光で彩る 自分らしさへと導く夜のデザイン

近年、世界各国でナイトタイムエコノミー(夜間経済)への取り組みが進められています。消費の拡大・観光資源の活用・雇用の創出といった効果が見込まれており、日本でも2017年頃から欧米の先進事例に倣い訪日外国人に向けたコンテンツが検討されてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により計画が見直されている状況です。誰もが安心して楽しめることはもちろんですが、日本社会における夜の街に対するネガティブな印象を払拭することも重要な課題とされています。その一方で、昨年実施された平日の夜の過ごし方に関する調査では夜時間の活用に対する潜在的なニーズを示すデータが得られており、コロナ禍以降、終業時間や帰宅時間が早まり時間的な余裕はあるものの、やることがなくてストレスを感じている「帰宅後難民」が増えているそうです。

現在アフターコロナの時代に踏み出す動きが本格化していますが、こうした状況を見ると、夜の時間の過ごし方についてもそのあり方から見直されていくのではないかと考えています。そこで今回は夜の過ごし方に目を向け、新しい夜の風景を彩ってくれそうなプロダクトを調べてみました。

INAX「S600 LINE

2020年THE DEZEEN’S VIRTUAL DESIGN FESTIVALにて披露されたグローバル向けの2つの水回り空間を紹介します。いずれの空間も深い陰影を作るセラミックタイルと、質感をコントロールした白と黒の水まわり製品で構成されており、光と影が織りなす空間美が表現されています。光の空間は全体が繊細な明るさで満たされているのに対し、影の空間では自然光と照明の組み合わせで影の中に淡い光が生み出されています。日本には、全てをさらけ出さず曖昧さを残すことに価値を置く文化があり、人々は煌々と照らされた世界だけではなく、朧な光と翳りが織りなす濃淡の世界にも美しさを見出してきました。その陰翳の世界観を採用することによって影の空間全体で作られた静けさは、一日の終わりにくつろぎを与えて明日への活力を満たしてくれるように感じます。

▲太陽の陽に照らされた、光の空間

▲静寂につつまれた影の空間

INAX Global website:https://www.inax.com/
Instagram:@inax.official

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社「llumiro

これまで屋外照明には、安心安全な歩行環境づくり・景観の向上・娯楽施設やイベントのための感動や発見をもたらす演出といった機能が求められてきましたが、こちらの照明は人の滞在を促すという新たな価値に着目して開発されたものです。ただ周囲を照らすのではなく、ゆっくりと眺めていたくなるような心地のよい光を目指して開発されており、場の用途や雰囲気に合わせて多彩な表情を楽しめるよう4種類の光り方がデザインされています。近年では、広場や文化施設など屋外空間の活用が広がりを見せており、賑わいの演出や人が集いたくなるような空間づくりが重視されていますが、llumiroはその傍で休憩したり会話を楽しんだりと、夜の街で過ごす時間を心地よいものへと変えるポテンシャルを秘めているように感じます。

▲昔ながらのオイルランプのような情緒的な明かりを放つllumiro

▲4種類の光り方:左から順にGradation(降り注ぐ光の明暗)・Core(温かみのある光のきらめき)・Twinkle(星屑のような光の粒)・Line(象徴的な光線の明暗)

Created by Midori Kawano/Manufactured and Distributed by Shiftall Inc./Produced by 100BANCH「RGB_Light

光の三原色の原理を応用することで、普段見ている白い光の中にカラフルな影を映し出すペンダントライトです。専用アプリから操作すれば、影の色や色変化の速度を自由に変えることもできます。夜間使用のみを想定して作られたものではありませんが、モノクロではない鮮やかな影をデザインするという新感覚の照明は、夜の世界を彩り新しい世界観を演出してくれるのではないでしょうか。

▲白い光の中に映し出される色とりどりの影が、様々な場面でエモーショナルな空間を演出する

自動車でもアンビエントライト(車室内を照らす間接照明)や光るエンブレムなどを採用し、昼間とは異なる表情を演出する動きが見られています。その背景には照明技術の進化があると言われていますが、それ以外にも昼間の肩書きを脱ぎ捨て自分らしい時間へと導いてくれる夜に、心地よい空間を提供したいという思いがあるように感じています。私たちも「昼が主役・夜は脇役」といった考えは捨て、陽の光のもとでも夜の暗がりの中でもそれぞれ趣を感じるようなカラーデザインに取り組んでいきたいと思います。End