コロナが長引くことで生活や価値観が変化し、多くの人がその影響を実感している日々が続いています。なかでもテレワークや買い物のオンライン化という生活のデジタルシフトにより「時間の使い方」にも大きな影響がありました。
スマホなどのICTを駆使し、時間の有効活用・効率化といった意味で使われる「タイムパフォーマンス」というワードを最近よく耳にします。若い世代を中心に多くの人がこの「タイムパフォーマンス」を重視しており、「飛ばし視聴」「倍速視聴」での視聴や「TikTok」や「Instagramストーリーズ」などの短尺動画が流行しているようです。
その背景には、短い時間にいかに多くの情報コンテンツを利用できるかという意識があり、今後は“~しながら”といった過ごし方を求めて、これまで以上に時間をコントロールし日常生活を高速化したい傾向が高まると予測されています。
便利な家電製品やアプリを取り入れることで、これまで当たり前に要していた工数・作業が省け、隙間時間が生まれる。そのような小さな恩恵により、心と体が楽になったと実感される方も多いでしょう。また、ナビアプリは刻々と変化する道路状況を反映した最短経路を提示し、ドライバーやライダーにとって効率的な移動のサポートとなります。このような時短や効率向上に繋がるツールは、若者だけでなく日々仕事・家事・育児に奔走する世代にも非常に助かるツールとして馴染んでいます。
一方、この夏に筆者は、合理的な短時間移動とは間逆の”非合理的な長時間移動”をしてみました。時短の感覚から離れ、「旅の始まりから終わりまでの時間をどう楽しみ、生かせるか?何か新しい発見があるかもしれない!」そんなことを期待して、北海道までの交通手段には“飛行機”ではなく“カーフェリー”を選び、長い移動時間を楽しむ船旅を行いました。
飛行機は上手く活用すれば、コストパフォーマンス抜群の短時間移動が叶う非常にありがたい手段です。対するカーフェリーは車やバイクなどを乗せることができますが、北海道までのような長距離航路は船内での寝泊りが必要となるくらい移動に時間が掛かります。
カーフェリー船内はホテルのように広く、レストラン・ジム・大浴場・エンタメスペースなどもあり、利用者はそれぞれにスペースを見つけて自由に過ごしていました。
夏の北海道行きフェリーはライダーが多く利用している点も特徴です。ライダーにとって夏の北海道は憧れの地であり、マップを広げながら「どの道を走ろうか。どこでキャンプをしようか」。と思いを巡らせ、上陸を待ちわびる旅への期待感が船内で感じられます。多くの人が移動時間を楽しんでいるようでした。
日頃から移動時間となれば手元のスマホで常に何か情報を追っていることが多いですが、ほぼ電波のない海上では通信手段もなくなるため半ば強制的にスマホは手から離れることに。今回の北海道までの移動所要時間は約16時間。「さて長いぞ、どう過ごそうか・・・」と悩みつつも、窓の外を見ると夕焼けの時刻。
デッキに出て、海上を進む風に吹かれながら夕日をただ眺めるだけのシンプルな時間。何も追わず、考えず、意識せずに過ごしているうちに、心身ともに幸せな感覚で満たされるようでした。この移動中の時間は旅のハイライトの一つとなり、そんな時間をあえてつくって良かったと思います。
直線的・短時間での移動は実に合理的・スムーズでありがたいものですが、時にはゆっくり移動するのも良いものです。ナビ通りに進むだけでなく、相棒のマイカーやマイバイクと共に地図を見ながら自分でルートを考える。脇道を走ったり、キャンプ場で長めの滞在時間を設けてみたり、好天・悪天、暑かった・寒かった、気持ちよかった・辛かった・・・そんな道中での出来事はハプニングもひっくるめてその旅の輪郭として残り、目的地での体験と同じくらい、素晴らしい体験と時間にもなり得る気がします。
移動時間をどう楽しむかは自動運転化に向かう自動車産業でも目下の重要テーマです。自動運転により新たに生まれる車内自由時間。自動運転の合理的な価値に対して、移動中であることを全く感じさせない演出・マテリアル・香り・カラーのような合理性から離れた要素を掛け合わせてみるのはどうでしょう。車内で過ごす人にとっての新たな価値、唯一無二な時間になるかもしれません。
「高速化」という言葉からは、時短・効率化・合理性ばかりに目がいき、目先のことに追われてばかりの忙しない印象を抱きがちです。しかし、これからは時間をコントロール“される側”から“する側”へ意識を変化させ、“自分軸の時間をつくりだすための高速化”ができれば、より自分らしく幸せな時間が生み出せるのではないでしょうか。