FEATURE | グラフィック / フード・食
2022.04.30 10:00
日本各地のデザイナーが手がけた、その地域の店舗やメーカーが販売する商品のパッケージ。必要以上に飾り立てることも、無理に背伸びすることもない。等身大とも言える、地に足がついた存在感が魅力だ。同じ土地に暮らし、近くで日常を共有しているからこそ、そのものの特徴を見事に捉えた、長く愛されるデザインが生まれる。
▼愛媛県
簡素で簡潔で、力強い土着のパッケージ
愛媛県伊予郡砥部町にある協和酒造。地酒「初雪盃」の海外向け商品の瓶や紋、専用箱のデザインやネーミングまでを一貫して担当した高木正人。「初(一)」「雪」「盃」を模したオリジナルの紋は、全体で「盃」の文字を表現。簡素かつ簡潔なパッケージは、コストなどの制限を魅力に変換した、地域らしいデザイン」。
▼鹿児島県
金と紫で装ったラム酒香るどら焼き
「和菓子のなかでいちばんとんがったものをつくろう」と2016年に発売し、今や新定番の「ラムドラ」。梅月堂のデザインを一手に引き受ける大迫祥一郎は、大学卒業後、広告制作会社、ベーカリー勤務を経てデザイナーに。「地方のスモールビジネスをアイデアとスキルで全国区に押し上げられることが、ローカルでこの仕事をする醍醐味」。
▼兵庫県
淡路島に暮らすみかん農家でデザイナー
祖父の果樹園を継ぎ、妻とともに淡路島原産の「なるとオレンジ」の栽培や加工品開発をする一方で、農家を対象にデザイン、ブランディング開発を行う森 知宏。かつて島中で栽培されていた、なるとオレンジを加工した果実の風味を味わえる100%ジュースは、「地元に再び馴染み、親しまれることを期待したデザイン」。
▼岡山県
見て、食べて、遊んでうれしいパッケージ
「現社長が、軸原ヨウスケの弟の友だちだった」ことをきっかけに相談を受け、2016年から山方永寿堂の全パッケージを手がけるコチャエ。「めでたきびだんご 10個入」は、おめでたいものを詰め込んだ晴れの日の土産物。鶴や亀、招き猫にダルマなどが賑やかな、“グラフィック折り紙” を同封した遊べるパッケージデザイン。
▼北海道
地域に根づく馬文化をビール缶に載せて
2020年、北海道で限定発売された「サッポロ黒ラベル」は、札幌在住の野村ソウのデザイン。東京で働いていたがUターン。理由は、飲食店を開く夢を持った幼馴染と、「そのときは自分がデザインをするから」と約束を交わしていたため。帰郷後、10年にその飲食店の店舗デザインを手がけ、13年にSTUDIO WONDERを設立した。
▼富山県
駅の売店でつい手が伸びる愛らしさ
富山出身の堀 道広のイラストを起用した「七福神まんじゅう」は、羽田 純のデザイン&共同開発。2019年、羽田が手がけたキャンペーン広告によって、10日間でどら焼き6万個が売れたことから、デザインだけでなく商品開発などにも携わるように。華やかで縁起が良いという理由で、高岡市に点在する七福神をモチーフとして採用。
▼秋田県
四季を描いてコーヒーを土産物に
「秋田にもっとコーヒー文化を広めたい。秋田土産がコーヒーだっていいじゃないか!」というオーナーの気持ちに共感した澁谷和之。このお土産ひとつで秋田を感じられるように、4面に秋田の春夏秋冬の移ろいを描いたアイスコーヒー。イラストは徳島在住の福田利之が手がけた。画家の藤田嗣治が描いた「秋田の行事」(秋田県立美術館所蔵)へのオマージュを込めて。
▼岐阜県
販売者、開発者と膝を突き合わせて
2014年、地元の同級生3人で起業した石黒公平。「だしブレンド」は、開発者であり「白ごはん.com」を主宰する冨田ただすけの声を、「パッケージを通じて届ける」との意図で制作。「当初、デザインしすぎたパッケージでしたが、冨田さんの手書き文字や抽象的なイラストを取り入れて、冨田さんの柔和さを表現しました」。
▼石川県
金沢町屋の存在感を得意の箱で表現
2015年の北陸新幹線開業を受けて、土産物開発が活発化した金沢。1830年創業の俵屋の「飴ん子(北陸新幹線5周年記念限定パッケージ)」は、紙製品の企画、製造を得意とする松原紙器製作所ならでは。市の指定保存建造物でもある本店の形状や雰囲気を再現したパッケージは、複雑な形状ながら、トムソン抜き後の貼り加工を一度で行えるよう設計するなどコストも抑えた。
▼広島県
故郷のブランドを飾る錦のデザイン
瀬戸内関連の商品は特に、本社がある広島在住のデザイナーに依頼することが多いチチヤス。瀬戸内海に臨むみかん畑を描いたパッケージは、県外の大学で建築を学んだ後、広島に戻ってデザイン事務所を立ち上げたキンモトのデザイン。「地方にこそ、デザインが必要な状況や、デザインする余地は多いと感じています」。
▼熊本県
自慢の新鮮さや品質を飾らずそのままに
海藻の取扱高が全国トップを誇るカネリョウ海藻のフリーズドライスープは、化学調味料不使用。パッケージデザインは、同社マネージャーと10年以上付き合いがあるという松原史典によるもの。なんとも素朴でちょうどいいバランス。「店頭で自然と手に取れるような、誰にでも受け入れられることを意識しました」。
ーー本記事は AXIS210号「超地域密着」(2021年4月号)からの転載です。