INTERVIEW | プロダクト
2022.07.12 17:08
その数42本。約8年もの間、シャープのデザイン部門は、デザイン誌「AXIS」にオリジナル広告を出稿しています。約2年毎にテーマを変え、これまでに3シリーズを展開、現在発売中の218号にはシーズン4となる「シャープデザインのある暮らし」の第2弾が掲載中です。
デザイナーなら思わず「あるある」とうなずくデザインの現場エピソードを切り出したシーズン1、自社プロダクトの魅力をこれまでになかった視点から迫ったシーズン2、デザイナーのプライベートな姿を通してシャープデザインのこころを伝えたシーズン3 ――。
AXISでしか目にすることができないシャープデザイン オリジナル広告シリーズは、アイデア出しから撮影計画、コピー検討、レイアウトまで、シャープの4人のデザイナーが担当されています。忙しい合間を縫って広告制作にあたる苦労はありつつも、みなさんそれぞれに本広告の意義とやりがいを感じ、独自の“シャープらしさ”を探求しているそうです。コロナ禍でも続けられたシーズン3、そして今年から新しくスタートしたシーズン4の取り組みについてお話を聞きました。
デザイナーの横顔に迫る
——デザイン部門のオリジナル広告を、「AXIS」に出稿していただいて8年目になります。改めて本広告の制作意図について教えてください。
桑原 私たち4人でつくっているシャープデザイン オリジナル広告は、目的の主軸をデザイナーの採用活動に置いています。デザイナーの採用活動は、シャープ本社の人事部門ではなくデザイン部門が独自に行っていて、AXISの広告もデザイン部門独自の取り組みとなります。
—— >216号で最終回を迎えたシーズン3(20〜21年)は、シャープのデザイナーの素顔に迫ったものでした。広告制作はどのようなプロセスで進めていかれたのですか?
桑原 キャリア採用に力を入れていた時期だったので、仕事だけでなく趣味も充実させている経験豊かなデザイナーの姿を届けたいと考えました。そこでまず弊社のキャリア採用のデザイナーに、趣味や個人の活動についてのアンケートを実施。候補を絞り込んだ後、当人にじっくりヒアリングを行い、私たち4人で撮影場所や撮影カットなどのイメージをある程度固めました。事前に、カメラマンと打合せでコンセプトや画像イメージを共有し、膨大なカットを撮影した後、どの写真を使うか、メインコピーやエピソードをどうするかなどを検討ながら、約2カ月かけて仕上げていきました。
——話を伺うと、雑誌の表紙づくりと似たような印象を受けます。目にした人が瞬間的に理解してくれるような特集タイトルやサブタイトルを決め、視覚的にインパクトのあるビジュアルをどうつくるかに自分たちも毎回苦労するのですが、みなさんはいかがですか。
桑原 私たちの場合はむしろ「どういう意味だろう?」と疑問に思ってその先を知りたくなるようなコピーにすることにこだわっていて、かなりの時間をかけて検討を重ねています。そうすることで、広告の左下に添えたエピソードに興味を持っていただいたり、そこから更に出演デザイナーや広告画像のストーリーに関心を寄せ、QRコードを読み取ってデザイン部門の「ホームページのブログ」にアクセスしていただきたいと考えているんです。シーズン3からは、本広告と連動させたブログもスタートさせて、ウェブでの展開にも力を注いでいます。
等身大の日常の風景を描く
——「AXIS」217号(2022年4月号)からは、シーズン4がスタートしましたね。
桑原 シーズン4では、私たちのプロダクトやサービスを主張するのではなく、シャープの商品によってもたらされる、特別じゃないけれど豊かな生活をお見せしたいと考えました。画面に人はいないけれど、そこに暮らす人の気配が感じられる「リアルな日常」の瞬間を切り取ったような画(え)づくりを心がけています。
——そうした「リアルな日常」を演出するためにこだわったポイントはありますか?
南波 カタログで使われるような整えられた空間ではなく、 生活感のある空間を演出しています。通常のカタログ写真は、モノが少なくきれいに片付いていて、日常の一歩先を行く「憧れの世界」が多いように感じます。でも、シーズン4で描きたいのは、みんなのなかにある心の原風景です。モノは多いし決して片付いてはいないけれど、毎日の営みが感じられるようなものにしたいと考えました。そうした景色のなかにそっと寄り添う自社製品として、「毎日使ってきたんだろうな」と思わせる何年か前のモデルをあえて採用しています。
——シーズン4がスタートしたときに編集部でもちょっとした話題になったのですが、社内の反響はいかがでしたか。
桑原 正直に言うと、良い反応もそうではない反応もありました。「何を見せたいのかがわかりにくい」という意見や「どうして新製品を使わないのか」、「テレビに映り込みがあるなんて」とか……、それだけ類を見ない試みですから当然の反応だと思います。でも、私たちはそこにこそこだわりがあるし、シリーズ全体を通して見ていただくことで納得してもらえると信じています。
朝井 私はシーズン1からずっと本広告に関わっていますが、これまでも社内の賛同を得るのは時間がかかっていました。例えばシーズン2ではプロダクトの一部分に注目していますが、いわゆるヒーローカット(※)ではないこともあって関係者から反対の声もありました。掃除機なのに吸い込み口が写っていなかったりしましたから。
南波 僕らグラフィックデザイナーからすれば、プロダクトデザイナーがこだわっている部分とは違うところに「美しい」と感じる部分があって、そこを伝えたかったんです。それを分かち合うには話し合うしかありませんし、実際にそうしてきました。今まで分かり合えなかったことはありませんよ。
荒木 そんなイレギュラーと思われるようなカットも、今では社内の広告のひとつの表現として用いられたりすることもあって、私たちの活動が社内の刺激になっていることが感じられてとても嬉しく思っています。シーズン4の試みも賛否両論ありますが、挑戦を続けていきたいですね。
独自の目線で“シャープらしさ”を発信したい
——シリーズ4は始まったばかりですが、これからどうなっていくのでしょうか。
朝井 これまでのように家電を中心としたプロダクトだけではなく、シャープが取り組んでいるデジタルヘルスケア製品などの試みも紹介できたらいいなと考えています。
荒木 加えてシーズン4では、引き続き広告の目的の主軸をリクルーティングに置きつつ、ブランディング機能も強化していきたいと考えています。そんな施策のひとつとして、ウェブコラム「Inside Design Stories」を6月からスタートさせました。カタログや製品ページに掲載しきれなかった製品の魅力をお伝えすることを目的に、アイデアから製品がつくられるまでのデザイン開発ストーリーを公開しています。
——広告とウェブの連動などについてよく練られていますし、そうしたコンテンツづくりをすべて内製で対応していることに驚かされます。シャープデザイン オリジナル広告シリーズにおいて、最終的はどんなことを実践したいと考えていますか。
南波 この取り組みではまず、独自の切り口で挑戦できることにやりがいを感じています。私たちの独自の目線がシャープの社内に広がり、ひいてはそれがブランディングやコミュニケーション戦略のひとつの手法として選択してもらえるようになったら嬉しいですね。シャープ全体のトーン&マナーから見るとやや“とがりすぎ”なのかもしれませんが……(笑)。シャープデザインの親しみやすさはきちんと残しつつ、個人的にはむしろもっともっととがった表現を送り出したい。
荒木 私は、長期にわたってシリーズで展開できることにオリジナル広告シリーズの意義を感じています。コミュニケーションにおいては継続こそが大事だと思っているので、毎号それぞれの広告表現ではなく、シリーズ全体を通してシャープデザインが持つ“優しさ”のようなものを伝えられたらいいですね。
朝井 私の夢は、このオリジナル広告から「SHARP」のロゴを取ってしまうこと。つまり、ビジュアルやコピーだけで“シャープらしさ”を表現し尽くせるようになることが究極的な目標です。誌面を見ていると、時に私たちの力では及ばないことを実現している他社の広告を見て羨ましく感じることがあるのですが、一方で「これだけのことを、私たちだけで成し遂げているんだ」と誇りに思います。これからも私たちにしかできない“シャープらしさ”を追求していきたいので、ぜひ期待していてください。