ミラノサローネ国際家具見本市現地レポート2022

2022年6月7日~12日、Salone del Mobile 2022(ミラノ国際家具見本市、以下ミラノサローネ)が開催された。パンデミックの影響で2020年は開催されず、昨年は9月に「スーパーサローネ」というタイトルでイベントが行われた。3年ぶりに開催されたミラノサローネの様子を現地からレポートする。

今年で第60回という節目を迎えたミラノサローネは公式発表によれば173カ国から、1,575社が出展し、来場者は26万人を超えた。パンデミック直後でありながらもその規模と影響力から世界的に人気の高い大規模イベントだということを再認識させた。今年も例年通り、巨大見本市会場RhoFiera Milano (ロー・フィエラ ミラノ)の展示会場と、fuorisalone(フォーリサローネ)と呼ばれるミラノ市内各所での自由展示が行われた。このふたつのイベントの総称が「ミラノデザインウィーク」だ。それではロー・フィエラの会場から見てみよう。

ロー・フィエラ会場


毎年注目を集めるのがサローネサテリテ・アワードという35歳以下のデザイナーを対象とした展示ブース。


企業ブースと比べると自由な発想の新しい作品が多く、今年はサスティナビリティ、環境問題がテーマとなった。
サローネサテリテには各国から約600名のデザイナーが参加しアワードが選ばれる。

サローネサテリテ・アワード


11回目のミラノサローネサテリテ・アワードにはナイジェリア出身のLani Adeoyeの歩行器「RemX」が選ばれた。写真提供 Salone del Mobile Milano

カリモクケーススタディ


カリモク家具がグローバルに展開するKarimoku Case Study(カリモクケーススタディ)。2019年から始まったカリモクケーススタディは「時間に左右されないタイムレスなデザインの美しさ」「自然素材の豊かな表現」「静謐な美への敬意」をテーマに構成されている。


空間デザインはデンマークのデザインスタジオ「ノーム・アーキテクツ」と建築家の芦沢啓治が担当。


「今回は家の中でくつろげるような雰囲気づくりを行った。家具を見せるというよりはリビングの空間を意識して設計している。国産のナラ材を使用し、森林を大切にするというカリモクの理念の元にプロダクトを設計した」と芦沢。


今回はノーム・アーキテクツとチームを組み、そこにカリモクの高い技術力が結びつき、空間をつくっていく過程で家具のアイデアも生まれてきたとのこと。


こちらは京都の龍安寺の靴箱からインスピレーションを得て設計された。釘を使用しない日本古来の技術を取り入れつつ、どこか北欧のテイストを感じる作品。

フォーリサローネ


ロー・フィエラの会場では家具の展示が主流となっているが、ミラノ市内に点在するフォーリサローネではグローバルな多国籍企業がさまざまな展示を行う。展示は家具だけではなくテクノロジー、アート、ファッションなど多岐にわたりミラノサローネの期間はミラノデザインウィークと呼ばれ世界一の規模を誇るデザインの祭典となる。


フォーリサローネのイベントが数多く催される場所として有名なのがミラノのブレラ通りを中心としたブレラ地域だ。中心部から北側に位置し、歴史的な重厚な建物の中にショップが立ち並ぶ、ミラノでもシックな雰囲気を持つ界隈である。

ディオール


そんなブレラ地域の中で一際長い行列を成していたのがパラッツォチッテリオにて行われたディオールメゾンのインスタレーションだ。


等間隔に並べられた椅子にリズミカルにスポットライトが当たる、光と音を組み合わせたインスタレーションは、まるで映像を見ているかのような錯覚に陥る。


インスタレーションを見た後に、会場の舞台へ降りて行き、煌びやかなアート作品に触れるように作品を確かめる参加者。


クリスチャン ディオールが好んだルイ16世様式を再構築した「Miss Dior (ミス ディオール)」と名付けられた椅子は、フィリップ・スタルクの手による。

プラダ


ブレラ美術アカデミーにある国立図書館(Biblioteca Nazionale Braidense)では、PRADA FRAMESと題されるフォルマファンタズマのキューレーションによるシンポジウムが開催された。


プラダとしての展示は行わず、自然、環境問題とデザインとの関係をさまざまな専門家が話合うというトークショー形式。

インテルニ「DESIGN RE-GENERATION」(デザインの再生成)

イタリアを代表するデザイン誌「INTERNI(インテルニ)」は企業とのコラボレーションとして考案した展示を「DESIGN RE-GENERATION」(デザインの再生成)というタイトルで、ミラノ市内各地で行った。「DESIGN RE-GENERATION」は素材と機能によりサスティナブルな新しい生活の価値をデザインを通じて刺激していこうという取り組み。


そのインスタレーションのひとつがブレラにあるマリアテレーザが1774年に建設した歴史的な植物園で行われた「Feeling the Energy」。このプロジェクトでは500メートルの抗菌銅管を使用。


太陽光パネルや、管から噴き出る霧、風が生み出す音などを通じて人々はインタラクティブな持続可能エネルギー生産の形態を発見するという内容となっている。


ミラノ大学の中庭にて行われたピエロ・リッソーニのインスタレーション。「FABBRICA」(工場)と題され、造船所の足場であるパイプを組み立てて構成されている。


同じくミラノ大学構内で行われた「Labyrinth Garden」。塔を中心とした迷路になっており、組み上げられている素材はすべて再生可能なプラスチックが使用されている。


Amazon(アマゾン)による「TheA -mazeGarden」。シンボルである矢印を鏡にしたインスタレーション。

ルイ・ヴィトン


ルイ・ヴィトンはブランド街の中心地と言えるサンバビラ広場にてスタジオ・ロシェルによる展示を行った。14名のデザイナーとのコラボレーション作品である「オブジェ・ノマドコレクション」は、誕生10周年の回帰イベント。

さまざまなルイ・ヴィトンのレザーを使用した定番の作品が展示され、今回は新たに5点の「オブジェ・ノマドコレクション」が追加された。


「コズミック・テーブル アウトドア」ロー・エッジズ


「ベルト・バースツール」アトリエ・オイ


「Blossom Stool」吉岡徳仁


「surface lamp」ネンド(出口付近に展示されたコラボレーションしたデザイナーとコレクションのデザイン画)

RIOS(ライオス)

本誌216号でも紹介したアメリカの設計事務所ライオスが行った展示はSuperbloomという自然現象をコンセプトしている。Superbloomとは干ばつ地や砂漠などに大量に雨が降り、地表に埋まっていた種が一斉に芽を出し、それまで死んでいた土地が一面花園に変わる自然現象のことを指す。会場入り口付近はRain Room、一斉に降り注ぐ雨を表現している。


通路はSprout Room。新芽が開花し始め、繁殖、開花など自然活動のプロセスシュミレーションを表現しつつその先にある場所への期待感を膨らませる。


最後の展示はBloom Roomとされ、壮大な自然が一気に目を覚ましたエネルギーを、音と映像、キャンドルの匂で、より没入感を演出している。


今回の展示を担当したデザイナーEein Williams。

ヤマハ


ヤマハとECAL(スイス・ローザンヌ州立美術学校)との共同展示はミラノ市内のSpazio Orsoで行われた。近年音楽の楽しみ方はパンデミックの影響がさらに拍車をかけてひじょうに多様化している。「Yamaha Sound Machines」と題し、「これからの時代の音楽再生機とは?」を課題に学生達のワークショップから生まれた6つのアイデアのプロトタイプを発表した。


こちらの照明付きのスピーカーはパソコンやタブレット端末などに接続してオンラインでもライブの臨場感を感じられるもの。その他ASMR(自立感覚絶頂反応)と呼ばれるリラクゼーションを目的とした音楽を奏でる専門の機器、などのプロトタイプも展示された。仮想空間やアバターを用いたバーチャル配信など今の時代の若者が求める音楽への新たなアイデアが具現化された展示となった。

TAJIMI CUSTOM TILES


日本のタイルの約9割を生産すると言われる岐阜県多治見市にあるTAJIMI CUSTOM TILESは建材にとどまらないタイルの可能性、独自の釉薬色と形を表現する3人のデザイナーの作品を、かつて印刷工場であったギャラリーAssab Oneを会場に展示した。


こちらの花瓶はフランスのデザイナー、ロナン&エルワン・ブルレックの作品。独特の色合いと形は、タイルという枠を超えた新しい素材の一面が伺える。

トリエンナーレデザインミュージアム


最後に、ミラノが世界に誇るデザインの街としてのシンボルともなっているトリエンナーレデザインミュージアムでの展示を紹介する。


毎年グローバル企業が広大なスペースを使用して多彩なインスタレーションを行うこの会場。今年は1940年代から2000年代までのイタリアのデザイナー、建築家、アーティスト達の作品が整然と立ち並ぶミュージアム的な空間が展開した。

こちらは建築家ジオ・ポンティがカッシーナから1957年に発表したSuperleggera(スーパー軽いという意味)。重量が1 .7キロという非常に軽く、しかも頑丈な構造は当時としては画期的な技術向上のシンボルだった。


その他照明プロダクトで有名なアキーレ・カスティリオーニの代表作なども展示。本当に優れた作品は時間で風化せず、時間を超越して人々に訴える。こうした礎が今日のミラノサローネというデザインの祭典と呼ばれる高い地位を確立させているのだろう。End