの」というコンセプトに合わせてセレクトされた。坂茂を象徴する「紙管」を積み重ねてつくられたランプをはじめ、紙管製のヘッドボード、木製のメモホルダーなど、天然木材をふんだんに使われる室内で木の温もりを体験できる。

▲円形の紙管を積み重ねてつくられた「紙のタリアセン」ランプ。

また、人と人の交流を大切にする「ソーシャル・ホスピタリティ」という、ししいわハウス軽井沢に欠かせない価値観が、空間構成にも表れている。各客室から直接出入りができる共用スペース「グランドルーム」があるほか、自宅のリビングのように団らんできるパブリックスペースがあるなど、ゲスト同士の交流を促す。

▲共用スペースの「グランドルーム」。

▲杉本博司の写真が飾られている。

「このリトリートを、家族や友人たちと再会の場として活用してほしい」とホアン。
「今や、高価な資材や大きすぎる建物を誇示するラグジュアリーホテルは時代遅れです。自然素材やリサイクル可能な素材を用いたサスティナブルなホテルこそ人間には必要です。ししいわハウスは、世の中で求めらている本質的な価値を提供できるホテルを目指しています」と教えてくれた。

インスピレーションを提供

滞在者のクリエイティビティを刺激するようなさまざまな仕掛けも、ししいわハウス軽井沢の特徴だ。各部屋には現代アートの作品が飾られていて、木造の空間とのコントラストをきかせている。さらに、吹き抜けのライブラリーでは、絵画、書籍や写真集などのコレクションが置かれている。

▲ライブラリー

▲レストランに向かう途中に写真作品を堪能。

インスピレーションを与えてくれるのは空間だけではない。ししいわハウス軽井沢が提供する料理は五感にうったえかける。地元長野県の食材を使った料理は、どれも季節に合わせて考えられたもの。そのとき、この場所でしか味わえない旬の食材と繊細な味が、旅を彩る。

▲6皿+デザート、コーヒーのディナーコース(12,000円)。

▲旬の食材を楽しめる朝食。

現代的な和を追求するししいわハウス No.3

これまでの2棟とはまったく異なる「ししいわハウスNo.3」が現在建設中だ。建築家、西沢立衛による同ホテルは、現代的な数寄屋造りを表現することを目指しているという。庭園や茶室、和室など、これまでのししいわハウスとは違った美しさを体験できるだろう。

東京から公共交通で、ほんの1時間。今回の滞在では、軽井沢の秋を存分に楽しめた。(文/AXIS 清水麗子)End