この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター 岡田憲明の監修でお届けします。
デジタル時代に重要なのは、テクノロジースタック(※)の透明性と明確性を確保すること
皆さんが新規の代理店やパートナーと仕事を始めるときに、おそらく次の疑問のうち、少なくとも1つについての答えを探すことになると思います。
企業はデジタルファーストの組織になるべく進化し、特定の信頼できるテクノロジーの選択を基盤とする新規企業も生まれています。現在、テクノロジースタックの透明性と明確性を確保することは何よりも重要になっています。
※テクノロジースタック
デジタルシステム・ソフトウエアなどの構築のために使われるツールやアプリケーション、サービスなどを組み合わせたもの。
frogの「テクノロジー実践コミュニティ(CoP:Community of Practice)」では、ソフトウエアの構築方法を完全に透明化し、テクノロジーやソフトウエア開発手法と企業内の他部門との距離を縮めることを目指しています。クリエイティブ志向の技術者集団である私たちは、デジタル技術の絶え間ない進化が広く共有されて理解され、技術戦略を立案する際の参考になれればと考えています。
しかし、現在はテクノロジーが急速に変化し、複数のプロジェクトを同時に進行している方も多いはずです。そんななか、上記のような重要な疑問の答えを素早く簡単に見つけるにはどうすればいいのでしょうか?
そこで役に立つのが、「テクノロジーレーダー」です。
テクノロジーレーダーとは?
テクノロジーレーダーとは、特定のチームや組織の課題に直結する、あるいは、業界全体の視点から重要であると確認されたテクノロジーやツール、手法を収集・整理し、カテゴリー別に分類したリストです。
これらのテクノロジーは役割に基づいてグループ分けされ、レーダー作成時点での成熟度、関連性、使用状況を基準に評価されます。レーダーの中心に近い項目(「ブリップ」とも呼ばれる)ほど、対象の人々に深く理解され多く使用されている、とみなされます。
「レーダーが何を表すようにするか」や「グループ分けや関連性の見せ方をどうするか」は、レーダーを作成するチームの自由です。例えば、「レーダーに取り上げるのはテクノロジーだけ」とする必要はありません。イノベーションなど、さらに広義のテーマを表すレーダーを作成している組織もあります。レーダーを作成する面白さの半分は、そこに取り上げる項目をどのように取捨選択するか決めることにあります。
テクノロジーレーダーの作成から学ぶ4つのこと
frogでは、具体的なデジタル製品の(再)開発や社内プラットフォームの機能構築に先立ちテクノロジーを選定する時に、その指針となる枠組みとして、また推奨される技術の一覧としてテクノロジーレーダーを利用しています。
テクノロジーレーダーを活用すると、次のようなことができます。
情報に基づいた選択をし、学びを強化する:
エンジニアリングチームでは、各プロジェクト間でテクノロジーやエンジニアリングの手法を整合させるのに、このレーダーが役立っています。また、レーダーのおかげで、チームが学んだ貴重な教訓や経験のフィードバックがうながされます。現在、私たちが信頼するテクノロジーの多くはfrog独自のテクノロジーアクセラレータに含められており、社内の各チームは充実したデジタル体験を迅速に構築し、リリースすることができます。
プロジェクトの要件と関係なくレビューや議論を行う場を設ける:
テクノロジーレーダーを作成したことで、特定のプロジェクトの要件に縛られずに各項目についてのレビューや議論を行う場ができました。特に「プラットフォームとデータ」のカテゴリーでは、人によっては全く耳にしたことがないものや、名前しか知らなかったものも提案されました。
また、プロジェクトチームによって意見が分かれる場面もありました。例えば、スタイル付きコンポーネントよりCSSモジュールの方がいい、というチームがったことなどです。この2つは結果的にどちらも「使用中」の枠に入りましたが、今後時間が経過するうちに、こうした意見がどのように変わるかも興味深いところです。
先見性を持ち、戦略的に考える:
テクノロジーレーダーの目的は、レーダー作成時点でのテクノロジーを表すだけでなく、将来を見据えることにもあります。frog社内では、将来のデジタル体験の構築方法をさらに改善できる可能性のある新しいツールやプラットフォーム、手法の提案を積極的に奨励しています。
コミュニティ共通の目標を持つ:
あらゆる人がリモートワークをするようになった近年では、テクノロジーレーダーによって、コミュニティ全体が協力して取り組む共通の目標ができました。このレーダーが、知識や意見を共有したり、誰かの役に立ちそうなものを新たに開発したりする目的でコミュニティにメンバーが集まる理由になっています。
テクノロジーレーダーの作成をお勧めする理由
おそらく皆さんのチームや組織は、選択するテクノロジーを確定し、業務の大部分に共通して採用できる推奨テクノロジーや基準について意見をまとめたいと考えているのではないでしょうか? あるいは、現状のテクノロジースタックについてはしっかり把握していても、今後見込みのあるテクノロジーの発展を追跡する必要があるのでは? だとすれば、手始めにテクノロジーレーダーを作成してみることです。
テクノロジーレーダーがあれば、ソフトウエア開発チームや、技術・IT部門に近い職種の方はその先の仕事がずっとやりやすくなります。とはいえ、レーダーが有用なのは技術部門に限りません。デジタル資産が可視化されれば、そうした手法や知識が社内の他の部門にとっても身近なものになります。
frogのパートナー企業の多くが、自分たちもやってみようと独自のテクノロジーレーダーの作成に乗り出しています。frogは、皆さんと協力しながら、チームや組織のニーズに適した枠組みを共同開発することも可能です。
独自のテクノロジーレーダーを作成する時の3つのポイント
技術コミュニティでテクノロジーレーダーを作成した経験から、次のようにして作成を進めることをお勧めします。
• 社内の技術コミュニティ全体を対象に、短時間のバーチャルワークショップのシリーズを企画。メンバー全員に、使用中や評価中の、あるいは興味があって調査してみたいと思っているテクノロジーや手法を提案するように呼びかけます。
• 提案された各項目の関連性、成熟度、導入状況について、掘り下げた意見交換や健全な議論を行うための場をつくる。
• バーチャル投票システムを使用して、レーダーに含めるテクノロジーと、レーダー作成時点でそのテクノロジーを振り分けるカテゴリーを正式に決定。各項目の位置づけは時間とともに変化していくことに注意が必要です。
テクノロジーレーダーは、実践コミュニティとして、関連性があるテクノロジーと将来予想される状況についての視点を創出するために役立ってきました。
現在では、「プロジェクトXをいま再開するとしたら、前と同じ選択をするか、あるいは別の技術と入れ替えるか?」「このプラットフォームに新しい機能が追加されたらしい。その点を再検討すべきだろうか?」といった疑問が浮かんだときに、どこで答えを探せばいいか迷うことがなくなりました。
frogの現行版のテクノロジーレーダーはリリースされたばかりですが、取り上げている項目の更新に加えて、その体験そのものをどのように進化させていくかについても、すでに多くのアイデアが出てきています。付属のフォームを使って、レーダーの更新版リリース通知の受け取りを登録することもできます。
掲載してはどうかと思う項目や、現行のテクノロジー選択についてのご意見がおありの方は、ぜひお聞かせいただきたいと思います。また、独自のレーダーを作成してみたいと思われる方も、どうぞご連絡ください。frogは、皆さんのテクノロジーレーダー作成とリリースのプロセスをお手伝いさせていただきます。